皇女激愛戦記

克全

文字の大きさ
上 下
23 / 80
第二章

第23話:脅迫交渉

しおりを挟む
 皇紀2218年・王歴220年・初秋・皇居・10歳

「ならん、絶対にならん、そのような皇家の品位を穢す事は絶対に許さん」

 わたくしの可愛いお願いを、またしても皇帝が禁止してしまいます。
 ハリー殿にお願いして、さっさと廃位させた方がいいのではないでしょうか。
 ベンジャミンの方が素直ですから、わたくしの願いを聞いてくれるはずです。
 ベンジャミンが皇帝になれば、ベンジャミンが望んでいる、ハリー殿の所への行幸も簡単にできるでしょうし、遷都だって不可能ではありません。
 わたくし、随分と勉強しましたから、色々と知っているのです。

 ですが、シャーロットがこちらを睨んでいますから、許してくれなさそうです。
 シャーロットはハリー殿が一番なので、とても危険です。
 ハリー殿の名誉を護るためなら、自分が殺される事も厭わず、皇帝やわたくしまで殺すかもしれないと母上様に注意されています。
 何時ものように皇帝を脅すのは止めた方がいいようです。
 ここはシャーロットに任せた方がいいでしょう。

「シャーロット、わたくしが狩りをするのはそれほど悪い事ですか」

「恐れながらミア王女殿下に答えさせていただきます。
 狩りに行くことは悪い事ではなく、皇家のためになる事だと思われます」

「それはどういう意味だ、シャーロット、直答を許すから、詳しく説明しろ」

 この宮にいる限りは何時でも直答を許すと言っておきながら、自分の気分で直答を許したり許さなかったりする皇帝は、本当に身勝手だと思います。
 わたくし、絶対にこのような皇族にはなりません。

「恐れながら御許しをいただきましたので、皇帝陛下にお答えさせていただきます」

「カンリフ騎士家が日に日に力を蓄えております。
 先々代の皇帝陛下から勘気をこうむり、追放刑にされたリンスター選帝侯家の血を受け継ぐ方が、カンリフ騎士家の分家を継ぐ立場となりました。
 リンスター選帝侯家の現当主が皇家や皇国を恨んでいるとしたら、何時皇居の兵を差し向けるか分からないのです。
 皇国貴族の方の中に、皇国貴族を束ねて戦える方がおられればいいのですが、生憎一人も頼りになる方がおられません。
 その時には、皇国軍の指揮を執れる皇族が必要だと思われます」

「それがミアだと言いたいのか、馬鹿馬鹿しい。
 小娘でしかないミアに何ができると言うのだ」

「ミア王女殿下が立たれれば、首都にいるハリー様の息のかかった者共は、何を置いても馳せ参じる事でしょう。
 しかもミア王女殿下は、リンスター選帝侯家の血を受け継ぐ方とは義理とはいえ従姉弟になるのです。
 流石にカンリフ騎士家も戦い難いと思われます」

「朕が何も知らないと思っているのか、シャーロット。
 もし本当にカンリフ騎士家が朕と上手くやりたいと思っているのなら、皇家や皇国貴族から忌み嫌われているリンスター選帝侯家の血を受け継ぐ長男次男ではなく、ミアと同じヴィンセント子爵家の血を受け継ぐ三男を分家の後継者に指名するはずだ」

「皇帝陛下は流石によくご存じですが、少々間違っておられます」

「朕が何を間違っているのだ」

「皇家や皇国貴族の後継者問題を思い出していただきたいのです。
 どれほど王家に強く介入されたとしても、皇統を捻じ曲げるような、正室の子を廃嫡にして側室の子を後継者のするような事があるでしょうか」

「朕の意にそぐわなくても、正嫡を守ると言うのだな」

「それを守らずに王位を争ったからこそ、この国は乱れているのではありませんか。
 地方騎士から身を起こし、この国を束ねようとしているカンリフ騎士家が、正嫡に拘るのはしかたがない事だと思われます」

「では、その正嫡に拘るカンリフ騎士家が、ミアに拘ると思うのは何故だ」

「ミア王女殿下を支援するハリー様を気にしているのです。
 それと、新たな王家を立てるのに皇帝陛下を味方に取り込みたいのでしょう
 皇帝陛下が上手く交渉なされたら、ミア殿の従弟である分家の三男は、独立して一地方を支配する立場になるかもしれません。
 それが首都地方となる可能性もあるのです、皇帝陛下。
 そのためにも、ミア王女殿下が一軍を率いる力を得るべきなのです。
 力と名声を得るために、狩りで実戦訓練をされる必要があるのです」

 段々シャーロットが何を言っているのか分からなくなってきました。
 皇帝もシャーロットが何を言っているか分からないようです。
 ですが、何を言っているかなどどうでもいい事です。
 狩りさえできるのなら、誤魔化されても言い包められてもいいのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

処理中です...