上 下
2 / 8

1話

しおりを挟む
「カチュア公女様。
 どうかお逃げください。
 アメリア女大公殿下が御命を狙っています」

「馬鹿な事を言わないで。
 義母上は私をとても大切にしてくださっています。
 そんな事をされるわけがありません」

「それはカチュア公女様の生血を啜り、生肝を食べるためです。
 アメリア女大公殿下は永遠の美貌を望んでいるのです。
 不老不死を望んでいるのです。
 そのために、カチュア公女様を十五歳まで生かしていたのです。
 今日の誕生日に、カチュア公女様を捕えるよう私に命じられたのです」

 騎士イスファンの懺悔は、私には衝撃的過ぎました。
 最初は信じられませんでした。
 頭から否定しました。
 私は義母上に本当に大切に育ててもらったのです。

 ですが、証拠を見せつけられました。
 イスファンの首には、醜い噛み傷がついていたのです。
 そこで思い出したのです。
 義母上に仕える近衛の騎士や侍女達が、首を隠すスカーフをしている事を!

 更に恐ろしかったのは、暇をとって城から下がったと聞いていた若い侍女が、全員義母上に喰い殺されているというのです。
 腹を切り裂かれ、激痛に苦しみ泣き叫ぶところを、生きた状態で肝を喰われるのだそうです。
 それが、義母上の若さと美貌の秘訣なのだというのです。

 それと、聞くのも不潔でしたが、男の精を啜るのだそうです。
 生肝を喰らいながら生血と精を啜り、若さと美貌を保っているのだそうです。
 私は恐怖に震えました。
 泣き叫びながら逃げ出したくなりました。

 それを慰めてくれたのは、翅蜥蜴のハクです。
 全身が純白のとても珍しい翅蜥蜴です。
 私の住む離宮の庭で死にかけているのを、偶然見かけ助けたのです。
 それ以来ずっと一緒に暮らしてきました。

「カチュア公女様。
 急いでお逃げください。
 侍女がおかしな目でこちらを見ております。
 アメリア女大公殿下のスパイに違いありません」

 私は何も持たずに離宮から逃げ出しました。
 世間知らずな私は、恐怖に囚われそのまま逃げ出してしまいました。
 手に持っているのは、抱いてる翅蜥蜴のハクだけです。
 本当は現金や換金できる貴重品を持ち出すべきでした。

 いえ、それは不可能でした。
 そんな事をすれば、離宮からすら逃げ出せなかったでしょう。
 何故なら、離宮を出て直ぐに追っ手に取り囲まれてしまったのです。
 義母上の側近くに仕える騎士が、私とイスファンを囲んだんです

「裏切ったなイスファン!
 アメリア女大公殿下を裏切るなど絶対に許さん!」

「カチュア公女様!
 私が囲みを破ります。
 こいつらはカチュア公女様を生きて捕えなければいけません。
 暴れて暴れて、死を賭して暴れてください。
 必ずチャンスはあります」

 そう言い残すとそう、イスファンは王宮から王城につながる門の方に斬り込んでいきました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

筋書きどおりに婚約破棄したのですが、想定外の事態に巻き込まれています。

一花カナウ
恋愛
第二王子のヨハネスと婚約が決まったとき、私はこの世界が前世で愛読していた物語の世界であることに気づく。 そして、この婚約がのちに解消されることも思い出していた。 ヨハネスは優しくていい人であるが、私にはもったいない人物。 慕ってはいても恋には至らなかった。 やがて、婚約破棄のシーンが訪れる。 私はヨハネスと別れを告げて、新たな人生を歩みだす ――はずだったのに、ちょっと待って、ここはどこですかっ⁉︎ しかも、ベッドに鎖で繋がれているんですけどっ⁉︎ 困惑する私の前に現れたのは、意外な人物で…… えっと、あなたは助けにきたわけじゃなくて、犯人ってことですよね? ※ムーンライトノベルズで公開中の同名の作品に加筆修正(微調整?)したものをこちらで掲載しています。 ※pixivにも掲載。 8/29 15時台HOTランキング 5位、恋愛カテゴリー3位ありがとうございます( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ
恋愛
「ご挨拶申し上げます。わたくしフェルマー公爵の長女、アメリアと申します」 男性優位が常識のラッセル王国で、女でありながら次期当主になる為に日々頑張るアメリア。 最近は可愛い妹カトレアを思い、彼女と王太子の仲を取り持とうと奮闘するが…… あれ? 夢に見た恋愛ゲームと何か違う? ーーーーーーーーーーーーーー ※主人公は転生者ではありません。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

処理中です...