浮気夫に平手打ち

克全

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2話

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「残念だが、全てカチュアの言う通りだったよ。
 カチュアの思い過ごしであってくれと思っていたが……」

「それで父上、離婚する準備はできていますか?」

「全てはエイデン殿しだいだ。
 エイデン殿は伯爵閣下なのだ。
 カチュアがどれほど望んでも、エイデン殿が認めなければ離婚は成立しない。
 たかが騎士家の我が家では圧力のかけようもない。
 邪竜を退治された伯爵様の歓心を買おうとする者は、掃いて捨てるほどいる。
 カチュアや我が家の味方になってくれる者はいないだろう」

「でもあなた、このままではカチュアがかわいそうです。
 惨めすぎます!
 せめて伯爵家から逃がしてやる事はできませんか?」

 あの時から怒涛の毎日でした。
 エイデンの浮気現場を見てしまった私は、何とか意識を保って実家に帰りつくことができましたが、そこまででした。
 実家にたどり着いて直ぐに産気づいてしまいました。
 緊急の出産になってしまいました。

 エイデンの浮気現場を見て、私を罵る言葉を耳にして、あまりのショックからでしょうか、命にかかわるような難産になってしまいました。
 ですが直ぐに教会の治癒術師が来てくれて、私も子供も助かりました。
 悔しいことですがエイデンの名声のお陰です。
 教会に払う莫大な礼金も、エイデンの伯爵家に請求が行きます。
 離婚を決意している私には、正直忸怩たる思いがあります。
 しかしもう元の生活には絶対に戻れません。
 命の危機を家族一団となって乗り越えて、父上と母上に全てを話しました。
 今後どうしたいかの希望を伝えました。

「そうだな。
 カチュアのためにできる限りの事をしよう。
 逃げたとしても、王都では直ぐに見つかってしまうかもしれない。
 教都か商都に隠れる方がいいだろうが、問題は乳母だ。
 伯爵家が用意した乳母を連れて逃げることなどできない。
 家で乳母を雇って教都や商都まで送ることも無理だ」

 確かにその通りです。
 生れたばかりの赤子を連れて、遠く旅するのは不可能です。
 だからと言って、伯爵邸に戻るのは嫌です!
 実家にいても、エイデンの罵り声が蘇って胸を締め付けます。
 毎夜のように悪夢にうなされます。
 エイデンのいる伯爵邸に戻ったら、狂気にかられてなにをしでかしてしまうか分かりません。

「旦那様、奥方様。
 差し出がましいことを申しあげさせていただきます。
 私がお嬢様についていかせていただきます。
 幼い頃からお世話させていただいたお嬢様が、不幸になるなど我慢できません!
 しかもお嬢様を不幸にするのが、エイデンのハナタレ小僧と言うのも、私には許し難い事でございます!」

 乳母のハーパーが私について来てくれると言ってくれます。
 家族を王都において、教都や商都で客死してしまうかもしれないのに……
 身勝手なのは分かっていますが、そんなハーパーの気持ちを利用しなければ、エイデンから逃げることができません。
 ですが問題はお金です。
 実家のマーチン騎士家には金銭的余裕などないのです。
 ここは恥を忍んであの人たちに頼るしかありません。
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