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第一章

第42話:新たなストレス

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 俺はとても弱い人間で、責任から逃げて生きて行きたいのだ。
 異世界氏子衆を命を預かるなんて、絶対に嫌だった。
 だが見て見ぬふりをして逃げる強さすらないのだ。
 だからやるべき事を悪夢にうなされながらやるしかない。
 少しでも心身に負担がかからないように、金に糸目をつけずに支援する。
 何とかそれができるだけの金が手に入ったのだから。

「女神様、配祀神、この者達の処遇はいかがいたしましょうか」

 自分の心の安寧のために、あまりにも多過ぎる量の食糧や武器を持ち込んだ時に、村長からとんでもない事を言われた。
 やっと氏子衆の安全が何とかなって来たと思っていたのに、俺の想像外のとんでもない事になっていた。

 その元凶の一端に俺が係わっている事は直ぐに分かった。
 一連の戦いで近隣領主達に損害を与えた事で、領内に臨時税が課せられたのだ。
 多くの領民が餓死するか人から奪うかしかない状況に追い込まれていた。
 だがここに来た領民は、人を殺し奪うのではなく奴隷になる道を選んだのだ。
 そんな覚悟を決めた人間を見捨てられる強さ無神経さなど俺にはない。

「わらわは人間の生き死に程度は気にせんから、配祀神に任せる」

 分かっていた事だが、石姫皇女は人間の生き死を全く気にしない。
 この世界を創り統治している神が、人間の生き死になど気にしているはずがない。
 だが俺は無理だ、俺は神ではなく人間なのだ。
 自分が奴隷になる決意をしてまで、家族に食べ物を与えようとしている人間。
 家族一緒に奴隷になってまで、離れ離れにならないようにしている人間。
 俺にとってはあまりに重い事なので繰り返しになるが、人を殺し奪うくらいなら自ら奴隷になる人間を、見捨てられる強さも無神経さも俺にはないのだ。

「まず奴隷希望者に氏子になって女神様を敬う気があるのか確かめろ。
 敬うと誓って境内に入れる者は、氏子に向かえて村内に家を建ててやれ。
 誓わない者と誓っても境内に入れなかった者は、村外の家を建てる権利を与えろ。
 多分数多くの人間が集まるだろうから、村外の新集落の更に外に新たな家を建てさせて、そこを二ノ丸と呼んで濠と木柵で防御するんだ」

 俺が逃げてきた奴隷希望者を受け入れたら、その噂は瞬く間に広がるだろう。
 本当に困っている者、冬の間に餓死するのが明らかな人間が押し寄せてくる。
 そんな本当に困っている人間だけではなく、スパイもやってくるだろう。
 この地の領主だけでなく、近隣の領主も手の者を難民に見せかけて送ってくる。
 いや、領主階層だけでなく、アルフィ以外の商人も手の者を送ってくる。
 それが分かっていても、難民を受け入れなければ俺の心が持たない。
 ああ、また余計に負担が俺の心を蝕んでくる。
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