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第一章
第12話:克己心
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「お慈悲を、お慈悲をお願いいたします」
信じられない、人間がここまで卑屈になれるなんて。
いや、俺も幼い頃はこうだった、知恵がつくまではこうだった。
暴力を振るう母に、ただひたすら慈悲を願っていた頃がある。
慈悲を願わなくなったのは、近所の人の通報のお陰で、保健所の人が来てくれた時に、色々な方法を使えば、殴られる事もタバコで焼かれる事もないと知ってからだ。
まあ、直ぐに祖父の力の及ぶ地域に引っ越しされてしまったけれど。
「セバスチャン、どうすればいいだろう」
「大人になるまで奴隷として生きてきた、心の芯から卑屈になってしまった者に、人間としての誇りと独立心を持たせるのは至難の業でございます。
イーライ様が公爵家の後継者でなければ、決してお見せしませんでした。
ですが、哀しいかな、イーライ様はこの者たちを治めて行かなければなりません。
ですから、この現状を知っていただき、それでもやれる事をしていただきます」
「自分の力で生きるのではなく、全てを他人に委ねる人間を治めるのか。
それは、この者たちの生活どころか命にまで責任を持つ事だよな。
読み書き計算を教え、自分で生きて行けるようにしてやらなければいけないよな」
「はい、ですがそれは不可能な理想なので、それほど気にする事はありません。
反逆者共がやっていた状態よりも、ほんの少し豊かにしてやればいいのです。
身体や心を傷つけずに暮らせるようにしてやればいいのです」
「そんな、こんな狭くて汚い奴隷小屋にこのまま住まわせるのか、セバスチャン」
「この者たちが、きれいで広い家に住みたいというのなら、一日の労働以外の時間を使って、材木を伐採して家を建てる許可を与えになられればいいのです。
この者たちが本当にきれいで広い家に住みたいのなら、自分たちでやるでしょう。
もっと美味しい物をたくさん食べたいというのなら、一日の労働以外の時間を使って、魔境で狩りをする許可を与えればいのです。
そうすれば自分たちで狩りをするでしょう」
「セバスチャンの表情を見ていると、そんな事はしないと思っているのだな」
「はい、この者たちはひたすら慈悲を求めるだけで、自分たちで考えようとか、自分たちが余分に働いて豊かになろうとは思わないでしょう。
今までと同じような貧しい食事しか与えず、今までと同じような長時間の過酷な労働させれば別です、頑張って食べ物を手に入れようとするでしょう。
本来は心を鬼にしてそうすべきなのでしょうが、イーライ様にはできますまい。
必ず今まで以上の食事を与えて、労働時間も凄く短くされるでしょう」
「確かにセバスチャン言う通りだ、俺には彼らに以前と同じような食事は与えられないし、労働時間も短くするだろう。
セバスチャンが俺に黙って家臣にやらせたとしても、確認して止めさせるだろう。
だがそれは今こうして話を聞いても同じだと思う。
セバスチャンが何と言うおうと、やってしまうと思うぞ」
「いいえ、イーライ様は必ず聞き分けてくださいます。
この現場を見て、わたくしや公爵閣下から厳しく言われれば、きっと聞き届けてくださいます、そう心から信じております」
「セバスチャンは卑怯だな、自分と父上の情に訴えて俺を止めるのか」
「はい、イーライ様をお育てして、よき領主になっていただく事こそ、わたくしの心からの願いであり、公爵閣下と奥方様の願いでもあります」
「今度は母上の名前まで出してくるのか。
セバスチャンはここで俺に我慢を覚えさせるつもりなのか。
俺はもう前世で腹一杯になるくらい我慢を覚えたぞ」
「イーライ様が覚えられたのは自分が我慢する事でございます。
今度は他人を成長させるための我慢を覚えていただきたいのです」
「分かったよ、セバスチャンがそこまで言うのなら様子を見させてもらう。
だがセバスチャンの言う通りになっているのか確認に来るからな。
ここだけじゃなく、今回収公した領地全てを見て回るからな」
「はい、喜んでご一緒させていただきます」
信じられない、人間がここまで卑屈になれるなんて。
いや、俺も幼い頃はこうだった、知恵がつくまではこうだった。
暴力を振るう母に、ただひたすら慈悲を願っていた頃がある。
慈悲を願わなくなったのは、近所の人の通報のお陰で、保健所の人が来てくれた時に、色々な方法を使えば、殴られる事もタバコで焼かれる事もないと知ってからだ。
まあ、直ぐに祖父の力の及ぶ地域に引っ越しされてしまったけれど。
「セバスチャン、どうすればいいだろう」
「大人になるまで奴隷として生きてきた、心の芯から卑屈になってしまった者に、人間としての誇りと独立心を持たせるのは至難の業でございます。
イーライ様が公爵家の後継者でなければ、決してお見せしませんでした。
ですが、哀しいかな、イーライ様はこの者たちを治めて行かなければなりません。
ですから、この現状を知っていただき、それでもやれる事をしていただきます」
「自分の力で生きるのではなく、全てを他人に委ねる人間を治めるのか。
それは、この者たちの生活どころか命にまで責任を持つ事だよな。
読み書き計算を教え、自分で生きて行けるようにしてやらなければいけないよな」
「はい、ですがそれは不可能な理想なので、それほど気にする事はありません。
反逆者共がやっていた状態よりも、ほんの少し豊かにしてやればいいのです。
身体や心を傷つけずに暮らせるようにしてやればいいのです」
「そんな、こんな狭くて汚い奴隷小屋にこのまま住まわせるのか、セバスチャン」
「この者たちが、きれいで広い家に住みたいというのなら、一日の労働以外の時間を使って、材木を伐採して家を建てる許可を与えになられればいいのです。
この者たちが本当にきれいで広い家に住みたいのなら、自分たちでやるでしょう。
もっと美味しい物をたくさん食べたいというのなら、一日の労働以外の時間を使って、魔境で狩りをする許可を与えればいのです。
そうすれば自分たちで狩りをするでしょう」
「セバスチャンの表情を見ていると、そんな事はしないと思っているのだな」
「はい、この者たちはひたすら慈悲を求めるだけで、自分たちで考えようとか、自分たちが余分に働いて豊かになろうとは思わないでしょう。
今までと同じような貧しい食事しか与えず、今までと同じような長時間の過酷な労働させれば別です、頑張って食べ物を手に入れようとするでしょう。
本来は心を鬼にしてそうすべきなのでしょうが、イーライ様にはできますまい。
必ず今まで以上の食事を与えて、労働時間も凄く短くされるでしょう」
「確かにセバスチャン言う通りだ、俺には彼らに以前と同じような食事は与えられないし、労働時間も短くするだろう。
セバスチャンが俺に黙って家臣にやらせたとしても、確認して止めさせるだろう。
だがそれは今こうして話を聞いても同じだと思う。
セバスチャンが何と言うおうと、やってしまうと思うぞ」
「いいえ、イーライ様は必ず聞き分けてくださいます。
この現場を見て、わたくしや公爵閣下から厳しく言われれば、きっと聞き届けてくださいます、そう心から信じております」
「セバスチャンは卑怯だな、自分と父上の情に訴えて俺を止めるのか」
「はい、イーライ様をお育てして、よき領主になっていただく事こそ、わたくしの心からの願いであり、公爵閣下と奥方様の願いでもあります」
「今度は母上の名前まで出してくるのか。
セバスチャンはここで俺に我慢を覚えさせるつもりなのか。
俺はもう前世で腹一杯になるくらい我慢を覚えたぞ」
「イーライ様が覚えられたのは自分が我慢する事でございます。
今度は他人を成長させるための我慢を覚えていただきたいのです」
「分かったよ、セバスチャンがそこまで言うのなら様子を見させてもらう。
だがセバスチャンの言う通りになっているのか確認に来るからな。
ここだけじゃなく、今回収公した領地全てを見て回るからな」
「はい、喜んでご一緒させていただきます」
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