皇女激愛戦記

克全

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第二章

第55話:離宮暮らし

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 皇紀2220年・王歴222年・初冬・皇居・12歳

「ねえ、シャーロット、主上は冬ごしらえができたのかしら」

 赤々と燃え盛る暖炉の前で寛いでいたわたくしは、遥か彼方に忘れ果てていた皇帝の話をされて、少し苛立ちを感じてしまいました。
 わたくしはもう斬り捨てているのですが、母上様はまだ皇帝に情愛があるようで、完全に意識の外に置く事ができないようです。
 北山魔境近くの離宮は、初冬とはいえとても冷えるので、ハリー様からの支援がなかった頃の事を思い出されたのかもしれません。

「畏れ多い事ながら、食糧も薪もほとんど手に入れられないようでございます」

「やはり、私達がいなくなったことで、ハリー殿の支援が無くなったのですか。
 兄上と父上は、ヴィンセント子爵家は支援をしないのですか」

「ヴィンセント子爵家も、ハリー様を怒らせるのは恐ろしいようでございます。
 それでなくてもミア皇女殿下が皇居を離れられた事で、今まで預かっていた民が全ていなくなり、ヴィンセント子爵家への支援が激減しております」

「選帝侯家はどうしているのですか、テンペスト選帝侯家は断絶し、リンスター選帝侯家は没落していますが、ドニゴール選帝侯家とアバコーン選帝侯家とハミルトン選帝侯家は残っているではありませんか。
 それでなくても彼らが主上を唆してミアを激怒させたのです。
 その責任を取るのは当然ではありませんか」

「ソフィア様、三家はミア皇女殿下を激怒させたのでございます。
 皇国の貴族や騎士の領地を虎視眈々と狙っている王国の貴族や騎士が、この好機を見逃すはずがありません。
 三家の領地はことごとく横領され、薪一束、麦一粒も手に入れる事ができなくなり、皇国の御役目を放棄して遠くの王国貴族を頼って逃げて行きました」

「おのれ、何たる卑怯、何たる不忠、そのような者が選帝侯を名乗るなど、不遜にも限りがあります。
 絶対に許す事などできません、罰を与えることはできませんか」

「それは皇帝陛下がなさる事でございます。
 ソフィア様には、もっと大切にしなければいけない事があるのではないですか」

「何か、大変な事があるのですか、シャーロット」

「困窮した皇帝陛下にカンリフが近づき、ミア皇女殿下に復讐するように囁いたら、皇帝陛下はミア皇女殿下討伐の勅許をカンリフに与える可能性があります。
 そのような事になった場合、春になったら、カンリフが数万の軍勢を引きてこの離宮に攻め込んで来るかもしれないのです」

 情けない事ではありますが、あの皇帝なら平気で逆恨みする事でしょう。
 カンリフにこの領地を渡すと言われたら、喜んでわたくしを生贄に差し出します。
 あれはそのような生き物ですから、怒っても嘆いてもしかたがありません。
 ですが、ハリー様が整えてくださったこの離宮はそう簡単に落ちません。
 難民と貧民に加えて、わたくしを慕ってくれた首都の民も離宮に移住してくれたので、総勢八万の民がいます。

 それに加えて、ハリー様は送ってくれた将兵が千、戦闘侍女が千もいてくれます。
 なにより心強いのは、魔狼が二百頭もいてくれる事です。
 一頭で雑兵百に匹敵する言われる最下級の魔狼ではなく、上位種の魔狼です。
 カンリフが数だけ集めた雑兵など物の数ではありません。
 カンリフがわたくしに主力軍を差し向けている間に、前回わたくしの討伐命令に従ってくれた貴族や騎士にもう一度蜂起してもらいましょう。
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