上 下
20 / 60
第一章

第5話:火付け盗賊

しおりを挟む
神暦2492年、王国暦229年1月17日:王都第1屋敷・ジェネシス視点

「ジェネシス王子、世の中には金を第1に望む者と名誉を第1に望む者がいます」

 俺は先ほどセバスチャンに質問した事の答えをここで教えてもらう事にした。
 セバスチャンが王城内では話せないと言ったからだ。

「うむ、その事は以前教えてもらったのを覚えている」

 ようやく話をしてもらえるようになったのは、家臣達が働いてくれたお陰だ。
 俺の物になると決まった王都屋敷を整えてくれた。
 元から住んでいた騎士と使用人を全て追い出して。

「聡明な王子の事ですから、覚えてくださっていると思っていました。
 ですが本当に実感しておられるでしょうか?」

「どう言う意味だ?」

「王子が国王陛下に望まれた実力主義の密偵達は、騎士家でも領地の少ない家の者達でございます。
 役職を与えられ、魔境で狩りをする自由を与えられても、生活に困る者ばかりでございます」

「なるほど、食べる事のできない陪臣騎士の位よりも、騎士に成れない程度のわずかな領地や、ある程度まとまった現金の方がありがたいのだな?
 彼らの子弟ならば、実力で稼げると思ったのだか、違ったのか?」

「確かに彼らの子弟ならば、金銭的余裕と時間があれば、魔境に入って稼ぐ事ができるかもしれませんが、元となる武器や防具がございません」

「……子弟に武器や防具を買い与えられないほど貧乏なのか?
 生活に困っているとは聞いていたが、それほど酷いのか?」

「近年は属性竜による噴火や津波による大被害も起きております。
 1度火山灰が降ってしまうと、何十年と農作物が採れなくなります。
 そのような領地を持つ者の困窮は見ていられないほど酷いのです」

「父王陛下や大臣達は見て見ぬ振りか?」

「属性竜や魔獣による災害は人知の及ぶところではない、と言うのが王家や王国の公式見解でございます」

「おのれの無能や怠惰を自然や魔獣のせいにするとは、卑怯すぎる!
 ……王子として、できる限りの事をしなければいけない。
 少なくとも俺の手の届く範囲だけは何とかしたい。
 何か良い方法はないか?」

「では、名誉を欲しがっている者に普通なら絶対に手に入らない名誉を与え、その対価として金銭を支払わせます。
 その金銭で手柄を立てた者達に褒美を与え、子弟に武器や防具を買い当てられるようにすれば、直ぐに良き家臣が得られます」

「だが、金のある者に我が家の使用人という名誉を与えてしまったら、もうあの者達の子弟を陪臣騎士に取立てられなくなるぞ?」

「金持ちへの名誉と配下への褒美、両方与えるのでございます。
 金持ちの娘に、王子の側に仕える栄えある役を与えるのです。
 欲の皮の突っ張った連中は、金に糸目をつける事なく、見習い女中の座を得ようと近寄ってきます」

「そんな連中の相手はしたくないのだが、家臣達に与える金を得るためなら、そこは我慢しなければいけないのだな?」

「こんな時こそ身分差によるマナーを盾に取るのでございます。
 金持ちとはいえ平民の娘でございます。
 王子に直接話をする事など絶対に許されません。
 以前から仕えてくれている侍女達に作法を教えさせればいいのです」

「何も知らない娘達を騙すのは胸が痛むが……」

「王子、私に任せてください、しっかりと人柄を見極めます。
 心映えの好い娘は来させません。
 あわよくば王子の子種を手に入れようとするような、醜い心の者を選びます。
 殿下が心を痛める事のない者を選びますから、ご安心ください。
 それに、連中も損するわけではありません。
 王子の屋敷で行儀見習いをしたとなれば、縁談が有利になります」

「なるほど、心映えの悪い娘はそれでよかろう。
 だが心優しき娘がいたらどうするのだ?
 行儀見習いに不合格になったとなれば、縁談に悪い影響を与えないか?」

「心映えの好い者は、オードリー様に仕えさせます。
 オードリー様の御側は、できるだけ多くの忠臣で固めたいですから」

「なるほど、それは名案だ、後は任せたぞ」

「はい、お任せください」

 カン、カン、カン、カン、カン!

「セバスチャン、火事のようだぞ!」

「はい、お前達は直ぐに様子を見て来い!」

「「はっ!」」

 セバスチャンの指示を受けた2人の護衛が執務室を出て行った。

「また盗賊団が放火したのだろうか?」

「その可能性が高いと思われます。
 1度王城に戻られますか?」

「ようやく後宮から出られたのだ、あそこに戻るくらいなら、セバスチャンの屋敷で世話になる」

「そうなればとても光栄な事ではございますが、本気ですか?」

「冗談だ、それよりは町民街の方は大丈夫か?
 騎士団から手助けはでないのであろう?」

「はい、騎士団が手助けするのは貴族街まででございます。
 それも、よほどの事がない限り手伝いません。
 通常は貴族や騎士が家臣を率いて火消しと盗賊の取り締まりを行います」

「町人街は民政大臣のわずかな配下と見廻騎士団だけか……」

「町人達が独自で組織した火消し隊がおります。
 王子がそれほど心配なされる事はありません」

「いや、王都の民を守れないような者に王子を名乗る資格はない。
 俺には火を消す知識や技術などないが、豊富な魔力と魔術がある。
 その豊富な魔力で水魔術を使えば、消火できるのではないか?」

「王子、王子は後宮に閉じ込められたいのですか?
 そのような危険な事をすれば、今度こそ狩りの許可が取り消されますぞ!」

「……それは嫌だが、民の不幸を見て見ぬ振りはできない。
 俺がここにいて、配下を派遣した事にすればよい。
 とにかくここにいては何もできない。
 現場に行って俺にできる事をするのだ!
 馬引け、火事場に行くぞ、馬引け!」

 俺は馬を全力で駆けさせて最短距離で火事場に行くつもりだった。
 だが、必死で避難する人々と野次馬が道を塞いでしまっていた。

 配下の者達は声を枯らして道を開けてくれるか、大きく迂回するしかなかった。
 何とか火事の現場にたどり着いたのは、日付の変わる直前だった

「何者だ?!
 ここを放火の現場と知って騎馬で乗り込むとは何事だ!
 どれほどの大身騎士家であろうと許される事ではないぞ!」

 度胸のある見廻騎士団員が俺達を怒鳴りつける。
 さすがに王子の身分を示す鎧は装備していないが、騎士家当主に相当する飾りのついた鎧を装備しているのだ。

 騎士団の中でも最下等扱いされている見廻騎士団員、それも徒士装備の者が騎士家の当主相手にそんな口を利いたら、普通なら大問題になっている。
 相手に性根が腐っていたら、処刑されてもおかしくない。

「マディソン見廻騎士団団長、私はジェネシス王子の傅役セバスチャンだ。
 王子がこの町人街の火事を屋敷から見られて、民の事を心配されたのだ。
 幸い魔力の多い水魔術の使い手がいる。
 鎮火に協力したいのだが、どこに水を放てばいい?」

「王子に尊いお気持ちとセバスチャン殿の申し出はとてもありがたい。
 この通り、お礼を申し上げる」

 マディソン見廻騎士団団長が兜をとって頭を下げてくれる。

「しかしながら、水魔術の使い手は町人街の火消し隊にもいるのです。
 尊き身分の方の護衛を減らすわけにはいきません。
 どうぞ直ぐに屋敷に戻られて、王子の護衛に専念されてください」

 どうやら俺がジェネシスだと気が付いているようだ。
 もしかしたら、俺が手伝うと火消しや捜査の邪魔になるのか?
 邪魔だとしたら直ぐに帰るが、本当に手伝えること何もないのか?

「そうですか、大切なお役目の邪魔になってはいけないので、帰った方が良いのなら帰らせていただきますが、本当にいいのですね?
 ジェネシス王子の配下という立場が、盗賊達の捜査に役立つのであれば、使ってもらって良いと言われているのですが?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...