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武田義信
調略
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3月『美濃・稲葉山城・鷹司義信』
「若殿、市場城主・鱸直重殿が支配下の11城砦を取りまとめた上で、旗下に加わりたいと文をよこしております。」
「鱸家は一族合わせれば2000貫程の所領であったか?」
「はい、長らく松平・織田・今川の間にあって所領を守り抜いている国衆でございます。」
「命懸けの忠誠を求めるのは酷だが、我々が所領を守ってやる限り裏切らぬ国衆と思っていいのか?」
「調べた範囲では、周辺の所領の切り取りは行っておりますが、三河の盟主になろうとするような動きは無かったようでございます。」
「今までは実力がなかったから野心が育たなかったのか、それとも元来守勢重視の男なのか? これからも引き続き調べさせてくれ飛影。」
「承りました。」
「旗下に加えてくれというだけで、特に要求などはなかったのだな?」
「はい、何も要求はありませんでした。」
「う~ん、これ以上戦線が伸びれば、防戦の戦力が分散されかねない。雪解け後に織田・一向宗・細川・六角に加えて今川まで尾張方面に出てきたら厄介だな。ここは時節を待てと一旦断るか?」
「それはなりません! 庇護を求めてきた国衆を無下にすれば、今後若殿の旗下に参ずる国衆がいなくなります、ここは苦しくとも旗下に加えるべきです。それに調略に苦心した一益の努力も無下にすることになります。それでは配下の者たちの忠誠心も下がってしまいます。」
「飛影もそう思うか、俺もそう思っていたんだが、美濃に入ってから血気に逸り過ぎる所があるのでな、確認しておきたかったのだ。」
「信頼の御下問を頂き身に余る光栄でございます。ならばその信頼に応えて申し上げさせて頂きますが、今川家がはっきり敵に回っても宜しいのではありませんか? 諏訪・伊那の鉄砲鍛冶に創らせた、あれを御使いになれば、義元など鎧袖一触で粉砕できましょう。」
「まああれを使えば、義元が城に籠ろうと野戦を挑んで来ようと負けることはない、だがあれは三好を相手にするときの切り札にする心算なのだがな?」
「先々のことまで戦略戦術を読み切り、それに備えようとされる若殿は天下の主に相応しい方と思っておりますが、いまその場の臨機応変な対応も大切でございますぞ! 今回の苦戦も義元・晴元・将軍家の動きを読み間違えたせいではありませぬか?」
「確かにその通りだ、奴らがもう少し賢い対応をすると思っていたし、理想に走りすぎ事を急ぎすぎた、一旦今川から正室を貰い、後に裏切る覚悟をしていれば、ここまで苦戦はしなかっただろう。」
「幼き頃はともかく、天下を求めるようになられた若殿が、後々のことを見据えられ、正々堂々の合戦や調略を望まれておられるのはわかります。しかしそれは必勝有ってのこと、後の三好に備えるよりも今の義元を確実に討ち取られよ! それに必ず義元が三河・尾張に出てくるとは限らないのではありませんか?」
「確かにその通りだ、武田として鱸家や先の桜井松平家を配下に加えれば、義元も戦を仕掛ける名分が立とうが、朝廷への奉公を希望する勤王の者に、左近衛大将として官位官職を与えるなら大丈夫か? 義元が無理に名分をこじつけるとしたら、幕府からの御教書が必要になるな。」
「はいそう思われます。」
「一益にこの辺りの指揮は任せたいから、鱸直重と松平清定を従七位下・将曹に任じて指揮権を明らかにしておこう、そうすれば2人が万が一背いた時の討伐の大義名分が立つ。」
「それが宜しゅうございますな。ならば城の腰城の奥平貞勝殿も同じ対応で宜しいですな?」
「貞勝は、田峯菅沼家の菅沼定広を誘って旗下を望んでいるのだったな?」
「左様でございます。」
「しれっと言ってくれるな、飛影。」
「貞勝まではよい、まだ何とかなる。だが田峯城まで守るとなると美濃から援軍は遠いぞ、お前絶対義元と決戦させたいんだろう!」
「最早お判りいただいておりましょう、田峯菅沼家を旗下に加えれば、三河の山岳部の国衆はこぞって旗下に参じましょう、さすれば伊那・木曽からの援軍は容易く三河・遠江に攻め下る事が出来ます。」
「判った判った、だったら別所城と設楽城を持つ伊藤貞久・貞次親子に番長の地位を与えて近衛府に誘え、余り奥平と菅沼に力を与えすぎるな。」
「承りました、直ぐに使者を送ります。やはり若殿も手筋の1つに御考えであったのですね。」
「強引な手として考えてはいたよ、だがそうなるともう1手使う事に成るが、今一つ気が乗らないんだよね。」
「その手は密かに進められた方が宜しいのではありませんか?」
「判るのか?」
「側室でございましょう?」
「何故分かった?」
「若殿が影衆に調べさせる内容で想像がつきます。」
「やはり確実に三河を取ってからが好いか?」
「少なくとも山沿いは確保してからがよいと思われます。」
「判った、そうしよう。それと福谷城の原田氏重は調略出来そうか?」
「奥平と菅沼が旗幟を鮮明にした後ならば容易く下りましょう。」
「三河明知城の原田重種も原田氏重に同調するか?」
「そう思われます。」
「宮口城の篠田貞英も同じか?」
「左様でございます。」
「絵下城の矢田作十郎は熱心な一向宗だと言っておったな?」
「はい、絵下城の調略は無理と考えられます、もし旗下への参陣を求めて来たならば偽りの罠でございます。」
「あい判った、知立神社神主で知立城主・永見貞英はどうだ?」
「一向宗の圧力が強まっております、竹千代が駿河にいて松平が頼りになりません、簡単に調略出来ます。」
「織田方の重原城主・山岡河内守はどうだ?」
「忠誠心厚く容易く下るとは思えません、攻めれば討ち死に覚悟で籠城いたしましょう。」
「手出しするだけ時間も兵力も無駄と言う事か?」
「左様でございます。」
「同じく織田方の刈谷城主・水野信元はどう思う?」
「今調略の手を伸ばしても難しいと思われます。しかし若殿が義元を破り三河から後退させられれば、自ら進んで誼を結びに参りましょう、その方が低い地位に留め置いて旗下に加えることが出来ると思われます。」
「今此方から調略の手を伸ばせば高位を与えねばならぬが、義元を討ち破ってからなら低位を与えるだけで済むと言う事だな、つまりそれくらい気をつけねばならぬ、強かな国衆だと言いたいのだな?」
「先代・水野忠政は、織田信秀の西三河進攻に協力しつつ、岡崎城主松平広忠・形原城主松平家広などに娘を嫁がせて、領土の保全を図っております、その上当代の信元は松平家広・松平広忠に嫁いだ姉妹を離縁させて、松平広忠の正室であった妹の於大の方に至っては、阿久居の久松俊勝に再婚させております、これほど強かな国衆なれば、力を持って対する方が容易いと思われます。」
「飛影が言いたいのは、信元は自ら進んで強敵に対して手出しせず、強者同士の争いの隙を突き、近隣弱小国衆や地侍を確実に併合している、だから今回も俺と織田・今川の戦いの帰趨が定まるまでは、迂闊に何方にも味方しないだろうから俺から動くなと言うことだな?」
「左様でございます。」
「あとは福釜城の松平親次をどう思う? 松平清定を抑えるのに使えると思うか?」
「忠誠心厚く野心少なき者を松平家の当主に担ぐべきかと思われます、それに何より今の勢力が小さい方が扱い易いと思われます。松平親次と松平宗家・松平太郎左衛門家の松平親長を大切に致しましょう。」
「松平親長の所領は100貫から150貫程度であったな? 神輿として担ぐなら一番妥当であろうな?」
「そう思われます。」
「鷹司卿、一向宗が大垣牛屋城を伺う姿勢を示しております。」
軍師候補の八柏道為が近習衆と一緒に報告にやって来た。
「揖斐川を渡ったか?」
「いえ、まだ川向うに集結しているだけでございます。」
「何時もの嫌がらせか?」
「だと思われますが、此方の備えが遅ければ本気で渡河するかもしれません。」
「火薬を消費させようと言う魂胆だな?」
「恐らくは。」
「友和、弓編成を重視した武士団3000兵を率いて迎撃せよ。」
「承りました。」
恐らく命を受けると思って近習衆と共にやって来た相良友和が答えた。
「道為、一緒に行って学んで参れ。」
「は! 承りました。」
「飛影、物資の買い入れはどうなってる?」
「順調でございます、可也高値になってはおりますが、三河・尾張・美濃からだけでなく、恐らく遠江・駿河からも密かに商人が運び込んでいると思われます。」
「伊勢・紀伊からの運び入れは無いのか?」
「あるかもしれませんが少量でしょう、一向宗と織田家の邪魔が大きく、商人が無理に運び込もうとすれば、荷物だけでなく命まで奪われてしまいます。」
「三河・遠江・駿河商人が荷や命を奪われない理由は、俺が勝つと考え寝返りを画策している国衆が多いと言う事か? それが先程の義元と戦えと言う事に繋がるのか?」
「左様でございます、義元が始めた伊那攻めが失敗し、人質とも言えた信虎様達を武田に帰す事態となりました。今川館にいる公家衆も若殿の報復を恐れて、雪解けまでに京や東国へ逃げる準備をしておりましたが、若殿が美濃に攻め込んだ事で東国への更なる下向の道を探っているようでございます。それが駿河・美濃・三河の国衆の動揺に繋がっております。」
「それで公家衆はどこに逃げ込むんだい?」
「それが生憎どこも受け入れを断っているようです。北条・里見が拒否しておりますので、そこを越えて佐竹・伊達にはとても辿り着けそうにありません。京に行ければよかったのでしょうが、それには大きな危険が伴います。若殿が尾張か三河の湊を手に入れれば捕えられてしまいます。」
「ならば危険を押してでも今の内に三河・尾張・伊勢・紀伊の海を渡って京を目指すか。 だが北条・里見が公家の受け入れを拒否したのは大きいな。里見は上総武田に勝てぬと判断して、我らに和睦を頼む心算か時間稼ぎだろう。北条も今川より武田に勝ち目が有ると判断したのだな。」
「左様に思われます、ですからここは一気に今川を攻め滅ぼしましょう。」
「出来理限り雪解け農繁期まで待て! 勝手に戦を始めるのではないぞ!」
「若殿の御許し無く事を始める事は御座いません、必ず御指示を待ちます。」
「若殿、市場城主・鱸直重殿が支配下の11城砦を取りまとめた上で、旗下に加わりたいと文をよこしております。」
「鱸家は一族合わせれば2000貫程の所領であったか?」
「はい、長らく松平・織田・今川の間にあって所領を守り抜いている国衆でございます。」
「命懸けの忠誠を求めるのは酷だが、我々が所領を守ってやる限り裏切らぬ国衆と思っていいのか?」
「調べた範囲では、周辺の所領の切り取りは行っておりますが、三河の盟主になろうとするような動きは無かったようでございます。」
「今までは実力がなかったから野心が育たなかったのか、それとも元来守勢重視の男なのか? これからも引き続き調べさせてくれ飛影。」
「承りました。」
「旗下に加えてくれというだけで、特に要求などはなかったのだな?」
「はい、何も要求はありませんでした。」
「う~ん、これ以上戦線が伸びれば、防戦の戦力が分散されかねない。雪解け後に織田・一向宗・細川・六角に加えて今川まで尾張方面に出てきたら厄介だな。ここは時節を待てと一旦断るか?」
「それはなりません! 庇護を求めてきた国衆を無下にすれば、今後若殿の旗下に参ずる国衆がいなくなります、ここは苦しくとも旗下に加えるべきです。それに調略に苦心した一益の努力も無下にすることになります。それでは配下の者たちの忠誠心も下がってしまいます。」
「飛影もそう思うか、俺もそう思っていたんだが、美濃に入ってから血気に逸り過ぎる所があるのでな、確認しておきたかったのだ。」
「信頼の御下問を頂き身に余る光栄でございます。ならばその信頼に応えて申し上げさせて頂きますが、今川家がはっきり敵に回っても宜しいのではありませんか? 諏訪・伊那の鉄砲鍛冶に創らせた、あれを御使いになれば、義元など鎧袖一触で粉砕できましょう。」
「まああれを使えば、義元が城に籠ろうと野戦を挑んで来ようと負けることはない、だがあれは三好を相手にするときの切り札にする心算なのだがな?」
「先々のことまで戦略戦術を読み切り、それに備えようとされる若殿は天下の主に相応しい方と思っておりますが、いまその場の臨機応変な対応も大切でございますぞ! 今回の苦戦も義元・晴元・将軍家の動きを読み間違えたせいではありませぬか?」
「確かにその通りだ、奴らがもう少し賢い対応をすると思っていたし、理想に走りすぎ事を急ぎすぎた、一旦今川から正室を貰い、後に裏切る覚悟をしていれば、ここまで苦戦はしなかっただろう。」
「幼き頃はともかく、天下を求めるようになられた若殿が、後々のことを見据えられ、正々堂々の合戦や調略を望まれておられるのはわかります。しかしそれは必勝有ってのこと、後の三好に備えるよりも今の義元を確実に討ち取られよ! それに必ず義元が三河・尾張に出てくるとは限らないのではありませんか?」
「確かにその通りだ、武田として鱸家や先の桜井松平家を配下に加えれば、義元も戦を仕掛ける名分が立とうが、朝廷への奉公を希望する勤王の者に、左近衛大将として官位官職を与えるなら大丈夫か? 義元が無理に名分をこじつけるとしたら、幕府からの御教書が必要になるな。」
「はいそう思われます。」
「一益にこの辺りの指揮は任せたいから、鱸直重と松平清定を従七位下・将曹に任じて指揮権を明らかにしておこう、そうすれば2人が万が一背いた時の討伐の大義名分が立つ。」
「それが宜しゅうございますな。ならば城の腰城の奥平貞勝殿も同じ対応で宜しいですな?」
「貞勝は、田峯菅沼家の菅沼定広を誘って旗下を望んでいるのだったな?」
「左様でございます。」
「しれっと言ってくれるな、飛影。」
「貞勝まではよい、まだ何とかなる。だが田峯城まで守るとなると美濃から援軍は遠いぞ、お前絶対義元と決戦させたいんだろう!」
「最早お判りいただいておりましょう、田峯菅沼家を旗下に加えれば、三河の山岳部の国衆はこぞって旗下に参じましょう、さすれば伊那・木曽からの援軍は容易く三河・遠江に攻め下る事が出来ます。」
「判った判った、だったら別所城と設楽城を持つ伊藤貞久・貞次親子に番長の地位を与えて近衛府に誘え、余り奥平と菅沼に力を与えすぎるな。」
「承りました、直ぐに使者を送ります。やはり若殿も手筋の1つに御考えであったのですね。」
「強引な手として考えてはいたよ、だがそうなるともう1手使う事に成るが、今一つ気が乗らないんだよね。」
「その手は密かに進められた方が宜しいのではありませんか?」
「判るのか?」
「側室でございましょう?」
「何故分かった?」
「若殿が影衆に調べさせる内容で想像がつきます。」
「やはり確実に三河を取ってからが好いか?」
「少なくとも山沿いは確保してからがよいと思われます。」
「判った、そうしよう。それと福谷城の原田氏重は調略出来そうか?」
「奥平と菅沼が旗幟を鮮明にした後ならば容易く下りましょう。」
「三河明知城の原田重種も原田氏重に同調するか?」
「そう思われます。」
「宮口城の篠田貞英も同じか?」
「左様でございます。」
「絵下城の矢田作十郎は熱心な一向宗だと言っておったな?」
「はい、絵下城の調略は無理と考えられます、もし旗下への参陣を求めて来たならば偽りの罠でございます。」
「あい判った、知立神社神主で知立城主・永見貞英はどうだ?」
「一向宗の圧力が強まっております、竹千代が駿河にいて松平が頼りになりません、簡単に調略出来ます。」
「織田方の重原城主・山岡河内守はどうだ?」
「忠誠心厚く容易く下るとは思えません、攻めれば討ち死に覚悟で籠城いたしましょう。」
「手出しするだけ時間も兵力も無駄と言う事か?」
「左様でございます。」
「同じく織田方の刈谷城主・水野信元はどう思う?」
「今調略の手を伸ばしても難しいと思われます。しかし若殿が義元を破り三河から後退させられれば、自ら進んで誼を結びに参りましょう、その方が低い地位に留め置いて旗下に加えることが出来ると思われます。」
「今此方から調略の手を伸ばせば高位を与えねばならぬが、義元を討ち破ってからなら低位を与えるだけで済むと言う事だな、つまりそれくらい気をつけねばならぬ、強かな国衆だと言いたいのだな?」
「先代・水野忠政は、織田信秀の西三河進攻に協力しつつ、岡崎城主松平広忠・形原城主松平家広などに娘を嫁がせて、領土の保全を図っております、その上当代の信元は松平家広・松平広忠に嫁いだ姉妹を離縁させて、松平広忠の正室であった妹の於大の方に至っては、阿久居の久松俊勝に再婚させております、これほど強かな国衆なれば、力を持って対する方が容易いと思われます。」
「飛影が言いたいのは、信元は自ら進んで強敵に対して手出しせず、強者同士の争いの隙を突き、近隣弱小国衆や地侍を確実に併合している、だから今回も俺と織田・今川の戦いの帰趨が定まるまでは、迂闊に何方にも味方しないだろうから俺から動くなと言うことだな?」
「左様でございます。」
「あとは福釜城の松平親次をどう思う? 松平清定を抑えるのに使えると思うか?」
「忠誠心厚く野心少なき者を松平家の当主に担ぐべきかと思われます、それに何より今の勢力が小さい方が扱い易いと思われます。松平親次と松平宗家・松平太郎左衛門家の松平親長を大切に致しましょう。」
「松平親長の所領は100貫から150貫程度であったな? 神輿として担ぐなら一番妥当であろうな?」
「そう思われます。」
「鷹司卿、一向宗が大垣牛屋城を伺う姿勢を示しております。」
軍師候補の八柏道為が近習衆と一緒に報告にやって来た。
「揖斐川を渡ったか?」
「いえ、まだ川向うに集結しているだけでございます。」
「何時もの嫌がらせか?」
「だと思われますが、此方の備えが遅ければ本気で渡河するかもしれません。」
「火薬を消費させようと言う魂胆だな?」
「恐らくは。」
「友和、弓編成を重視した武士団3000兵を率いて迎撃せよ。」
「承りました。」
恐らく命を受けると思って近習衆と共にやって来た相良友和が答えた。
「道為、一緒に行って学んで参れ。」
「は! 承りました。」
「飛影、物資の買い入れはどうなってる?」
「順調でございます、可也高値になってはおりますが、三河・尾張・美濃からだけでなく、恐らく遠江・駿河からも密かに商人が運び込んでいると思われます。」
「伊勢・紀伊からの運び入れは無いのか?」
「あるかもしれませんが少量でしょう、一向宗と織田家の邪魔が大きく、商人が無理に運び込もうとすれば、荷物だけでなく命まで奪われてしまいます。」
「三河・遠江・駿河商人が荷や命を奪われない理由は、俺が勝つと考え寝返りを画策している国衆が多いと言う事か? それが先程の義元と戦えと言う事に繋がるのか?」
「左様でございます、義元が始めた伊那攻めが失敗し、人質とも言えた信虎様達を武田に帰す事態となりました。今川館にいる公家衆も若殿の報復を恐れて、雪解けまでに京や東国へ逃げる準備をしておりましたが、若殿が美濃に攻め込んだ事で東国への更なる下向の道を探っているようでございます。それが駿河・美濃・三河の国衆の動揺に繋がっております。」
「それで公家衆はどこに逃げ込むんだい?」
「それが生憎どこも受け入れを断っているようです。北条・里見が拒否しておりますので、そこを越えて佐竹・伊達にはとても辿り着けそうにありません。京に行ければよかったのでしょうが、それには大きな危険が伴います。若殿が尾張か三河の湊を手に入れれば捕えられてしまいます。」
「ならば危険を押してでも今の内に三河・尾張・伊勢・紀伊の海を渡って京を目指すか。 だが北条・里見が公家の受け入れを拒否したのは大きいな。里見は上総武田に勝てぬと判断して、我らに和睦を頼む心算か時間稼ぎだろう。北条も今川より武田に勝ち目が有ると判断したのだな。」
「左様に思われます、ですからここは一気に今川を攻め滅ぼしましょう。」
「出来理限り雪解け農繁期まで待て! 勝手に戦を始めるのではないぞ!」
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