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武田義信

武田義信誕生・長尾景虎(上杉謙信)守護代就任

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 9月22日深夜『南熊井城 城外 神田将監』

 「うぉ~~~~~ん、うぉ~~~~~ん、うぉ~~~~~ん」

 矢張り番犬の対応が早い、これでは火矢が郭に届かない、馬防柵だけでも焼かねばならん!

 「突撃!」

 「止まれ!」

 「射よ!」

 大型弩砲バリスタの反撃も早い!

 「撤退! 北熊井城に行くぞ!!」

 武田も夜襲慣れして来た、弓矢の射程外に番犬を配し、馬防柵も設置している、嫌らしい落とし穴も多数掘っている。勢力圏奥深くのこの城にも大型弩砲を配備している。これほど素早く対応されては長屋1つ焼くのも命懸だ! 長屋1つの為に馬廻り衆1騎を失っては割に合わない。練達の馬廻り衆を産み育てるには、年齢と同じだけの歳月が掛かる、例え他の騎馬武者や徒武者を抜擢訓練しても、今度はその穴を足軽で埋めなければならなくなる、どんどん将兵の質が落ちていく。既に6人の騎乗士と31頭の軍馬を失った、忌々しい番犬と大型弩砲の所為で、幅広十字鏃は馬の天敵だ! 脚が深く傷ついてしまった馬は殺してやるしかない。

 合戦の喧騒と殺し合いを怖がらない馬は貴重だ、何より敵と切り結ぶ時に有利な輪乗りを覚えさせるのがどれほど難しいか! 源平合戦の頃は、関東武者が輪乗り出来るのに比べ、西国武者が出来なかった、それが源氏の勝利に結び付いたと伝え聞いている。それくらい輪乗りで人馬息を合わせて戦うことは難しいのだ、まして、馬に後ずさりさせて騎射し戦い切り結ぶ事を覚えさすのは至難の業、馬は本来臆病な物、見えない後ろには下がりたくなどないのだ、本能では馬首を返して逃げたいのだ、それを敵と切り結んでいる状態で、後ずさりする事を覚えさせなばならないのだ!

 本拠の林城を始め、多数の城砦と領地を失った我が小笠原には、馬廻り衆の再編強化など無理、それどころが300騎を維持することにさえ四苦八苦している。だから不毛とも見える夜襲を連日続けるしかない、戦国時代の年貢は6公4民や7公3民が多い、だがそれは完全に支配下に置いた地域だけだ、合戦真っ盛りの境目の地区には独特の作法が有る。それは年貢の折半だ、敵味方双方が6公4民の年貢など徴収したら百姓は死に絶えてしまう、いや、百姓はそれほど弱くない、村ごと他国に逃散してしまう。だからこそ折半なのだが、善信の偽善者が!

 武田との密かな交渉で、奴らは6公4民の折半を提案して来た、つまり小笠原・武田で3公7民づつだ、今の小笠原にはそれを飲むしかなかった、だからこそ危険を押して我らは南熊井城を攻めている。この領域も合戦中の境目だと交渉する為に、なのに善信の偽善者は境目の年貢免除を発布しやがった! 我ら小笠原には免除する余裕が無いのを見越してだ!! これで信濃の民の心は武田に傾いてしまう、銭に余裕がある善信の嫌らしい策だ、判っていても対応できない。民の心が離れていくのを知りながら、少しでも年貢を増やす為に、危険を冒して合戦地域を武田勢力圏に広げるしかない、信玄相手ならもう少し楽に戦えたものを。

 「うぉ~~~~~ん、うぉ~~~~~ん、うぉ~~~~~ん」

 北熊井城も馬防柵を焼くくらいしか出来ぬか・・・・・

 だからと言って、元々小笠原の領民だった村々を略奪することは出来ない、そんなことをすれば、雪崩を打つように国衆が離反するだろう、半農半武の地侍に背かれては国衆自体の首が危うい、武田方について一揆など起こされるのは、小笠原方国衆の悪夢以外の何物でもない。善信につけば豊かになると近隣諸国では評判だ、何時まで国衆や民は小笠原に忠誠を示してくれるだろうか・・・・

 いっそ甲斐に行って略奪するか? 村上勢に見せかけて佐久から甲斐に乱入すれば!

 「突撃!」

 「止まれ!」

 「射よ!」


『犬甘城 城外 武田善信』

 稲の取入れが終わった、大盤振る舞いで境目の年貢免除もやった、1度でも小笠原騎馬隊の侵攻が有った地域すべてだ、軍資金と兵糧に余裕の有る俺にしかできない人心掌握策だ。これで小笠原を更に追い詰めることが出来るだろう。

 その上で初雪を待って犬甘城を包囲した、今からではとても城を落とすことは出来ない、そんな事は百も承知している、5000の将兵が守る犬甘城を我攻めをすれば、武田軍は大損害を受けるだろう、嶽影の城砦攻略部隊を投入すれば、大損害を出して撃退されたうえ、影衆の信頼と忠誠を失い、俺はただの戦国大名に成り下がってしまうだろう。そこまで俺は愚かでは無い、ただの囮だ! 俺が全軍を持って犬甘城を囲んでいると近隣諸国に噂が広まればいい、そうすれば飛騨の三木直頼と江馬時盛も油断してくれるだろう。油断しなければ油断するまで待てばいい、俺にはそれだけの余裕があるのだから。

 飛影指揮下の特別足軽3000兵は密かに木曽妻籠城から出陣した、飛騨勢に発見されないように険しい獣道を歩いて進軍する。事前に多数の物見を送り、道案内出来る人材を確保しておいた上でだ。勿論山中泊出来る様に、山の民を動員して秘密の里も新設した、と言うか木曽を手に入れた時点で、山の民が狩猟採取の為に飛騨方面に入り込んでいた、猟師小屋や木地師の小屋は有ったのだ、それを3000兵規模にした。

 夜明けと共に出陣し、山中で一泊して更に進軍、日暮れ前までに御前山の山麓に到着していた。物見を出し警戒しつつ仮眠を取り、夜が更けてから静かに山を下り桜洞城を包囲、城砦攻略部隊に城壁を越えさせ城門を開けさせる、そして一気に城を落とした。逆臣・三木直頼とその一族を皆殺しにした。

 翌朝、宮地城・大威徳寺城・為坪城・楢尾山城・桜谷城・中根城・今井城・松倉城・伊波那谷城に、松尾信是改め姉小路信綱の名で降伏の使者を送った、三木直頼に付いていた者達も、武田より姉小路に降る方が体裁が好い、武士としての対面も保たれるし、忠義の心が有る武士にとっても心理的罪悪感が著しく軽くなる。

 降伏の使者が携える書状には、添えの署名と花押が有った、前姉小路当主で現飛騨田向家当主・従三位参議の田向重継と武田善信だ。実質武田の支配下に入る事を意味しながら、朝廷と国司の体裁が整えられている、実に降伏し易くなっている。



 『躑躅城 義信郭 義信私室』

 桜洞城攻略の知らせを受けた俺は犬甘城の包囲を解いた、急ぎ扶持武士団500兵を桜洞城守備兵に送り、特別足軽兵団3000兵を花岡城に戻した。危険な桜洞城の守備を特別足軽兵団にさせるわけにはいかない、彼らへの褒美は一律昇格にした、善信騎馬隊の誕生だ! 全将兵に軍馬を与えることは出来ないが、騎乗資格だけは与えた。後は独自で購入してもらうか、今は訓練と農耕に使用している、俺個人所有馬を貸し与えるかで対応する。
 
 足利義藤は、俺の桜洞城攻略を知って素早く対応して来た、もしかしたら細川晴元伯父上が後押ししてくれたのかもしれないし、日々の付け届けの効果かもしれない。俺に飛騨守護職と諱を与えると言ってきた、これで飛騨守護・武田義信の誕生だ! 更に朝廷に対しても足利幕府の権威を主張したかったのだろう、飛騨国司の姉小路信綱叔父さんを飛騨守護代に任命してきた。飛騨国司が飛騨守護より格下と天下に示したかったのだろう、お子ちゃまだ!

これで官職は以下の様になった。

姉小路信綱 飛騨国司・従六位下 足利幕府・飛騨守護代
三条実信  従五位下・侍従に任官
三条三郎

武田信玄 従四位下 大膳大夫兼甲斐守・足利幕府・礼式奉行 国持衆 甲斐守護        
武田義信 従五位下 大膳亮 足利幕府・准国持衆・飛騨守護・善信から義信に改名

田向重継 飛騨田向家当主・従三位参議

 今気づいたけど、これって家内融和に悪くないかな? 信繁・信廉・信顕・信龍・宗智叔父さん達は官職も貰ってたっけ? 駿河で信虎爺ちゃんと一緒にいる信顕叔父さんや、姉小路信綱の弟・信龍・宗智叔父さんまだいいとして、兄である信繁・信廉叔父さんが嫉妬しないだろうか? 信玄と相談しよう!

 信玄と相談の上で、信繁叔父さんには左馬助・正六位下を、信廉叔父さんには大膳大進・従六位上を貰えるように朝廷工作することにした、実に面倒だが、この辺を手抜きすると武田が不利になった時、手痛いしっぺ返しを喰らうことになる、当主就任を約束して子弟に裏切り工作するのは戦国時代の常套手段、叔父さん達へ目配り手配りするのは必要不可欠なのだ。


1月4日『躑躅城 義信郭 義信私室』

 遂に長尾景虎(上杉謙信)が越後守護代に就任した。昨年末の12月30日に、守護・上杉定実の調停で、兄の晴景養嗣子と体裁を整えた上で、晴景が隠退し景虎が三条(府内)長尾家の当主となり、春日山城に入り19歳で守護代となった。

 さてこれで武田信玄の最大の障壁が誕生してしまった、俺はどうするべきか? 川中島と桶狭間のどちらを歴史転換点にすべきか? 今直ぐ決めるべきことではないが、常に四方に気を配り、彼我の国力差・戦力差を正確に把握しなければならない。『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』は守らなければならない。

 新しく俺の下に来た焼酎杜氏や難民を、生産力・戦力化した、境目の年貢を免除した結果が以下だ。

『義信直轄力』

甲斐水田  1100町(1万1000反)
甲斐畑    700町(7000反)
信濃水田  1900町(1万9000反)
信濃畑   2400町(2万4000反)

取れ高
玄米  3万0000石
雑穀  6万2000石

備蓄兵糧
玄米   25万石
麦    60万石

焼酎生産力
杜氏20人
杜氏1人当たり3石甕1000個前後
20×3×1000=6万石
6万石×(1合卸値45文)=270万貫文

鉄砲   1728丁
三間槍  4000本
三間薙刀 3000本
弓    5000張
大型弩砲  200基
打刀   8000振
太刀   3000振
足軽具足 1万3000個

足軽弓隊  1200兵
足軽槍隊  2500兵
扶持武士団 4900兵
騎馬隊   3000兵
工夫兵   4000兵

繁殖牝馬   1423頭
訓練育成中の軍馬
0歳馬  1406頭
1歳馬   877頭
2歳馬   467頭
3歳馬   188頭

繁殖牝牛   824頭
育成中の牛
0歳牛  803頭
1歳牛  510頭
2歳牛  198頭
3歳牛  101頭

合戦・牛馬・武具・米麦・恩賞・裏工作費用など歳出
90万貫文

『軍資金』
使用不能な武田貨幣
金銀銅貨合計 2000万貫文(10文黄銅貨が特に使えない・半分は信玄保有)

使用可能な精銭・永楽銭
170万貫文

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