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第1章
第38話:大失敗
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僕を守る蔦の壁は、剣や槍を完璧に防いでくれる。
だけど、空気や良く通すし、水も入ってくる。
だから、行商人たちがフェロウシャス・ボアをどうするのかも聞こえる。
嫌な声や音は聞きたくないので、風魔術を使って音が聞こえないようにしようかと思ったけれど、そんな難しいやり方をしなくてもよかった。
「なにそれ、耳栓をすればいいだけでしょう。
私も他の人たちのイビキが嫌で耳栓をしているの、これよ。
ケーンならこれくらい直ぐに作れるでしょう?」
以前僕の弱点をウィロウに話した時に見せてくれたのが、柔らかい木を削って作った耳栓だった。
僕なら木ではなく、もっと柔らかい草花で耳栓を作れる。
綿を成長させて固めると、とても使い心地の良い耳栓ができた。
「うっげえええええ」
だけど、耳栓だけでは足らなかった!
臭いを、血の臭いを忘れてしまっていた!
強烈な臭いがフェロウシャス・ボアのいる方から漂ってきた!
今更だけど、風魔術を使って臭いをフェロウシャス・ボアのいる方にやった。
僕の近くにあった嫌な臭いの空気を全部向こうに追いやった。
その後で、蔦壁でできたドームの中に空気の壁を造った。
1時間ほどは何のなかったのだけど、だんだん苦しくなってきた。
空気が悪くなったのだと気がついて、1度風の壁を壊した。
同時にまた風を作ってフェロウシャス・ボアの方に流して、嫌な臭いが僕の方に来ないようにした。
1時間ごとにこんな事をするのも面倒なので、鼻栓をしようかとも考えたのだけれど、それでは寝る時に困るので、蔦壁の外に風の壁を作ってみた。
外ではフェロウシャス・ボアを解体して食事に……
「うっげえええええ」
嫌な事を想像して吐いてしまった、もしかして、僕は馬鹿なのだろうか?
まだ早い時間だし、場所が獣道の途中だから、ここで野営する事はないと思うけど、フェロウシャス・ボアは良い商品なのだ。
ここでお金を払わずに仕入れられるのなら、1日くらい行程が遅くなっても気にしないだろうから、このままここで眠る事も考えた方が良い。
それに、臭いが来ないうちに食事しておいた方が良い。
蔦壁を造った時に食べられる実も生っている。
生でも食べられるように、メロン、キュウリ・スイカ・カラスウリ・パッションフルーツなどの蔦を成長させているから、その実を食べればいい。
「ケーン、聞こえている、ケーン?」
1時間ほどしてウィロウが蔦壁を叩いて話しかけてきた。
蔦壁の外に作った風壁を弱くしておいてよかった。
強くしていたらウィロウに怒られていた。
「聞こえるよ、どうしたの?」
「族長がこのままここで野営すると決めたわ。
ケーンは肉の臭いが駄目なのよね?」
「うん、肉の臭いも血の臭いも苦手なんだ」
「その中なら臭いがしないの?」
「蔦壁の外に風が流れているのは分かる?」
「あ、うん、そうね、少し風が吹いているね」
「その風は僕が流しているんだ。
その風が嫌な臭いをここに入れないようにしてくれているんだ」
「分かったわ、臭いがしないのなら、そのままそこに朝までいてくれる?」
「分かった、このままここで休んでいるよ。
あ、そうだ、外に実っている果物は食べても良いよ」
「ありがとう、1つもらっていくね」
ウィロウがこれから何をするのか、考えないようにした。
このなかで吐いたら、その臭いで苦しくなってしまう。
でも、ずっとここにいたら母牛と子牛の餌はどうなるのだろう?
誰かが食べさせてくれるのかな?
それとも、自分たちで自由に動いて食べるのだろうか?
いや、それ以前に背中の荷物を下ろしてやらないと苦しいはずだ。
あの子たちは僕の友達で、僕がお世話してあげないといけない。
血を見たら吐くのは僕が弱いからで、あの子たちが悪い訳じゃない。
フェロウシャス・ボアがどちらの方向にいるのかは分かる。
そっちを向かないように、背中を見せるようにして、蔦壁を開く。
風壁はそのままにしているから、臭いが来る事はない。
そのまま嫌な方は見ないようにして、母牛と子牛のいる方に行く。
僕だけではなく、他の行商人の半数も自分の牛は背負う荷を下ろしている。
「おっ、感心だな、自分の牛の世話をしに出てきたか」
1度一緒に街に入った事のある行商人が声をかけてきた。
「はい、僕の大切な友達ですから」
「そうか、そうか、牛を大切にできない奴に行商をする資格はない。
ケーンは良い行商人になれるぞ」
「ありがとうございます」
ほめてくれる行商人にお礼を言いながら自分の母牛と子牛の所に行くと……
「なんだ、自分で出てきたのか?
だったら私は自分の牛の荷を下ろしてやるから、ケーンは自分の牛をやれ」
ウィロウが僕の母牛の荷を下ろそうとしてくれていた。
うれしくて、うれしくて、ウィロウに抱き着きたくなったが、グッと我慢した。
「うん、ありがとね」
「気にするな、ケーンの為じゃない、牛が可哀想だからだ」
照れたように言うウィロウが可愛くて愛おしい。
この前話を聞いたら13歳になったばかりだと言っていた。
出会った時は、前世の僕と同じ12歳だったのだ。
これを運命と言ったら笑われてしまうかもしれない。
僕の心臓病を運命だと言った人がいて、物凄く哀しかったけれど、ウィロウとの出会いが運命なら、大嫌いだった言葉も好きになれるかもしれない。
だけど、空気や良く通すし、水も入ってくる。
だから、行商人たちがフェロウシャス・ボアをどうするのかも聞こえる。
嫌な声や音は聞きたくないので、風魔術を使って音が聞こえないようにしようかと思ったけれど、そんな難しいやり方をしなくてもよかった。
「なにそれ、耳栓をすればいいだけでしょう。
私も他の人たちのイビキが嫌で耳栓をしているの、これよ。
ケーンならこれくらい直ぐに作れるでしょう?」
以前僕の弱点をウィロウに話した時に見せてくれたのが、柔らかい木を削って作った耳栓だった。
僕なら木ではなく、もっと柔らかい草花で耳栓を作れる。
綿を成長させて固めると、とても使い心地の良い耳栓ができた。
「うっげえええええ」
だけど、耳栓だけでは足らなかった!
臭いを、血の臭いを忘れてしまっていた!
強烈な臭いがフェロウシャス・ボアのいる方から漂ってきた!
今更だけど、風魔術を使って臭いをフェロウシャス・ボアのいる方にやった。
僕の近くにあった嫌な臭いの空気を全部向こうに追いやった。
その後で、蔦壁でできたドームの中に空気の壁を造った。
1時間ほどは何のなかったのだけど、だんだん苦しくなってきた。
空気が悪くなったのだと気がついて、1度風の壁を壊した。
同時にまた風を作ってフェロウシャス・ボアの方に流して、嫌な臭いが僕の方に来ないようにした。
1時間ごとにこんな事をするのも面倒なので、鼻栓をしようかとも考えたのだけれど、それでは寝る時に困るので、蔦壁の外に風の壁を作ってみた。
外ではフェロウシャス・ボアを解体して食事に……
「うっげえええええ」
嫌な事を想像して吐いてしまった、もしかして、僕は馬鹿なのだろうか?
まだ早い時間だし、場所が獣道の途中だから、ここで野営する事はないと思うけど、フェロウシャス・ボアは良い商品なのだ。
ここでお金を払わずに仕入れられるのなら、1日くらい行程が遅くなっても気にしないだろうから、このままここで眠る事も考えた方が良い。
それに、臭いが来ないうちに食事しておいた方が良い。
蔦壁を造った時に食べられる実も生っている。
生でも食べられるように、メロン、キュウリ・スイカ・カラスウリ・パッションフルーツなどの蔦を成長させているから、その実を食べればいい。
「ケーン、聞こえている、ケーン?」
1時間ほどしてウィロウが蔦壁を叩いて話しかけてきた。
蔦壁の外に作った風壁を弱くしておいてよかった。
強くしていたらウィロウに怒られていた。
「聞こえるよ、どうしたの?」
「族長がこのままここで野営すると決めたわ。
ケーンは肉の臭いが駄目なのよね?」
「うん、肉の臭いも血の臭いも苦手なんだ」
「その中なら臭いがしないの?」
「蔦壁の外に風が流れているのは分かる?」
「あ、うん、そうね、少し風が吹いているね」
「その風は僕が流しているんだ。
その風が嫌な臭いをここに入れないようにしてくれているんだ」
「分かったわ、臭いがしないのなら、そのままそこに朝までいてくれる?」
「分かった、このままここで休んでいるよ。
あ、そうだ、外に実っている果物は食べても良いよ」
「ありがとう、1つもらっていくね」
ウィロウがこれから何をするのか、考えないようにした。
このなかで吐いたら、その臭いで苦しくなってしまう。
でも、ずっとここにいたら母牛と子牛の餌はどうなるのだろう?
誰かが食べさせてくれるのかな?
それとも、自分たちで自由に動いて食べるのだろうか?
いや、それ以前に背中の荷物を下ろしてやらないと苦しいはずだ。
あの子たちは僕の友達で、僕がお世話してあげないといけない。
血を見たら吐くのは僕が弱いからで、あの子たちが悪い訳じゃない。
フェロウシャス・ボアがどちらの方向にいるのかは分かる。
そっちを向かないように、背中を見せるようにして、蔦壁を開く。
風壁はそのままにしているから、臭いが来る事はない。
そのまま嫌な方は見ないようにして、母牛と子牛のいる方に行く。
僕だけではなく、他の行商人の半数も自分の牛は背負う荷を下ろしている。
「おっ、感心だな、自分の牛の世話をしに出てきたか」
1度一緒に街に入った事のある行商人が声をかけてきた。
「はい、僕の大切な友達ですから」
「そうか、そうか、牛を大切にできない奴に行商をする資格はない。
ケーンは良い行商人になれるぞ」
「ありがとうございます」
ほめてくれる行商人にお礼を言いながら自分の母牛と子牛の所に行くと……
「なんだ、自分で出てきたのか?
だったら私は自分の牛の荷を下ろしてやるから、ケーンは自分の牛をやれ」
ウィロウが僕の母牛の荷を下ろそうとしてくれていた。
うれしくて、うれしくて、ウィロウに抱き着きたくなったが、グッと我慢した。
「うん、ありがとね」
「気にするな、ケーンの為じゃない、牛が可哀想だからだ」
照れたように言うウィロウが可愛くて愛おしい。
この前話を聞いたら13歳になったばかりだと言っていた。
出会った時は、前世の僕と同じ12歳だったのだ。
これを運命と言ったら笑われてしまうかもしれない。
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