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第二章貴族偏

剛槍

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「殿下!」

「おう!」

 ドウラさんの指示に従って、ヨジップ第三皇子殿下が一歩踏み込まれます。
 レオン第四皇子よりも、安全を図る間合いが近いです。
 いえ、敵の攻撃を受けることを考慮した上での踏み込みです。
 レオン第四皇子のように、絶対に攻撃を受けない戦い方とは全然違います。
 だからこそ、皇都近くの魔境で狩りをしていただけなのに、これほどの実力を身につけられているのでしょう。

「殿下!」

「おう!」

 細かな指示が不要です。
 殿下と声をかけるだけで、ドウラさんが何を言いたいのか理解されています。
 今も魔熊に深い手傷を与えられました。
 我々前衛職が牽制をしているとはいえ、ほとんど単独で魔熊を斃しそうです。
 まあ、全ては属性竜素材の牙斧槍と鱗骨革鎧と鱗骨革盾があっての事ですが。

「グォオオオオオオオ!」

 魔熊の断末魔です。
 なかなか心臓に悪い戦いぶりです。
 属性竜鱗骨盾で魔熊の攻撃を受けてから受け流す、一つ間違えばヨジップ第三皇子殿下が一撃で死んでしまうような戦い方は、指導役の我々の責任になりかねない、絶対に止めたい戦い方です。

 ですが、ドウラさんもジョージ様も止められません。
 槍術も剣術も、見切りが大切な事に変わりはありません。
 いえ、全ての武闘術は、攻撃も護りも、見切りができて初めて成り立つのです。
 そう言う意味では、盾で敵の攻撃を一旦受け止めてから流すヨジップ第三皇子殿下の流儀を、止めるわけにはいかないのです。

 そして、受け流して敵に隙ができた所を、属性竜の牙で作り上げた斧槍で攻撃するのですから、普通の魔獣なら一撃で斃せます。
 魔熊ですら、一撃で首を跳ね飛ばされています。
 まあ、あまり皇族をほめたくはないのですが、ヨジップ第三皇子殿下の剛力も素晴らしいモノがあります。

「殿下。
 次は鉤竜を狩ってもらいます。
 覚悟をしてください」

「望むところだ。
 直ぐにやってくれ」

「ラナ、頼んだよ」

 早過ぎます。
 わずか五日間で、魔狗から鉤竜に獲物のレベルが変わるなんて、信じられない身体強化の速さです。
 これなら、属性竜探索に戻れる日も近いかもしれません。
 私がやらかした結果ではあるのですが、魔都城代がレオン第四皇子からヨジップ第三皇子殿下に代わって、また一から鍛え直しかと思っていたのです。

 ですが、油断は禁物です。
 魔獣と亜竜種では強さが全く違います。
 攻撃の速さも段違いです。
 いきなりの変更では、見切りが追いつかない可能性もあります。
 いざという時には、命懸けで割り込んで助けなければいけないかもしれません。
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