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武田義信

調略・侵攻・年末棚卸

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 9月15日『信濃 犬甘城』

 俺と信玄は調略攻勢に出た、手に入れた官位官職を目一杯利用したのだ。効果が有ったのは信玄が手に入れた信濃守護職。これで去就を迷っていた国衆や地侍が一気に武田に傾いた、更に小笠原・村上を見限りたいが、武士の矜持で踏みとどまっていた国衆が裏切り易くなった。

 それでも反武田を掲げる信濃の国衆には、武田義信改め鷹司義信から降伏の使者を送った。武田には降伏できないが、摂関家の鷹司家を継いだ義信になら降伏できる、武家の体裁を整えられると考える国衆もいた。何よりも国衆内の跡目争いも有り、降伏派と抗戦派の争いを誘発することになった。

 最後に使った手が足利義藤将軍と細川晴元管領連名の上洛命令だ。幕府の役職に任じ扶持を与えるので一族一門全て連れて上洛せよと言う内容だが、扶持は俺が幕府に支援するから、実質俺が雇うことになる。最終的に裏切られたとしても、早期に信濃攻略が出来ればそれでいい。最良は信濃の反武田勢力が上洛して、細川晴元伯父上の味方として三好長慶と戦ってくれる状況なのだが、それは望み過ぎだろう。

 そうそう、伊那に下向中の公家衆にも手当を払って仲介の使者に立ってもらった。これが非常に役に立った。高位高官の公家が武田に味方する様に説いてくれたら国衆も降伏し易い。特に効果が有ったのは前関白・九条稙通の説得だった。伊那で武田の保護下にあるとはいいえ、武田と縁戚関係の無い朝廷の重鎮による仲介を断る国衆は皆無に近かった。


9月15日『信濃 中塔城』

 「重高殿、今日までよく忠誠を尽してくれた、礼を申す!」
 小笠原長時が中塔城主・二木重高に心からの感謝の気持ちを言葉にした。

 「殿様申し訳ござらん、家臣領民の事を考えればこれ以上の抵抗は出来なくなりました。」

 「判っておる、将軍家は甲斐の鬼畜を信濃守護に任じられた、武田に従わねば将軍家に叛旗を翻すことになる、この世も末だが鬼畜の息子が鷹司の名跡を継ぎ、そなたら国衆に従うように命じてきておる、更には九条卿まで仲介の労を取られておる、これに抗しては朝廷にすら抗することになってしまう。事ここに至ってはこれ以上重高殿に負担はかけられん。」

 「殿様はこれからどうなさるのですか?」

 「鬼畜めは儂らを上洛させて、将軍の味方をさせる腹積もりのようだがその手には乗らん! 中野城の高梨政頼(たかなしまさより)殿が支援してくれると言ってきておるし、この政智が赤沢城を拠点に提供してくれると言ってくれている、まだまだ諦めん!」
 話を振られた赤沢政智が静かに頭を下げた。


9月15日『信濃 平瀬城外』

 俺は今動員できる全戦力を投入して止めを刺しに信濃を巡った。最初に最も近くで最後まで抵抗を続ける平瀬城を包囲した。城主・平瀬義兼は最後まで籠城すると心算で有ったようだが、家臣の1人が裏切り義兼を刺殺、降伏派と籠城派の殺し合いに発展したようだ。降伏派が城門を開くのを見て俺は突入をを命じた。武田軍の突入を契機に籠城派も諦めたのだろう、一部の兵が抵抗するものの損害を出す事無く平瀬城を手に入れる事が出来た。

『信濃攻略軍』
足軽弓隊 2000兵
足軽槍隊 6000兵
騎馬隊  4000兵
黒鍬輜重 5000兵
総計   1万7000兵

 一方信玄軍は村上義清軍への攻撃開始した。最初に砥石城を囲むと、砥石城で足軽大将だった真田幸隆の弟・矢沢頼綱が裏切った。真田幸隆を通じて調略が行われていたのだが、この御蔭であれほど苦戦した砥石城を1日で落城させることが出来たようだ。これを契機に最後まで村上義清に味方していた国衆も遂に武田に降伏して行った。


9月17日『信濃 中塔城外』

 俺の最後通告に対して、中塔城主・二木重高は率直な回答を寄越してきた、小笠原長時の逃亡時間を稼ぎたいので、2日間待って欲しいと言うものだった。俺はこれを認める事にした、小笠原長時を高梨政頼を逃がすことで攻城の損害が出ないならその方が得だ。上手くすれば二木重高らの心を掴むことも出来るかもしれない。3日後に二木重高を先陣に加えて小岩嶽城を囲み古厩盛兼を降伏させた。4日後には安曇郡森城主・仁科盛能が弟達と共に降伏にやって来た、弟は筑摩郡青柳城主・青柳清長、小岩嶽城主・小岩盛親・安曇郡平倉城主・飯森盛春、安曇郡渋田見城主・渋田見盛家の2人だ。5日後には大宮城主・沢渡兵部盛方と古山城主・大日方上総介直武と弟の安曇郡千見城主・大日方佐渡守直長が臣従にやって来た。直武は臣従を拒む一族の棟梁で父の大日方直忠と嫡男で兄の直経を攻め殺している。

 今回の討伐で大きかったのは、千国街道を押さえる仁科盛能の弟で平倉城主・飯森盛春と家臣で塩島城主・塩島但馬守勝雄を臣従させたことだ。他にも仁科盛能の家臣で飯田城主・大日向佐渡守や茨山城・三日市場城・小川村の城砦を確保した。


9月20日『信濃 赤沢城』

 「殿様! 小坂城の桑原が裏切りました!!」
 赤沢城主の赤沢政智が怒りに打ち震えながらやって来た。

 「政智殿、村上勢も唐崎城主・雨宮景信、屋代城主・屋代正国、鞍骨城主・清野右近太夫が裏切った、最早守り切れまい。倉科殿の守る鷲尾城と我らが殿しんがりを引き受けて、殿様と村上義清殿に逃げて頂こう。」
 神田将監が苦渋の選択をする。

 「え~い、中塔城を落延びて幾日もせぬうちにこの為体ていたらくとは情けない!」
 小笠原長時が吐き捨てる様に嘆いた。

 「殿様、家臣を纏めきれず申し訳ありません。」

 「政智殿の所為では無い、儂が不甲斐無いだけよ!」

 「殿様、武田に囲まれては落延びる術も無くなります、野陣を引き進退の自由を確保いたしましょう。」

 「鬼畜め! 攻めてきおったら我が馬廻り衆の突撃で目に物見せてくれるは!」

 「それはなりませぬ殿様! 武田義信は越中で鉄砲を使い、突撃して来た神保勢を一撃で粉砕したと聞き及んでいます。」
 神田将監が諫める。

 「それは神保が未熟だったからじゃ! そなたと儂が小笠原弓馬礼法で鍛えた馬廻り衆ならが勝てる!」

 「我らの弓馬礼法を使うにはこの場所は不利でございます、この狭隘な場所では十分に馬を使いこなせません。義信の鉄砲に対抗するには、中央に盾を持った足軽を配して突撃させ、馬廻り衆を左右に分けて遊撃させるのが良策でございます。」

 「致し方なし! 将監の策を取る。」


 9月26日『信濃 若槻山城』

 俺は降伏して来た信濃の筑摩衆・安曇・埴科郡・更級衆を先陣として、白馬から戸隠に抜ける山道を侵攻した。現代でいうと406号線だ、戸隠に出た俺は若槻山城を奇襲した。俺は非情に徹して寝返った信濃衆の損害は考慮せずに我攻めをやらせた。若槻山城を1日で攻め落とした俺は、周辺の国衆や地侍に降伏の使者を送りつつ、高梨政頼の籠る中野城・鎌ヶ嶽城・鴨ヶ嶽城に進撃した。

 俺が背後に現れた事を知った小笠原・村上勢は軍を維持する事を出来ずに崩壊した、馬廻り衆や名の有る忠義の将は残ったものの、足軽や地侍は逃げ散ってしまったのだ。その状況を見た信玄旗下の将兵は、赤沢城と千曲川の間で踏ん張っていた、小笠原・村上連合に猛攻を開始した。足軽や地侍に逃亡された連合軍に抵抗するすべはなく、命懸で殿を務めた神田将監指揮の馬廻り衆の御陰で、野尻湖方面に出て関川を下って越後に逃げていった。高梨政頼と合流する事すらできない惨状であった。

 本来なら高梨政頼の従兄弟である長尾景虎(上杉謙信)が救援に来るのだが、長尾政景との抗争中でその余裕が無かった。史実の川中島合戦が起こるための要因、越後衆の支配・同心が達成されていなかったのだ。

 信玄は農民兵が動員できる限界ぎりぎりまで水内・高井郡に留まり、俺と共に国衆地侍の調略攻略に専念した、その後は農耕に制限されない俺の軍だけで調略攻略を行った。この間に鉄砲と弓矢の援護射撃の下で、竹盾で防御した信濃兵を鴨ヶ嶽城に突撃させ、高梨政頼と一族一門を皆殺しにした。初雪が降る前に信濃国の城砦を全て攻略し、信濃に残った全ての国衆地侍を臣従させた。

 その上で俺は信濃国衆の領地替えを断行した。来春早々の越後討ち入りを宣言し、その為の国境線城砦の直轄化を国衆・城主に認めさせたのだ。千曲川流域で与板城主・長尾政景との連絡路に有る、白鳥城・城板城・今泉城・仙当城・牛ヶ窪城。飯山街道を押さえる富倉城・大川沢端城・大川日蔭城・飯山城・大倉崎館。野尻湖から関川を下る街道を押さえる赤川城・土橋城・琵琶島城・割ヶ岳城。千石街道を押さえる平倉城・塩島城・飯田城。

 俺の力の源で有る生産力の内、麦焼酎の卸値がジワリと下がり1合18文となった。信濃で大胆な領地替えを行い直轄地を増やした。石高には畑や山林も石高計算されているため、実際の取れ高とは一致していない。特に今年は大洪水の連発で取れ高が著しく減少し、大凶作となった。

『義信直轄力』

甲斐水田  1100町(1万1000反)
甲斐畑    700町(7000反)
信濃伊那郡 10万石
信濃諏訪郡  3万石
信濃木曽郡  1・5万石
筑摩郡    4万石
水内郡    5万石
埴科郡    2万石
安曇郡    1万石
高井郡    1万石
飛騨     3万石

取れ高
玄米     5万5000石
雑穀    20万0000石

備蓄兵糧
玄米   35万石
麦    60万石

焼酎生産力
杜氏26人
杜氏1人当たり3石甕1000個前後
26×3×1000=6万9000石
6・9万石×(1合卸値18文)=128万2000貫文

鉄砲     4064丁
三間槍  1万3000本
三間薙刀   7000本
弓      9000張
大型弩砲    700基
打刀   2万1000振
太刀     8000振
足軽具足 2万5000個

足軽弓隊    3000兵
足軽槍隊  1万2500兵
扶持武士団   6300兵
騎馬隊     5000兵
黒鍬輜重兵   5000兵

繁殖牝馬 1593頭
訓練育成中の軍馬
0歳馬  1501頭
1歳馬  1392頭
2歳馬  1309頭
3歳馬   828頭
4歳馬   402頭
5歳馬   132頭

繁殖牝牛 989頭
育成中の牛
0歳牛  923頭
1歳牛  802頭
2歳牛  723頭
3歳牛  448頭
4歳牛  177頭
5歳牛   71頭

合戦・牛馬・武具・米麦・恩賞・裏工作費用など歳出
128万貫文

『軍資金』
使用不能な武田貨幣
金銀銅貨合計 6000万貫文(10文黄銅貨が特に使えない・半分は信玄保有)

使用可能な精銭・永楽銭
188万貫文
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