上 下
8 / 22
1章

1話

しおりを挟む
「ウォォォォォ!
 どけ、どけ、どきやがれ!
 人間様を舐めるじゃねぇ!」

「ふぇふぇふぇ。
 青春じゃのう」

 百婆ちゃんはからかうが、そんな場合じゃないだろう!
 女の子が襲われているの、何余裕こいているんだよ!
 絶対に俺より強いんだから、さっさと助けろよ!

「どけ、死ね、邪魔だ!」

 転移魔法なのか何なのか分からないけれど、いきなり場所が変わった。
 そこにはコボルトよりは大きいけれど、平均的な日本人よりは小さい、緑の肌をした人型が数多くいた。
 しかもすでに誰かと戦っている。
 戦っている相手は明らかな人間で、しかも女の子に見える。

 女の子の周りには、血塗れで倒れている人間が数人いる。
 その人間のなかには、頭が潰れている者もいれば、首のない人間もいる。
 それを意識した途端、意識せずに走り出していた。
 体が勝手に動いて、進路を妨げるゴブリンを叩き殺していた。

 どういう材質なのかはわからないが、百婆ちゃんが貸してくれた蜻蛉切という大きくしなる槍を、縦横無尽に振り回して駆け抜けた。
 俺の知る戦国時代の槍は、柄のしなりを利用した打撃兵器だ。
 斬る突くよりも、しなりを利用して敵の胴を叩き、肋骨を叩き折ったり脳震盪を起こさせたりする兵器だ。

 だが蜻蛉切は違う!
 確かに槍先の腹で叩いたときは斬ることはない。
 だがその破壊力は、脳震盪や骨折ではすまないのだ。
 頭部に当たれば頭蓋事を粉砕して脳漿をぶちまける!
 胴に当たれば全ての骨と内臓を粉砕破裂させる!
 槍先の刃の部分が当たれば、一刀両断にする!

「安心しろ!
 死ななくていい!」

 何故か分かってしまった。
 この娘が自殺を覚悟していることを。
 過去読んだことのある多くの小説や、観たことのあるアニメで描かれているゴブリンの習性を思い起こせば、劣情の餌食になるくらいなら死を選ぶのだろう。
 それがこの世界の常識かどうかは分からないが、少なくともこの娘は死を選ぶ。

 絶対に死なせない!
 眼の前で女の子を死なせてたまるか!
 中二病と笑うなら笑え!
 百婆ちゃんに騙されて異世界に来てしまったけれど、来た以上は自分の好き勝手させてもらう。

「これを使え!」

 俺は百婆ちゃんが貸してくれた鬼丸という剣を鞘ごと娘に渡した。
 後で百婆ちゃんに怒られるかもしれないけれど、知るもんか!
 この状況で、武器を失った娘に予備の武器を貸さない選択などない。
 
「やぁぁぁあ!」

 何と美しい声なんだ?
 鬼丸を渡した途端、裂帛の気合とともに娘は立て続けに六鬼のゴブリンを斬り斃し、懐から素焼きの壺を取り出すとグビリと一息で飲み、お礼を言ってきた。

「ありがとう。
 生きて帰らたら必ずお礼はする」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ
ファンタジー
 鳥に乗って空を飛べるなんて、まるで夢みたい――。  菓子店で働く天宮胡桃(あまみやくるみ)は、父親が異世界に勇者召喚され、エルフと再婚したことを聞かされた。  まさか自分の父親に妄想癖があったなんて……と思っているのも束の間、突然、目の前に再婚者の女性と義妹が現れる。  そのエルフを象徴する尖った耳と転移魔法を見て、アニメや漫画が大好きな胡桃は、興奮が止まらない。 「私も異世界に行けるの?」 「……行きたいなら、別にいいけど」 「じゃあ、異世界にピクニックへ行こう!」  半ば強引に異世界に訪れた胡桃は、義妹の案内で王都を巡り、魔法使いの服を着たり、独特な食材に出会ったり、精霊鳥と遊んだりして、異世界旅行を満喫する。  そして、綺麗な花々が咲く湖の近くでお弁当を食べていたところ、小さな妖精が飛んできて――?  これは日本と異世界を行き来して、二つの世界で旅行とスローライフを満喫する胡桃の物語である。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】ヒトリぼっちの陰キャなEランク冒険者

コル
ファンタジー
 人間、亜人、獣人、魔物といった様々な種族が生きる大陸『リトーレス』。  中央付近には、この大地を統べる国王デイヴィッド・ルノシラ六世が住む大きくて立派な城がたたずんでいる『ルノシラ王国』があり、王国は城を中心に城下町が広がっている。  その城下町の一角には冒険者ギルドの建物が建っていた。  ある者は名をあげようと、ある者は人助けの為、ある者は宝を求め……様々な想いを胸に冒険者達が日々ギルドを行き交っている。  そんなギルドの建物の一番奥、日が全くあたらず明かりは吊るされた蝋燭の火のみでかなり薄暗く人が寄りつかない席に、笑みを浮かべながらナイフを磨いている1人の女冒険者の姿があった。  彼女の名前はヒトリ、ひとりぼっちで陰キャでEランク冒険者。  ヒトリは目立たず、静かに、ひっそりとした暮らしを望んでいるが、その意思とは裏腹に時折ギルドの受付嬢ツバメが上位ランクの依頼の話を持ってくる。意志の弱いヒトリは毎回押し切られ依頼を承諾する羽目になる……。  ひとりぼっちで陰キャでEランク冒険者の彼女の秘密とは――。       ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さん、「ネオページ」さんとのマルチ投稿です。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

処理中です...