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第一章

第22話:最後通告

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 石姫皇女と俺の前で氏子衆が土下座をしている。
 異世界にも土下座の習慣があるのだと、一瞬おかしなことを思ってしまった。
 石姫皇女の氏子衆がいるのだから、土下座があってもおかしくはないと思い至ったが、今大事なのはそんな事ではないと慌てていらぬ考えを頭から押し出した。
 問題は、俺が慎重過ぎたために、村人全員に結界に入れるかどうか確かさせてしまい、今まで結界に入れないくらい不信心なのがバレていなかった氏子衆の、その正体が露見してしまったという事だ。

「だが長老、女神様を敬う気のない者を、氏子として村に入れておく事はできない。
 そんな者が盗賊や敵を村に引き入れてしまったら、この村は壊滅してしまうぞ。
 信心を忘れていない家族と離れ離れになるのが可哀想だという、長老の気持ちも言い分も理解はできるが、女神様と氏子衆の安全のためには許せんことだ。
 不信心者の家族のために、氏子衆が村外に出て行くのを止めはしない。
 だが、不信心者のために、全員が女神様を敬虔に敬っている家族を、危険にさらすわけにはいかないのだ」

 俺が口にしている事が、とても冷たくて厳しい事は分かっている。
 だが、石姫皇女に読んでもらったアルフィと4人の護衛の記憶と心は、とても凄惨な内容で、この世界の厳しさをまざまざと思い知らされた。
 石姫皇女は、俺が情に流されて危険を顧みずに家族愛を優先すると思っていたのかもしれないが、俺はそんな馬鹿ではないのだ。
 氏子衆の中には、同調圧力に負けてしまって、嫌々自分や家族を危険にさらすしかない者もいるのだ。

「長老、情に流されて女神様と敬虔な氏子衆を危険にさらすようなモノに、氏子総代の資格があると思っているのか。
 それともずっと優しく接していた私を舐めているのか。
 愚か者が、もう二度と私の前に姿を現すな!
 村長、父親である長老と結界に入れない者を村から追放して女神様への忠誠を示すか、父親への愛情を優先して女神様と私の支援を失うか、好きな方を選べ」

 酷な選択を迫っているのは重々承知しているが、村を護るべき村長が、村人よりも父親を優先するようなら、もうこれ以上助ける気にはならない。
 いや、今まで支援してきた分でこの冬を乗り切る事は可能だ。
 境内に置いてある商品をくれてやれば、莫大な財産も手に入るだろう。
 それを巡って氏子同士殺し合うことになろうと、アルフィや盗賊や領主に襲われることになろうと、それは自業自得という物だ。

 俺は良心に従ってやれるだけの事はやった。
 自分の良心に反する事をやって、氏子衆が虐殺されてしまったら、それをこの目で見てしまったら、心の弱い俺は壊れてしまうだろう。
 今どれほど心が痛もうが、自分の良心に従った行動を断じて行うか、突き放して関係を絶たなければ、氏子衆が殺される場面を見るようになってしまった場合、俺は後悔と絶望で狂ってしまうと思う。
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