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第一章冒険者偏

皇国騎士団訓練

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「みんな、今日は狩りを休むことになった。
 本当なら休養日だから好きにしなと言いたいところだが、本部から出るな。
 特に女は出るんじゃないよ。
 面倒ごとに巻き込まれるからね」

 ドウラさんが急な話を持ってきます。
 腹立たしい事ですが、もう慣れました。
 臨時訓練が始まったのでしょう。
 そう、魔都に駐屯している皇国騎士団と徒士団の訓練です。

 皇国軍は基本皇都警備が最優先されますが、各地の拠点にも配備されています。
 その配備先の一つに、魔都があります。
 魔都の皇国軍には、大きな役割があります。
 魔境で狩り集められる素材の収集という重大な役割です。

 魔都派遣が、騎士団や徒士団にとって美味しいのか不味いのかといえば、とても不味い嫌な役割だそうです。
 狩った魔獣の素材代金が、少しでも騎士団徒士団に分配されるなら、美味しい役目なのでしょうが、領地を得たり俸給を得ている以上、役目中に手に入れたモノは全て皇国に納めなけれいけません。

 まあ、よほど突出した魔獣を狩れれば出世の糸口になるようですが、たいがいは指揮官に手柄を横取りされます。
 指揮や作戦がよかったという事になって。
 家を継ぐのに必要な最低限の能力しかない騎士や徒士にとって、単身赴任で訓練死する確率の高い魔都は、完全な左遷だそうです。

 だから訓練出陣前は恐ろしく荒れます。
 それでなくても荒々しい魔都が、身分を笠に着た騎士団や徒士団がのし歩き、治安が最悪になりますが、魔都を預かる役人も見て見ぬふりをします。
 でもこれは訓練出陣前だけではないのです。
 訓練出陣後も続くのです。

 生きて帰ってこれたことをよろこび、死んでいった同僚を悼み、これまた散々酔って暴れまわります。
 なかには無銭飲食や婦女暴行まで起こす奴がいます。
 さすがに家を押し入るのはご法度だそうですが、商売女や家を出ている女は、何かされたと訴え出ても売春上のいざこざと無視されます。
 こんな無法状態ですから、ドウラさんも外出を禁止します。

「ドウラさん!
 質の悪い連中が向かいの家に押し入りました!」

 ブチ!

 あ、切れました。
 ドウラさんの堪忍袋の緒が切れたのが誰の目にも明らかです。
 ドウラさんが来るまでは結構好き勝手していた魔都の冒険者ですら、騎士団と徒士団の訓練日には息をひそめていたそうです。
 正義感が強いドウラさんでさえも、ゲイツクランの元であるゲイツ家の事を考えて、騎士団徒士団の乱暴狼藉を見て見ぬふりしていました。

 ですが、ここまでです。
 冒険者の夫を亡くし、女手一つで幼い娘二人を育てている家に押し入るなど、ドウラさんの逆鱗に触れました。
 馬鹿な連中です。
 私も憂さ晴らしさせてもらいましょう。
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