皇女激愛戦記

克全

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第二章

第32話:パーフェクトスリープ

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 皇紀2218年・王歴220年・秋・北山奥地の魔境・10歳

「ハリー様から授かった魔宝石と魔法陣の威力を思い知れ。
 パーフェクトスリープ、パーフェクトスリープ、パーフェクトスリープ。
 パーフェクトスリープ、パーフェクトスリープ、パーフェクトスリープ。
 パーフェクトスリープ、パーフェクトスリープ……」

 余りにも呆気ない幕切れに、茫然自失となってしまいました。
 俺ほど猛威を振るっていた強大な敵が、たった一つの魔術で眠りこけたのです。
 しかも、ハリー殿から貸し与えられたという剣で急所を刺し貫いても、全く起きる事なく眠ったまま死んでしまいました。
 わたくし達の命懸けの戦いなど、ハリー殿から見れば、子供の遊びでしかなかったというのですか。

「ミア王女殿下、何を惚けておられるのですか。
 まさか、生まれて初めての実戦で、ハリー様以外の今生きている王国貴族の誰も成し遂げられない竜殺しを、ご自身ができると思われていたのですか。
 そのような夢を見ていて、ハリー様の領地に行きたいなどと申されるのは、余りにも無謀でございます。
 ご自身ができる事とできない事、味方ができる事とできない事、敵ができる事とできない事、よく理解しておかないと生き延びられませんよ」

 はっきりと、それでも、王女として手心を加えられている叱責に、思わず顔が真っ赤になってしまいました。
 幸運にも王女に生まれただけで、何の努力もせずに尊き地位を与えられ、狭い限られた範囲ではありますが、権力も与えられたのです。
 その使い方を誤れば、皇帝のように周りに不幸を振り撒いてしまいます。
 王女の地位を振りかざすだけでは、ハリー殿の、いえ、ハリー様の正室になる事などできないのです。

「分かりました、シャーロット。
 不遜過ぎるプライドを持ってしまっていたようですね。
 自分の実力に合ったプライドを持って行動するようにしましょう。
 それで、この後わたくしは何をすればいいのでしょうか」

「ミア王女殿下は、ご自身の手で鉤竜の群れを全滅されたわけではありません。
 しかしながら、指揮官として将兵を率いられて斃されたのは間違いありません。
 ミア王女殿下以外の者が指揮を執っていたら、最初の時点で全滅しております。
 竜殺しの王女として、堂々と皇居に凱旋していただきます」

 実際に鉤竜の群れを全滅させたのはシャーロットなのに、わたくしがその栄光を横取りするような事をしていいのでしょうか。
 いえ、シャーロットも四頭の鉤竜を沼に沈めていましたが、完全に斃したわけではなく、ハリー様の魔術のお陰で狩れたのです。
 全ての功績はハリー様の手にお返しすべきものなのではないでしょうか。

「ミア王女殿下、世の中には、ちっぽけな名声など不要な方もおられるのですよ」

 私の心中の悩みなどシャーロットは簡単に察するのですね。
 そして明確な答えを返してくれるのです。
 名声が不要なほど強大な力を持った方、それがハリー様なのですね。
 そのハリー様が、わたくしに名声を譲ってくださると言う事は、わたくしが名声を得ることがハリー様の利になると言う事ですね。
 ハリー様がそのような事を考えておられなくても、シャーロットが考えています。
 
「分かりました、では、皇居に凱旋させていただきましょう」
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