皇女激愛戦記

克全

文字の大きさ
上 下
11 / 80
第一章

第11話:皇国名誉男爵

しおりを挟む
 皇紀2217年・王歴219年・秋・皇居

「そうだ、まずは葬儀費用を単独で負担してくれたことを評して、皇国名誉男爵の地位に封じてしまおう。
 即位式の費用を負担してくれたことを公表する時に、皇国名誉伯爵か皇国名誉侯爵の地位に封じれば、ミアを降嫁させる事も不可能ではなくなる」

「恐れながら主上、それでは皇女として降嫁するのは難しいのではないでしょうか」

「ソフィアは最初、実家の養女としてハリーに嫁がせる気でいたのではないのか」

「母親とは、子供のためならとても欲深くなれるのです、主上。
 ハリー殿の支援で皇女となれるとなれば、皇女として嫁がせたいと思うのです。
 そして皇国名誉男爵よりは本当の皇国男爵に。
 皇国名誉伯爵よりは本当の皇国侯爵に降嫁して欲しいと望むものなのです」

「そうなのか、父親とは随分違うのだな」

「はい、父親と母親では子の対する愛情が根本的に違うのです。
 夢だとは分かっていても、娘を皇国侯爵に降嫁させたいと願うものなのです」

「わたくし、その方法を教えていただきました」

 突然両親の会話にミア王女が加わってきた。

「なんだと」
「なんですって」

「わたくし、ずっと不思議だったのです。
 主上が安心して暮らしていけると言ってくださる修道院を、母上がとても嫌っているのが、とても不思議で仕方がなかったのです。
 本当は主上や母上にお聞きしたかったのですが、何だか聞いてはいけない気がして、聞けなかったのです。
 それで、母上や伯父上がとても褒めておられるハリー殿が、わたくしのために差し向けてくれた女官に聞いてみたのです。
 それでようやく分かりました。
 何故母上があれほど修道院を嫌っておられたのかを」

「シャーロット、ミアに何を言ったのですか」

「申し訳ございません、ソフィア様。
 しかしながら、ミア殿下に王女として主命で聞くと言われてしまっては、嘘偽りを口にする事などできません」

「……ミアにそう言われて、嘘をつくようでは女官として失格ですが、ミアに教える前にわたくしに許可を求めるべきでしたよ」

「申し訳ございません、ソフィア様。
 しかしながら、私もハリー様から言い付かっていた事がございますので、ミア殿下に教えない訳にはいかなかったのでございます」

「ハリー殿から何を言われていたというのですか」

「はい、できる限りソフィア様とミア殿下の御意に従うようにと。
 しかしながら、例えソフィア様とミア殿下の意にそぐわない事であろうと、御命を守るためなら断じて行えと。
 心や身体の傷は、時間をかけて必ず治してさしあげるから、何としてでも生きていただけと、そう厳しく命じられております。
 ミア殿下の御下問も、御命を御守りするのに必要だと考えてお伝えさせていただきました」

「ハリー殿がそのように言われたのですか……
 ハリー殿がそこまで心配しなければいけないほど、危険な状態なのですか」

「はい、恐れ多い事ですが、狂信者共がミア殿下を狙っております。
 先に修道院入りされた姉君のライナ殿下は、修道僧に嬲り者にされ、金で信徒に売られ、心身を著しく損ねられ、乱心されておられます。
 ミア殿下がそのような事にならないように、迂闊に一人で庭出られないように、真実を御話しさせていただきました」

「なに、それは本当の事か、ライナは本当にそのような酷い目にあっていたのか」

「……」

「直答を許すから答えるのだ、シャーロット。
 朕がこの後宮にいる間は特別に直答を許す、だから全て話せ」

「はい、全て真実でございます。
 ミア殿下を確実に御守りするために必要な情報として集めました」

「知っていて何故朕に黙っていたのか答えよ、シャーロット。
 返答次第では許さぬぞ」

「ソフィア様から、主上は皇家の面目を護るために、全てを知った上でライナ殿下を修道院に入れ、ミア殿下を修道院入りさせようとしているとお聞きしていました。
 それ故に、お耳に入れる必要はないと思っておりました」

「……確かに言った、言ったがそこまで酷いとは思っていなかったのだ。
 神官や修道僧の妻のようにされているとは思っていたが、まさか遊女のような扱いをされているとは思っていなかったのだ」

「遊女どころではありません。
 服で隠れて見ない場所は、残らず鞭打たれ刀で傷つけられ、奴隷どころか家畜以下の扱いを受けておられました」

「うわああああああ、馬鹿な、幾らなんでも嘘だ、思い上がっているとはいえ、あれでも神に仕える神官だぞ、そこまでの事は……」

「恐れながら陛下、あの連中は自分達が神の代弁者であると思い上がっております。
 神の代弁者の方が陛下よりも皇族の方々よりも上だと言い放っております。
 二年前も一年前も、修道院入りを延期したのが気に入らず、ミア殿下を誘拐して嬲り者のしようとしておりましたが、我らを警戒して断念しました。
 ですが今年は何としてもミア殿下を手に入れようとダエーワ影衆を雇っています」

「……嘘だ、全て嘘だ、信じられぬ、朕は信じぬぞ」

 皇帝は自分の失敗を認められずに錯乱していたが、ソフィアは現実に向き合った。

「シャーロット、それは本当の事ですか。
 本当の事だとして、シャーロット達だけで防げるのですか」

「お任せくださいませ、ソフィア様。
 このような時のための、ハリー様は我々を後宮に派遣されたのです」

「主上、母上、わたくしがハリー殿に降嫁できる方法はもう聞かれないのですか。
 ちゃんと聞いてくださらないと、ハリー殿の元に行けないではありませんか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

処理中です...