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第一章

第56話:青天の霹靂

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「いったい何事でございますか、父上」

 俺はセバスチャンからの願いを受けて急いで大公城に戻った。
 父上からではなくセバスチャンからの報告で、しかもお願いと言う形だったから、絶対に従わなければいけない訳ではない。 
 以前セバスチャンから重要度によって報告の仕方を変えると伝えられていた。
 だが同時に、お願いを無視したら後でもっと大変な事になるとも言われていた。
 だからこうして急いで大公城に戻ってきたのだ。

「おお、よく戻ってきてくれた、イーライ。
 ベネディクト王がとんでもない事を言いだしたのだ」

 そう言う父上の表情は本当に困惑していた。
 父上だけがそういう表情を浮かべているならまだ大丈夫なのだが、今回は母上までも同じ表情をしているので、俺も心配になってきた。
 ただ、後ろに控えているセバスチャンは平気な顔をしている。
 さっき届いた伝書魔術では、放っておけば後で困る事態のはずなのだが、今浮かべている表情からは、それほど重要だとは思えない。

「そのとんでもないと言う事をお聞かせ願いますか、父上」

 言葉一つで命に係わる事がある貴族の会話だと、前置きがとても長かったり、話しが迂遠だったりするのはしかたがない事だが、少々イライラする。
 最近は本心を包み隠すことなく率直に話す孤児たちと長く過ごしている。
 前世でもあいつ以外とはほとんど話す事もなかったから、孤児たちとの心地よい会話を止める事ができなくて、ドンドン貴族らしさを失っていると思う。
 駄目な事だとは分かっているのだが、止めることができないでいる。

「ああ分かった、今回は遠回しな話しはしない、単刀直入に話す。
 ベネディクト王がイーライに婚約の話しを持ってきた」

 思いっきり嫌な予感がする、今直ぐこの場所から逃げ出したい。
 これが大公国の正式な場所だと、絶対に逃げる事は許されない。
 だがまだこの場所は、大公家のプライベート空間だから、逃げても問題はない。
 問題はないのだが、ここで逃げだしたら俺の意見を無視して全てが決められてしまい、後で文句を言ってもどうしようもなくなってしまう。
 だからこそセバスチャンは、ここに来るようにと報告してくれたのだろう。

「それで、お相手はどなたなのですか」

 一応聞きはしたが、相手がだれかなんて分かっている。
 滅亡の淵に追い込まれた王国が、今この状況で誰を俺の婚約者に提案してくるかなんて、普通の思考力を持った貴族なら誰だってわかる。
 王国と我が家が以前の関係だったなら、普通に政略結婚として行われていた。
 セバスチャンから学んだ王侯貴族の常識からは当たり前の事だ。

「あの方だ、ヴァイオレット王女だ。
 ヴァイオレット王女の配偶者としてイーライを迎えたいそうだ」
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