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第一章

第40話:氷見温泉郷と食べ歩き

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 俺は日本にいる間は異世界の時が進まない特性を利用して、ハードな異世界で消耗した心身を元に戻すことにした。
 心身症の改善を最優先にして、美味しいモノを食べて温泉を楽しんだ。
 石姫皇女が氷見で寒ブリの鰤トロ食べたいと言ったのを幸いに、氷見温泉郷でゆっくりと心身を休めた。

 露店風呂で潮風に包まれながら、雄大な日本海と水平線に浮かぶ三〇〇〇メートル級の立山連峰の美しい大パノラマを眺め、ゆっくりと身体を真まで温めた。
 連泊して晴れた早朝に露天風呂に入り、「日本の朝日百選」に選ばれているほどの日の出の美しさに酔いしれた。
 徐々に心が回復している事に自分でも気がつくことができた。
 もしかして、石姫皇女は俺のために氷見に来たいと言ってくれたのだろうか。

「わらわはもう飽きたぞ、河豚の卵巣の糠漬けが食べたいぞ。
 本場能登の唐墨も食べに行くのじゃ、早く用意をせい」

 俺の心と頭を覗いたのか、テレビで見て俺が食べたいと思っていた、河豚の卵巣の糠漬けを食べ比べしたいと石姫皇女が言いだした。
 大金が入ったし、配祀神の力で万が一の時にも毒にあたる事はないだろう。
 石姫皇女に対する恩を感じ始めていたし、お金の心配も全くなくなったので、俺は石姫皇女の要求通り食べ歩きすることにした。

 電話とメールで問い合わせと予約をして、余裕を持った旅程を組んだ。
 氷見に近い七尾、珠洲、輪島とそれぞれ二泊三日で連泊した。
 ここでは唐墨を中心に、新鮮な山海の美味しいモノを食べた。
 俺はアルコールが駄目で酒が飲めないのだが、石姫皇女には日本酒を中心にビールや焼酎やワインなどを想いっきり飲んでもらった。

 七尾名物のプリプリで甘い甘海老。
 能登伝統の魚醤、いしり仕立の丸干し烏賊。
 昔ながらに手間暇かけて作られている大門素麺。
 能登島の名物である花まつも
 能登に昔から伝わる方法で野菜や山菜を漬け込んだ灘の長者漬け
 
 十分能登の味と温泉を楽しんだ後で金沢市に入り、伝統の金沢料理を食べるためにひがし茶屋街で四連泊した。
 能登巡りの間にも食べたのだが、ふぐ糠漬け粕漬けの専門店・老舗「安久」で二年間かけて漬けた「ふぐの子」を味わった。
 カニ面とバイ貝を中心に金沢おでんも食べたかったし、何をおいてもズワイガニが食べたかった、食べたいモノがあまりに多すぎた。

 次に佐渡島に渡って、佐渡の山海珍味を味わった。
 石姫皇女は酒処新潟の酒、特に佐渡の地酒を浴びるほど飲んでいた。
 酒のアテは河豚の卵巣の粕漬け「ふくの子粕漬け」が中心だった。
 意外というか、石姫皇女はえご草という海藻を乾燥させてから煮て練った物を固めた「いごねり」に、細く切ったネギと生姜と鰹節のせ、醤油をかけたモノが気に入ったようで、俺に大量のお土産を買わせたうえに、定期的に取り寄せるように命じるほどだった。

 最後に行ったのが福井県の高浜町だった。
 福井県高浜町で作られている、河豚の卵巣を塩や酒粕に漬け込んで毒を抜いた珍味「福のこ」を中心に酒のアテをそろえて、石姫皇女に思いっきり飲んでもらった。
 それはアルコールが駄目なので、食べることに専念した。
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