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第一章冒険者偏

魔狗

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「この辺りには魔狗の群れがいる。
 気をつけて行動しな」

 激闘の一日はドウラさんの警告から始まりました。
 今迄の私達は、行動を制限されていました。
 個の強さが備わるまでは、ドウラさんの許可した範囲しかいけませんでした。
 私達を無駄死にさせないために、ドウラさんの優しさです。
 だから狩りは基本前後にしか敵のいない大ダンジョンで行いました。

 大魔境で狩りをするのは、緊急で魔獣薬が必要な時だけでした。
 魔熊などをピンポイントで狙う時だけでした。
 ですが今日からは、次の段階に進むそうです。
 全周囲に警戒を張り巡らせ、魔獣の襲撃に備えるのだそうです。

 明らかに怪しいですよね。
 あのドウラさんが。
 今迄の大魔境での狩りでは、一度も魔狗に遭遇させずに狙った獲物に案内してくれた、あのドウラさんがです。
 次の段階に入った初日に、魔狗に群れがいると警告するのです。

 絶対に魔狗と戦わせるためです。
 ため息がでそうになりますが、頑張るしかありません。
 魔狗は百キログラム程度で、単体ではそれほど強いわけではありません。
 ですが大きな群れを作るのです。
 最低でも百頭以上の群れです。
 数が少ない時は、他の群れに合流するほどの社会性を有しています。

 百頭もの群れに一斉に襲われたら、中堅どころの冒険者でも厳しいです。
 私達はこの短期間に中堅どころの実力がついたと、ドウラさんが認めてくれたことになるのです。
 うれしい反面、怖くもあります。
 ひとつ間違えば魔狗の餌になります。

 でも、美味しい面もあります。
 魔狗一頭の単価は二万小銅貨前後です。
 それが百頭以上いるのです。
 全滅させることができれば、二百万小銅貨以上の利益です。
 私の取り分も二十万小銅貨以上になります。
 最近の日当が八万小銅貨から十二万小銅貨になっていましたが、魔狗の群れを狙って狩るようになれば、日当が倍増する事になります。

「三人は身体を張ってエマとニカを護りな。
 エマとニカは斃された奴の回収を優先しな。
 余力があればリーダー格を狙うんだ」

 私達前衛三人は必死でしたが、ドウラさんにはまだ余裕があるようです。
 前衛三人が、魔狗を斃すことより追い払うような戦い方になっているのに、ドウラさんの投擲は的確に一撃で魔狗を斃します。
 それをエマとニカが回収しつつ、小群のリーダーを攻撃魔術で斃します。
 みるみる魔狗の群れが少なくなっています。
 
 なので前衛三人が斃した魔狗は少ないです。
 本当に単なる肉壁でしかありません。
 以前ドウラさんが、金を惜しまず最優先で武器と防具を買えと言われた意味が、身に染みて分かります。
 魔熊革を重ねて強化した全身鎧がなかったら、肉壁にもなれませんでした。

 結局百三十二頭の魔狗を狩って、三百九十六万小銅貨の収入になりました。
 私の日当は三十九万六千小銅貨です。
 莫大な利益を得ることができましたが、疲れました。

「明日からは魔狗専門で狩るからね。
 覚悟しときな」

 ダニエルが半泣きです。
 たぶん私も……
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