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第一章

第52話:イベリコ豚

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「いや、何もネットで高い輸入品を買わなくても、異世界の豚がイベリコ豚と同じだから、どうせ冬前に大量に屠殺するんだから」

 こんな事を口にしてしまった自分を呪うしかない。
 クリスマスケーキにクリスマスチキン、正月の御節料理にカニツアー、異世界の奴隷希望者のための買い出しと、日本にいることが多かった。
 その為異世界の季節と日本の季節に、そこそこのずれが生じている。

 日本では1月も終わろうとしているのに、異世界はまだ初雪から少し経ったくらいで、家畜の豚を殺す前だった。
 そんな時期に、石姫皇女がイベリコ豚を食いたいと言いだした。
 俺も色々とあって虫の居所が悪かったのだろう。
 つい言わなくてもいい事を口にしてしまったのだ。
 
 だってそうだろう、イベリコ豚が美味しいとされているのは、ドングリを食べさせて育てたことが一番の特徴だ。
 後はイベリコ血統をどうこう言うが、長年イベリコ豚と同じ条件で買い続けられている異世界の豚の方が、日本に入ってくる豚よりもいいはずだ。
 なんと言っても異世界で育てられている豚は、国際交流や変な品種改良がおこなわれる前の純血種なのだから。

「だったら広志が料理するのじゃ、異世界では調味料が限られる。
 料理法もこの村では限界がある。
 広志が日本の調味料と料理法で作るのじゃ」

 俺は自分自身の失言を心から呪った。
 肉は塩胡椒で焼いた物が一番美味しいと俺は思っている。
 だから料理はするが、ほとんどが焼き物と炒め物だ。
 だが石姫皇女の望みはそんなモノではすまないだろう。
 イベリコ豚の本場であるスペイン料理に始まって、イタリヤ料理やフランス料理、トルコ料理やロシア料理、中華料理はもちろん南米やアフリカの料理にまで、全部にイベリコ豚を使って美味しい調理法を探し出せというに決まっている。

「まずはこの村の伝統料理から試しましょう。
 なんと言ってもこの村で飼育した豚ですから、この村の人達が一番美味しい料理法を知っていますよ」

 それはそう言ってその場は誤魔化して、急いで出張料理人をネットで探した。
 同時にイベリコ豚専門の輸入代行業者のサイトを探して、料理法を確かめてプリントアウトした。

 イベリコ豚の定番料理が8種
 イベリコ豚の精肉料理が7種
 イベリコの生ハムを使った料理が7種
 イベリコ豚のサラミを使った料理が4種

 その全部を異世界氏子衆の中の料理衆に渡して、1度は俺が試作してみせた。
 とは言っても村で買っている豚には限りがある。
 全部練習段階で使ってしまっては最悪だ。
 だから日本から大量の豚肉と生ハムとサラミを持ち込んで練習してもらった。
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