上 下
19 / 70
第一章

第19話:少女の嫉妬とアプローチ

しおりを挟む
「ウゥウウウウウウ」

「うっううううう、うわあああああん、怖いです、イーライさまぁあああああ」

 目の前には信じたくない光景が広がっている。
 俺を独占したい大和が、近づいてきた少女を威嚇している。
 俺が厳しく躾けたから、孤児たちに牙をむく事はないが、威嚇は止めない。
 それを分かっているのに、少女は毎日近づいてくる。
 少女に懐いた炎魔狼は大和を怖がっているのだが、少女を見捨てる事もできない。
 震えて尻尾を丸めているのに、それでも必死で付いてくる姿は、とても健気だ。

「いやはや、イーライ様はおもてになりますなぁ、羨ましい限りでございます」

 セバスチャンが思いっきりからかってくれる。
 俺にはそんな気はまったくないのだが、少女からは一途な想いを感じる。
 俺が大魔境で助けた少女が孤児院に来ているのだ。
 親がいない訳ではないのだが、奴隷だった母親に子供の教育は難しい。
 奴隷であろうと愛情豊かに育てる事はできるだが、勉学を教えられない。
 だから孤児院で預かって勉学を教えているのだ。
 
 そんな子供は他にもたくさんいるから、孤児院と言うよりは小学校に近い。
 だが、公爵家の予算からお金を引っ張るのなら、言葉選びが大切になる。
 だから学校ではなく孤児院と呼び、親のある子にもついでに勉強を教える形になるのだが、もちろん愛情豊かな親から無理矢理子供を引きはがしたりはしない。
 親の性格がよければ孤児院で住み込みの仕事を与えている。
 孤児院に勤めさせられない親なら、近くの奴隷小屋に住まわせている。

「そんな冗談は笑えないな、セバスチャン。
 少女の想いを踏みにじるほど薄情ではないが、俺はまだ五歳児なのだぞ。
 前世の年齢を加算すれば十六歳だが、身体は幼児なのだぞ。
 それに、俺は小さい子供を愛の対象にする気などないぞ。
 普通に可愛がってあげたいとは思うが、俺の方が幼いからそれも無理だ」

「それでよろしいのでございますよ、イーライ様。
 どうもこの子は魔力を持っているようなのです。
 今までは奴隷の子供で虐待対象なので、見落とされていたのでしょう。
 本人も自分が弱いモノだと思い込んでいたので、抵抗もしなかったのでしょう。
 なにより魔力も魔術も見た事も聞いた事もなかったのでしょう」

 確かに、あのような環境では魔術など覚えられないよな。

「以前ゴブリンに襲われていたのも、こうして炎魔狼に懐かれているのも、この子に魔力があるからでしょう」

 なるほど、ゴブリンはこの子を食って魔力を得ようとしていたのか。
 魔物は他の魔物を魔力を食べて強くなるとセバスチャンが教えてくれた。
 他の魔物に飼われたりパートナーになったりする従魔は、主人やパートナーから魔力を与えられて従うようになる。
 一時的な力を得るのではなく、永続的に力を分けてもらうのだ。
 だがそれだけに、主人やパートナーには魔力量の多さが求められる。

 今回魔狼たちが孤児たちに従っているのは、魅了魔術で従えて命令したからだ。
 今は魅了魔術に加えて俺の魔力で餌付けしている。
 結構多くの魔力を必要とするが、俺の一日魔力生産量から見れば微々たるモノだ。
 そんな状態で、一番強い炎魔狼が少女を選んだのだ。
 少なくとも孤児院の子供達の中で最も魔力量が多いのは確実だ。
 その魔力が士族や貴族以上なら、戦力に数えるのが公爵家嫡男の仕事だよな。

「イーライさまぁあああああ、だいすきです」

「ウゥウウウウウウ、ガウ、ガウ、ガウ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

近くて遠い

高尾 閑
ファンタジー
  異世界ファンタジー 剣と魔法の世界に転移したり、転生したり。勇者や魔王になってみたり。傍観、無双、スローライフ等々。 ※1話完結の短編集 ※世界観バラバラ ※基本続き物なし ◇→男主人公 / ◆→女主人公 *リスト* 異世界 ・転生   ├王族   ├貴族:1   ├平民   ├孤児   └人外 ・転移・召喚   ├勇者   ├聖女   ├神子・愛し子   ├巻き込まれ   ├魔王   ├その他:1   └原因不明:1 ・魔族:1 小説・マンガ・ゲーム ・転生   ├   ├

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

愛する寵姫と国を捨てて逃げた貴方が何故ここに?

ましゅぺちーの
恋愛
シュベール王国では寵姫にのめり込み、政を疎かにする王がいた。 そんな愚かな王に人々の怒りは限界に達し、反乱が起きた。 反乱がおきると真っ先に王は愛する寵姫を連れ、国を捨てて逃げた。 城に残った王妃は処刑を覚悟していたが今までの功績により無罪放免となり、王妃はその後女王として即位した。 その数年後、女王となった王妃の元へやってきたのは王妃の元夫であり、シュベール王国の元王だった。 愛する寵姫と国を捨てて逃げた貴方が何故ここにいるのですか? 全14話。番外編ありです。

処理中です...