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第一章

第29話:迎撃の現実

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 全ての迎撃準備が整い、アルフィが拠点とする都市に帰って行った。
 もう少し残ってくれと言いたいのを必死で我慢した。
 もうこれ以上どうしようもない事は、俺自身がよく分かっていた。
 この後の事は氏子衆で何とかするしかないのだ。
 その事は俺以上に氏子衆自身が分かっていた。
 彼らはずっとこの世界で生きてきたのだから、現実の厳しさは俺以上に身に染みて知っていたのだ。

 アルフィが村を離れたその日の夜に、強盗団が村に忍び込もうとした。
 盗賊団に被害が出ない状態で金銀財宝を盗みだしたかったのか、それとも襲撃前に村の中の状態を知りたかったのか、それはもう分からない。
 専門の盗人だと思うのだが、村の猟師が濠を越える前に発見してくれた。
 お陰で事前に射殺すことができた。

 ラノベやアニメのように、日本のモノを食べたら超常の力を備えることができればよかったのだが、そんな事はなかった。
 回復力が高まって、ケガが信じられない早さで治る事もなかった。
 食糧はあくまで食糧でしかなく、武器も聖なる武器になることなく、普通の武器としての効果しかなかった。

 朝になって村の周囲を偵察したら、5人の盗賊が死んでいた。
 軽装だったので、忍び込みの専門家だったのだろう。
 村長の話では、今晩強襲を仕掛けてくるだろうとの話だった。
 氏子衆全員が同じ意見なのか、夜の強襲に備えて交代で仮眠をとっていた。
 更に握り飯を作り温かい具沢山スープも用意されていた。

 残虐な現場は見たくないが、結果だけは確かめなければいけなかった。
 村の周りに累々と斃れ伏している盗賊が300人はいた。
 村長の見立てでは、正規の訓練を受けた騎士や徒士だった。
 持っている弓矢も槍も剣も、身に着けている鎧兜も立派な物だった。
 そんな連中が、村の濠に辿り着くのが精一杯で、土塁を登って柵に取り付く事もできずに全滅していた。

 いや、全滅したとは限らない。
 あまりの被害に戦力を残して逃げ出した可能性もある。
 だが、はっきりと言えるのは、氏子衆の圧勝だったということだ。
 この結果が伝われば、黒幕も諦める可能性が高いと思う。
 鍛え抜いた兵士を育成して維持するには莫大な資金が必要だ。
 300人以上の戦力を失ってしまったら、近隣の領主から獲物として狙われる。
 これ以上の損害は回避したいだろうと思ったのだが……

 だが村長の予測は俺と違っていた。
 村長の予測は数日にわたって襲撃を受けるというモノだった。
 村長の考えでは、村を狙っているのは領主だけではないというのだ。
 弱った領主を狙うよりも、戦いで戦力が低下した村を襲う方が利益が多いと考える、近隣領主や傭兵団や盗賊団がいるというモノだった。
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