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第一章

第9話:自給自足策

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 俺と石姫皇女の交渉は、俺の勝利に終わった。
 よほど甘味が大切なのか、自分の力不足に負い目があるのか、引き続き異世界と日本を行き来することができるのだが、問題は根本的に金が足らない事だ。
 神頼みで宝くじの当選を願ってお百度を踏むような状態で、家のローンはもちろん、終身共済の年払い期日も迫っているのだ。
 ここは異世界にいる時に日本の時間が停止する事を利用するしかない。

「この世界には、落葉を食べる獣や虫はいないのですか」

 地球の鹿やトナカイは、食べる物がなければ落葉を食べて生きていたと思う。
 プレーリードッグも食べる物がない時は落葉を食べていたと思う。
 彼らを食べることができるのなら、日本から食糧を運ぶ必要がなくなる。
 ダンゴムシのように落葉を食べてくれる虫がいれば、落葉や雑草を集めてきて、それを餌に鶏を飼う事ができる。

 鶏はひよこから120日ほどで成体と変わらない大きさになり、卵を産み始める。
 200日目くらいに産卵のピークになり、休産期間をはさみながら約1年半の間は経済的に見合う卵を産み続ける。
 鶏の寿命は5年ほどあるが、養鶏として採算が合うのは2年ほどだ。
 産卵を始めてから1年半で300個から400個の卵を産んでくれる。
 だが、穀物を使わず森の落葉や虫で鶏を飼うことができるのなら、格安で廃鶏を手に入れる伝手があるし、こっちで焼き鳥三昧で暮らす事も不可能ではない。

「おります、虫は結構大量にいますし、草鼠と呼ばれる獣もいます。
 ですが草鼠は地下に穴を掘って畑に害を与えますので、飼うのではなく直ぐに駆除して食べる事にしていますが、美味しい肉ではありません。
 毛皮には利用価値がありますが、飼うのは……」

 草鼠を飼って畑の収穫量が減ってしまったら意味がないな。

「この村では森に棲む虫は食べないのですか」

「虫ですか、カエルなどは食べることがありますが、虫は……」

 なるほど、地球の東洋では昆虫食が当たり前だったが、西洋ではギリシャが力を持っていた時代に記録されているくらいだからな。
 人間が虫を食べなくても、農閑期に鶏に喰わせる虫を集める事はできるだろう。
 食用に適さない植物でも、鶏なら食べるかもしれない。
 それに、俺がこの世界に留まる間は、淡水魚と廃鶏を主食にしたい。
 村の人達には悪いが、玄米やライ麦を主食にしたいとは思わない。
 
「村の人達に虫を食べろとは言わない。
 神の国の家禽を連れてくるから、それに与える餌として虫や落葉を集めてくれ。
 私や女神様は豊かな神々の世界で生まれ育っているから、この世界の食べ物では満足できないのだ、分かってくれ」

「承知いたしました、できるだけのもてなしをしたいと思っていおりましたが、確かに神々の国のようにはまいりません。
 以前言われておられましたように、魚を集めると同時に、家禽を育てる準備もさせていただきます」
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