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第一章
第8話:狩り
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神暦2492年、王国暦229年2月5日:ダコタ魔境・ジェネシス視点
「陣形を乱すな!
王子に魔獣を近づけるな!
これ以上陣内に入られるのは恥だと心得よ!」
俺の師匠であるマッケンジーが、新たに配下となった者達を鍛えている。
正式には学問と魔術の師なのだが、武術もなかなかのモノだ。
領地が噴火の影響で作物が実らなくなったので、冒険者をしていたそうだ。
「槍兵、柄をしならせて攻撃先を読ませないようにしろ。
盾兵、魔獣を槍兵の懐に近づけさせるな。
弓兵はムダ矢を放つな、もったいないではないか!
採算を考えろ、採算を!」
だから狩りも普通の貴族のように遊びや訓練だとは考えていない。
生活のためにできるだけ費用を抑えて収入を増やそうとしている。
だから遠方から攻撃できる弓兵であろうとムダな矢は使わせない。
「剣兵、すばやい魔獣の動きを予測しろ。
他の連中と違って小回りが利くのだ、陣を突破されるのは恥と心得よ!」
300人以上の徒士団を編成できるとは思ってもいなかった。
俺個人に付けられた側近や護衛の子弟だけではとても集められなかった。
見廻騎士団に対する褒美で、団員の子弟を取立てた結果だった。
「王子から貸与された武器なのだぞ!
必要もないのに消耗させるな!
だが、王子に命にかかわる時は壊れる事を恐れず使え。
矢も惜しむんじゃない!」
全ては潰した騎士家の砦と王都屋敷を接収できたお陰だ。
金銀財宝は父王に渡したが、武器や家畜は確保できた。
王家の宝物殿に入れるような物でなければ、全て俺の元と認めてくれた。
軍馬の数だけ俺個人の陪臣騎士として取立てられた。
剣や槍、弓や盾の数だけ陪臣徒士として取立てる事ができた。
家畜のお陰で当面の食料や報酬も確保できた。
乳や卵を現物支給する事もできるし、王都の市場で売って現金にもできる。
セバスチャンに相談していた、嫌な方法を使わなくてもよくなった……
「ダメでございますぞ!
軍資金は多ければ多いほどいいのです。
それに、全ての屋敷を維持するための使用人はどうしても必要です。
砦の維持は領民を使う事ができますが、王都屋敷は雇わなければなりません。
これからレンドルシャム家関連の砦や屋敷も数多く手に入るのですぞ!」
そうセバスチャンに言われてしまってはしかたがない。
俺の愛妾を狙っている商人娘を受け入れるしかない。
7歳児に愛妾を送りつけようとする商人などにロクな奴はいない!
それ以外の事に関しては、予想外に順調だ。
300人で行う魔境の狩りはとても楽しい。
俺を中心に兵士が縦横無尽に動くところが特におもしろい。
自由に暴れる時間は思っていたよりも少なくなったが、全くないわけじゃない。
手に入れた領地の休耕地で軍馬を思いっきり駆けさせることができる。
魔境内なら、兵士達を動かした後で思いっきり魔術を放つ事もできる。
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「すげぇえ、すげぇえ、すげぇえ、こんな威力の魔術初めて見た!」
「魔境の木々が根こそぎ吹き飛ばされている」
「こっちの切り口半端ねぇえ、まるで名剣で一刀両断したみたいだ!」
「こっちの地面なんてきれいに堀が造られているぞ!」
「私語はつつしめ!
王子が準備してくださった資材を使って野戦陣地を造る。
魔境の中で野営をする場合の鍛錬だ。
王子は毎日必ず王都に戻られるが、徒士の者達が往復するのは厳しい。
当番制で駐屯すると心得よ!」
俺は新たに家臣となった者達に危険な事をさせる気などなかった。
だがマッケンジー達にも考えがあるそうだ。
自分達の為に魔境に砦を造らせて欲しいと言うのだ。
その為に俺に魔術を使って欲しいと正式に願い出てきた。
父王のように、政治をおろそかにして取り巻きと贅沢する気はない。
だが、忠義の家臣からの正式な願いを無視するわけにはいかない。
文書の残る正式な依頼は、問題が起きた時には責任を取るという事だ。
野戦陣地で犠牲者が出れば、処刑されてもいいと言っているのだ。
騎士の死を賭した願いはかなえてやるしかない。
「これまでの計算では、この狩場を占有できれば1日大銀貨5枚の褒美が得られる。
それだけあれば、女房子供を養っていける。
子供が大きくなるまでに、軍馬と騎士鎧をそろえる事ができる。
貸与していただいている装備をお返しして、本当の騎士になれるのだぞ!」
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「全員1人前の騎士になれるぞ!」
「これで胸を張って堂々と求婚できる!」
「騎士だ、平民冒険者にしかなれないと思っていたのに、騎士になれるんだ!」
さすがマッケンジーだ。
新参家臣の忠義を育てつつ、しっかりと利益も確保している。
役目中の家臣が狩った獲物は、主人である俺と家臣で折半になる。
強欲な主人なら全て取り上げる。
俺は家臣にそんな酷い事はしない。
命を賭けた狩りに相応しい褒美を与える。
家臣が毎日大銀貨5枚を手に入れるのなら、俺は小金貨150枚の収入になる。
1万人の領地収入が年間小金貨5000枚だから、狩り専門家臣の忠誠心を手に入れつつ、領民9万人に匹敵する収入を得る事になる。
マッケンジーが、少々無理をしてでも野戦陣地を造りたいと願い出る気持ちは分かるが、自分の金銭欲も混じっていないか?
これだけの結果を出してくれているから、喜んで指揮官手当を与えるけど。
総指揮官、軍師、100人隊長、10人隊長で歩合を提案するのは止めろ。
「マッケンジー、俺はもっと強い魔獣と戦いたいのだが、いつまで辺境部でこのような狩りを続けるのだ?」
「王子に万が一の事があれば、300人の家臣が路頭に迷うことをお忘れですか?
領地に王都の貧民や難民を集めるとも申されていましたよね?
都合よく忘れてしまわれましたか?」
「いや、忘れてなどいるものか。
ちゃんと覚えているとも」
「でしたら、まずは辺境部を確保する事に専念してください!
野戦陣地の安全が確認できれば、下働きとして貧民や難民を連れてこられます。
狩り専門家臣の収入が一時的なモノではないと確かめられれば、新たに家臣を召し抱える事ができます。
その家臣を使って、新たな野戦陣地を築く事もできるのです。
そうすれば、滞在費を取って冒険者を受け入れる事ができます。
宿や酒場、商店に貧民や難民を雇うことができるのですよ」
マッケンジーにそう強く言われてしまうと、早くもっと強い魔獣を狩りたいとは言えなくなってしまった。
父王の事を内心で非難し、貧民や難民を助けたいと口にしてしまった以上、自分の欲望を優先する事などできない。
もっとワガママになってもよかったのだろうか?
前世では、病気の影響で思いっきり身体を動かすことができなかった。
代償かと思えるほど恵まれた今生は、身勝手に生きても良いのだろうか?
ゴォオオオオオン!
腹に響くようなとんでもない鳴き声が聞こえてきた。
何者の鳴き声かは分からないが、とんでもない存在なのだけは分かる。
俺以外の全員が金縛りにあって動けなくなったのだ!
「大丈夫か?
無理をしてでも動け、このままでは魔獣が襲ってきたら殺されるぞ!」
口ではそう言ったが、魔獣に襲われる事はないと思っていた。
人間ですらこれほど影響を受けるのだ。
魔獣や魔獣のほうが強く影響を受けると思う。
「「「「「あっ、あっ、あっ、あっ」」」」」
しばらくして家臣の一部が金縛りから解放された。
全体の1割もいない。
俺がある程度戦えると思った者達だけだ。
それ以外の者達は、見ただけで分かるくらいガタガタと震えている。
先ほどの鳴き声に本能的な恐怖を感じているのだろう。
鳴き声1つでこれほどの影響を与える魔獣となると……竜しかいないか。
「おっ、おっ、おっ、おう、おうじ」
セバスチャンは忠誠心の塊のようだな。
この状態で1番先に出てくる言葉が王子か。
なんか、涙が流れそうになる。
「王子!」
さすがアンゲリカだ。
俺とほぼ同時に異常な魔獣の気配を感じている。
感じると同時に恐怖を討ち破って震えから解放されている。
「スタンピードです!
属性竜のよる噴火や津波の前に起こると言われているスタンピードです!」
「陣形を乱すな!
王子に魔獣を近づけるな!
これ以上陣内に入られるのは恥だと心得よ!」
俺の師匠であるマッケンジーが、新たに配下となった者達を鍛えている。
正式には学問と魔術の師なのだが、武術もなかなかのモノだ。
領地が噴火の影響で作物が実らなくなったので、冒険者をしていたそうだ。
「槍兵、柄をしならせて攻撃先を読ませないようにしろ。
盾兵、魔獣を槍兵の懐に近づけさせるな。
弓兵はムダ矢を放つな、もったいないではないか!
採算を考えろ、採算を!」
だから狩りも普通の貴族のように遊びや訓練だとは考えていない。
生活のためにできるだけ費用を抑えて収入を増やそうとしている。
だから遠方から攻撃できる弓兵であろうとムダな矢は使わせない。
「剣兵、すばやい魔獣の動きを予測しろ。
他の連中と違って小回りが利くのだ、陣を突破されるのは恥と心得よ!」
300人以上の徒士団を編成できるとは思ってもいなかった。
俺個人に付けられた側近や護衛の子弟だけではとても集められなかった。
見廻騎士団に対する褒美で、団員の子弟を取立てた結果だった。
「王子から貸与された武器なのだぞ!
必要もないのに消耗させるな!
だが、王子に命にかかわる時は壊れる事を恐れず使え。
矢も惜しむんじゃない!」
全ては潰した騎士家の砦と王都屋敷を接収できたお陰だ。
金銀財宝は父王に渡したが、武器や家畜は確保できた。
王家の宝物殿に入れるような物でなければ、全て俺の元と認めてくれた。
軍馬の数だけ俺個人の陪臣騎士として取立てられた。
剣や槍、弓や盾の数だけ陪臣徒士として取立てる事ができた。
家畜のお陰で当面の食料や報酬も確保できた。
乳や卵を現物支給する事もできるし、王都の市場で売って現金にもできる。
セバスチャンに相談していた、嫌な方法を使わなくてもよくなった……
「ダメでございますぞ!
軍資金は多ければ多いほどいいのです。
それに、全ての屋敷を維持するための使用人はどうしても必要です。
砦の維持は領民を使う事ができますが、王都屋敷は雇わなければなりません。
これからレンドルシャム家関連の砦や屋敷も数多く手に入るのですぞ!」
そうセバスチャンに言われてしまってはしかたがない。
俺の愛妾を狙っている商人娘を受け入れるしかない。
7歳児に愛妾を送りつけようとする商人などにロクな奴はいない!
それ以外の事に関しては、予想外に順調だ。
300人で行う魔境の狩りはとても楽しい。
俺を中心に兵士が縦横無尽に動くところが特におもしろい。
自由に暴れる時間は思っていたよりも少なくなったが、全くないわけじゃない。
手に入れた領地の休耕地で軍馬を思いっきり駆けさせることができる。
魔境内なら、兵士達を動かした後で思いっきり魔術を放つ事もできる。
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「すげぇえ、すげぇえ、すげぇえ、こんな威力の魔術初めて見た!」
「魔境の木々が根こそぎ吹き飛ばされている」
「こっちの切り口半端ねぇえ、まるで名剣で一刀両断したみたいだ!」
「こっちの地面なんてきれいに堀が造られているぞ!」
「私語はつつしめ!
王子が準備してくださった資材を使って野戦陣地を造る。
魔境の中で野営をする場合の鍛錬だ。
王子は毎日必ず王都に戻られるが、徒士の者達が往復するのは厳しい。
当番制で駐屯すると心得よ!」
俺は新たに家臣となった者達に危険な事をさせる気などなかった。
だがマッケンジー達にも考えがあるそうだ。
自分達の為に魔境に砦を造らせて欲しいと言うのだ。
その為に俺に魔術を使って欲しいと正式に願い出てきた。
父王のように、政治をおろそかにして取り巻きと贅沢する気はない。
だが、忠義の家臣からの正式な願いを無視するわけにはいかない。
文書の残る正式な依頼は、問題が起きた時には責任を取るという事だ。
野戦陣地で犠牲者が出れば、処刑されてもいいと言っているのだ。
騎士の死を賭した願いはかなえてやるしかない。
「これまでの計算では、この狩場を占有できれば1日大銀貨5枚の褒美が得られる。
それだけあれば、女房子供を養っていける。
子供が大きくなるまでに、軍馬と騎士鎧をそろえる事ができる。
貸与していただいている装備をお返しして、本当の騎士になれるのだぞ!」
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「全員1人前の騎士になれるぞ!」
「これで胸を張って堂々と求婚できる!」
「騎士だ、平民冒険者にしかなれないと思っていたのに、騎士になれるんだ!」
さすがマッケンジーだ。
新参家臣の忠義を育てつつ、しっかりと利益も確保している。
役目中の家臣が狩った獲物は、主人である俺と家臣で折半になる。
強欲な主人なら全て取り上げる。
俺は家臣にそんな酷い事はしない。
命を賭けた狩りに相応しい褒美を与える。
家臣が毎日大銀貨5枚を手に入れるのなら、俺は小金貨150枚の収入になる。
1万人の領地収入が年間小金貨5000枚だから、狩り専門家臣の忠誠心を手に入れつつ、領民9万人に匹敵する収入を得る事になる。
マッケンジーが、少々無理をしてでも野戦陣地を造りたいと願い出る気持ちは分かるが、自分の金銭欲も混じっていないか?
これだけの結果を出してくれているから、喜んで指揮官手当を与えるけど。
総指揮官、軍師、100人隊長、10人隊長で歩合を提案するのは止めろ。
「マッケンジー、俺はもっと強い魔獣と戦いたいのだが、いつまで辺境部でこのような狩りを続けるのだ?」
「王子に万が一の事があれば、300人の家臣が路頭に迷うことをお忘れですか?
領地に王都の貧民や難民を集めるとも申されていましたよね?
都合よく忘れてしまわれましたか?」
「いや、忘れてなどいるものか。
ちゃんと覚えているとも」
「でしたら、まずは辺境部を確保する事に専念してください!
野戦陣地の安全が確認できれば、下働きとして貧民や難民を連れてこられます。
狩り専門家臣の収入が一時的なモノではないと確かめられれば、新たに家臣を召し抱える事ができます。
その家臣を使って、新たな野戦陣地を築く事もできるのです。
そうすれば、滞在費を取って冒険者を受け入れる事ができます。
宿や酒場、商店に貧民や難民を雇うことができるのですよ」
マッケンジーにそう強く言われてしまうと、早くもっと強い魔獣を狩りたいとは言えなくなってしまった。
父王の事を内心で非難し、貧民や難民を助けたいと口にしてしまった以上、自分の欲望を優先する事などできない。
もっとワガママになってもよかったのだろうか?
前世では、病気の影響で思いっきり身体を動かすことができなかった。
代償かと思えるほど恵まれた今生は、身勝手に生きても良いのだろうか?
ゴォオオオオオン!
腹に響くようなとんでもない鳴き声が聞こえてきた。
何者の鳴き声かは分からないが、とんでもない存在なのだけは分かる。
俺以外の全員が金縛りにあって動けなくなったのだ!
「大丈夫か?
無理をしてでも動け、このままでは魔獣が襲ってきたら殺されるぞ!」
口ではそう言ったが、魔獣に襲われる事はないと思っていた。
人間ですらこれほど影響を受けるのだ。
魔獣や魔獣のほうが強く影響を受けると思う。
「「「「「あっ、あっ、あっ、あっ」」」」」
しばらくして家臣の一部が金縛りから解放された。
全体の1割もいない。
俺がある程度戦えると思った者達だけだ。
それ以外の者達は、見ただけで分かるくらいガタガタと震えている。
先ほどの鳴き声に本能的な恐怖を感じているのだろう。
鳴き声1つでこれほどの影響を与える魔獣となると……竜しかいないか。
「おっ、おっ、おっ、おう、おうじ」
セバスチャンは忠誠心の塊のようだな。
この状態で1番先に出てくる言葉が王子か。
なんか、涙が流れそうになる。
「王子!」
さすがアンゲリカだ。
俺とほぼ同時に異常な魔獣の気配を感じている。
感じると同時に恐怖を討ち破って震えから解放されている。
「スタンピードです!
属性竜のよる噴火や津波の前に起こると言われているスタンピードです!」
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