42 / 63
第一章
第42話:新たなストレス
しおりを挟む
俺はとても弱い人間で、責任から逃げて生きて行きたいのだ。
異世界氏子衆を命を預かるなんて、絶対に嫌だった。
だが見て見ぬふりをして逃げる強さすらないのだ。
だからやるべき事を悪夢にうなされながらやるしかない。
少しでも心身に負担がかからないように、金に糸目をつけずに支援する。
何とかそれができるだけの金が手に入ったのだから。
「女神様、配祀神、この者達の処遇はいかがいたしましょうか」
自分の心の安寧のために、あまりにも多過ぎる量の食糧や武器を持ち込んだ時に、村長からとんでもない事を言われた。
やっと氏子衆の安全が何とかなって来たと思っていたのに、俺の想像外のとんでもない事になっていた。
その元凶の一端に俺が係わっている事は直ぐに分かった。
一連の戦いで近隣領主達に損害を与えた事で、領内に臨時税が課せられたのだ。
多くの領民が餓死するか人から奪うかしかない状況に追い込まれていた。
だがここに来た領民は、人を殺し奪うのではなく奴隷になる道を選んだのだ。
そんな覚悟を決めた人間を見捨てられる強さ無神経さなど俺にはない。
「わらわは人間の生き死に程度は気にせんから、配祀神に任せる」
分かっていた事だが、石姫皇女は人間の生き死を全く気にしない。
この世界を創り統治している神が、人間の生き死になど気にしているはずがない。
だが俺は無理だ、俺は神ではなく人間なのだ。
自分が奴隷になる決意をしてまで、家族に食べ物を与えようとしている人間。
家族一緒に奴隷になってまで、離れ離れにならないようにしている人間。
俺にとってはあまりに重い事なので繰り返しになるが、人を殺し奪うくらいなら自ら奴隷になる人間を、見捨てられる強さも無神経さも俺にはないのだ。
「まず奴隷希望者に氏子になって女神様を敬う気があるのか確かめろ。
敬うと誓って境内に入れる者は、氏子に向かえて村内に家を建ててやれ。
誓わない者と誓っても境内に入れなかった者は、村外の家を建てる権利を与えろ。
多分数多くの人間が集まるだろうから、村外の新集落の更に外に新たな家を建てさせて、そこを二ノ丸と呼んで濠と木柵で防御するんだ」
俺が逃げてきた奴隷希望者を受け入れたら、その噂は瞬く間に広がるだろう。
本当に困っている者、冬の間に餓死するのが明らかな人間が押し寄せてくる。
そんな本当に困っている人間だけではなく、スパイもやってくるだろう。
この地の領主だけでなく、近隣の領主も手の者を難民に見せかけて送ってくる。
いや、領主階層だけでなく、アルフィ以外の商人も手の者を送ってくる。
それが分かっていても、難民を受け入れなければ俺の心が持たない。
ああ、また余計に負担が俺の心を蝕んでくる。
異世界氏子衆を命を預かるなんて、絶対に嫌だった。
だが見て見ぬふりをして逃げる強さすらないのだ。
だからやるべき事を悪夢にうなされながらやるしかない。
少しでも心身に負担がかからないように、金に糸目をつけずに支援する。
何とかそれができるだけの金が手に入ったのだから。
「女神様、配祀神、この者達の処遇はいかがいたしましょうか」
自分の心の安寧のために、あまりにも多過ぎる量の食糧や武器を持ち込んだ時に、村長からとんでもない事を言われた。
やっと氏子衆の安全が何とかなって来たと思っていたのに、俺の想像外のとんでもない事になっていた。
その元凶の一端に俺が係わっている事は直ぐに分かった。
一連の戦いで近隣領主達に損害を与えた事で、領内に臨時税が課せられたのだ。
多くの領民が餓死するか人から奪うかしかない状況に追い込まれていた。
だがここに来た領民は、人を殺し奪うのではなく奴隷になる道を選んだのだ。
そんな覚悟を決めた人間を見捨てられる強さ無神経さなど俺にはない。
「わらわは人間の生き死に程度は気にせんから、配祀神に任せる」
分かっていた事だが、石姫皇女は人間の生き死を全く気にしない。
この世界を創り統治している神が、人間の生き死になど気にしているはずがない。
だが俺は無理だ、俺は神ではなく人間なのだ。
自分が奴隷になる決意をしてまで、家族に食べ物を与えようとしている人間。
家族一緒に奴隷になってまで、離れ離れにならないようにしている人間。
俺にとってはあまりに重い事なので繰り返しになるが、人を殺し奪うくらいなら自ら奴隷になる人間を、見捨てられる強さも無神経さも俺にはないのだ。
「まず奴隷希望者に氏子になって女神様を敬う気があるのか確かめろ。
敬うと誓って境内に入れる者は、氏子に向かえて村内に家を建ててやれ。
誓わない者と誓っても境内に入れなかった者は、村外の家を建てる権利を与えろ。
多分数多くの人間が集まるだろうから、村外の新集落の更に外に新たな家を建てさせて、そこを二ノ丸と呼んで濠と木柵で防御するんだ」
俺が逃げてきた奴隷希望者を受け入れたら、その噂は瞬く間に広がるだろう。
本当に困っている者、冬の間に餓死するのが明らかな人間が押し寄せてくる。
そんな本当に困っている人間だけではなく、スパイもやってくるだろう。
この地の領主だけでなく、近隣の領主も手の者を難民に見せかけて送ってくる。
いや、領主階層だけでなく、アルフィ以外の商人も手の者を送ってくる。
それが分かっていても、難民を受け入れなければ俺の心が持たない。
ああ、また余計に負担が俺の心を蝕んでくる。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
婚約破棄したいって言いだしたのは、あなたのほうでしょ?【完結】
小平ニコ
恋愛
父親同士が親友であるというだけで、相性が合わないゴードリックと婚約を結ばされたキャシール。何かにつけて女性を見下し、あまつさえ自分の目の前で他の女を口説いたゴードリックに対し、キャシールもついに愛想が尽きた。
しかしこの国では制度上、女性の方から婚約を破棄することはできない。そのためキャシールは、ゴードリックの方から婚約破棄を言いだすように、一計を案じるのだった……
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?
リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。
誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生!
まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か!
──なんて思っていたのも今は昔。
40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。
このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。
その子が俺のことを「パパ」と呼んで!?
ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。
頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな!
これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。
その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか?
そして本当に勇者の子供なのだろうか?
没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!
日之影ソラ
ファンタジー
かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。
しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。
ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。
そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。
こちらの作品の連載版です。
https://ncode.syosetu.com/n8177jc/
運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~
日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。
女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。
婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。
あらゆる不幸が彼女を襲う。
果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか?
選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる