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第1章

第9話:2人の行商人

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 僕たちの開拓村に行商人が来てくれた。
 僕よりも少し大きいくらい、12歳前後の子が牛を1頭引いてきた。
 もう1人15歳くらいのお兄さんも牛を1頭連れている。

「お父さん、どうして子供の方が交渉しているの」

「練習だな、神与のスキルをもらってからずっと見学していたのだろう。
 家の村は取引する物が少ないから、練習する気だろう」

「取引が少ないって、今回は色々交換するのだよね、あの子大丈夫かな?」

「心配しなくても、あの子の手に負えないと分かったら、もう1人の方が前に出て来るから大丈夫だ。
 それに、行商人になるくらいだから、何か役に立つ神与のスキルを神々から授かっているはずだ」

「フィンリー神官、今日はこの者が取引をするが、いいか?」

 15歳くらいの人が、村の代表を務めるフィンリー神官に許可を求めた。

「こちらはかまいませんが、何時もより交換をお願いする物が多いのです。
 これまで頼んだ事もない物を見てもらう事になりますが、大丈夫ですか?」

「そうか、それは困ったな、ここが急に良くなるとは思っていなかった。
 だが、こちらにも人を育てなければいけない事情がある。
 予定通りこの者にやらせてみて、無理だと思ったら私が代わる」

「分かりました、だったら最初に新しく造り出した物を見てもらいます。
 酒なので、行商には向かないかもしれないので、確かめてください」

 フィンリー神官がそう言うと、隣の部屋で待っていた男たちが、20リットル入りの酒甕を4つ運んできた。

「家で造り出した、山ブドウのワイン、リンゴのシードル、エルダーベリーワイン、スグリワインです。
 重すぎて商品にならないのなら、普通に干したドライフルーツもあります」

 今度は女たちがドライフルーツを運んできた。
 女たちはドライフルーツだけでなく、試飲用の小さな木杯に入れた4種の酒を2人の前に置いて行く。

「ウィロウ、今回は諦めろ、この後は私がやる」

「嫌です、やれます、私が最後までやります」

「酒の目利きはまだ無理だ、まだお前に酒の良し悪しは任せられない。
 今回は、良い勉強をさせてもらう絶好の機会を得たと思え」

「……はい」

 年上の行商人に権限を奪われた子が肩を落としている。
 あまりにも落ち込んでいるので可哀想になってしまった。

「ウィロウも飲ませてもらえ、後で幾らで買う気だったか教えなさい」

「はい!」

「ほう、これは甘くて酒精が強い、近くに大きな都市があるのなら良い値で売れるが、この村だと商売にはならないな」

「そうですか、予定通りですので仕方がありません。
 酒は村の者から売らないでくれと言われていたので、売れなくてもかまいません。
 最初から安い値段では売らない心算だったのです。
 ドライフルーツの方はどうですか?」

「おいしい、とても美味しいです」

 年下の方の行商人が手放しでほめてくれます。
 年上の方が一瞬表情を変えましたが、直ぐに元に戻りました。
 ウィロウと呼ばれていた子、言っちゃいけない事を口にしたのかな?

「確かにとても甘くて美味しいドライフルーツです。
 これなら日持ちもしますし、軽く小さくなっていますから、何所に持って行ってもそれなりの値段で売れるでしょう」

「それは良かった、他にも見てもらいたい物があるのですが、良いですか?」

「はい、今回買わせて頂くかどうかは別にして、私たち行商人の商品になるか見させて頂きます」

「薬草を持って来てくれ」

「ほう、薬草ですか、これまでも薬草を買わせてもらった事はありますが、改めて言われるという事は……」
 
 フィンリー神官相手に話していた年上の行商人が、目の前に積み上げられた薬草を見て言葉を失っています。

 フィンリー神官に言われてから、毎日頑張って薬草を生長させて集めました。
 僕ならやれるのではないかと、試しに根ごと掘り起こして家の側に植え直したら、奥山でしから見つからない薬草が根付いてくれました。

 これまでは1度採ると無くなってしまうような珍しい薬草が、毎日採れるのです。
 普通に買いとってもらえれば莫大なお金になりますが、村ではお金など必要ないので、塩や鉄製品を買うと言っていました。

「申し訳ありません、思わず息を呑んでしまいました。
 薬草の群生地でも見つけられたのですか?」

「はい、家の腕扱きが奥山まで入り、フェロウシャス・ボアを狩って縄張りにある群生地を見つけたのです」

「ほう、フェロウシャス・ボアを狩られたのですか?」

「はい、フェロウシャス・ボアの牙と毛皮も買ってもらいたいと思っていたのです」

「見せて頂けるのですか」

「はい、持って来てください」

 フィンリー神官に言われて、男たちが見事な牙と毛皮を隣の部屋から持って来た。
 窒息死させたので、傷1つ無い見事な毛皮だとお父さんが言っていた。
 これなら高値で売れるとほめてもらえたので、密かに誇っています。

「牙も見事ですが、毛皮が素晴らしいですね。
 全く傷のない頭付の毛皮だと、貴族の方がよろこんで買ってくださいます。
 大量の薬草もありますし、私たちだけでは決められないです。
 いったん戻って本隊を連れてきますから、話はその時に改めてさせて頂きます」
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