上 下
6 / 58
第1章

第6話:神々の御心

しおりを挟む
 僕は毎日果樹を1つたわわに実らせました。
 それは我が家に富をもたらしましたが、同時に開拓村の中に貧富の差を生んでしまいました。

 最初僕はその事に気がついていませんでした。
 お父さんとお母さんは気づいていて、僕が寝た後で話し合っていたそうです。
 そのまま何もしなければ、村が崩壊していたかもしれないそうです。

 ですが、この世界は神様の神与のスキルで成り立っているのです。
 とても信心深く、神様の御心に逆らうような事はしない人が多いそうです。
 だから、神様に仕えるフィンリー神官の言葉にもよく従うのです。

「最近の村には不和不信に感情が広がっています。
 これは神々の御心に逆らう大罪なのを分かっているのですか?!」

 フィンリー神官が、春の畑仕事を休ませてまで村人全員を集めて、怖い表情でお説教されました。

「ケーンの神与スキルと魔力はジョイ神から授かったものです。
 それを嫉妬するなど神々に逆らうも同然、絶対に許されない事です。
 そのような者をこの村に置いておくわけにはいきません。
 私が背神者と判断した者には村から出て行ってもらいます」

 フィンリー神官が本気だと知った村人たちは恐れおののきました。
 神官から背神者の烙印を押される事は、この世界では死刑宣告と同じだそうです。

 信心深い村や街には入れてもらえなくなるので、猛獣や魔獣が沢山いる山で1人生きて行かなければいけなくなります。

「申し訳ありません、心を入れ変えますのでお許しください」

 僕を嫌な目で見ていた人の半数が直ぐに謝りました。
 ですが半数の人は、自分は関係ないと言う表情をして黙っています。

「貴方たちは今日中に村から出て行きなさい。
 家族の事は村で面倒を見るから心配いりません」

 フィンリー神官は全てお見通しでした。
 黙っていた人たち全員の肩を叩いて声をかけました。

 叩かれた人は直ぐに言い訳をしようとしましたが、フィンリー神官の目を見て固まってしまいました。

「神々を舐めているのですか?
 貴方たちの悪意など、神々は先刻承知されているのですよ。
 神与のスキルを奪われてから村を叩きだされるか、今直ぐ黙って村を出ていくか、この場で決めなさい」

 フィンリー神官に厳しく言われた人たちは、肩を落として村を出て行きました。
 男性も女性もいて、残された子供たちが泣いていました。

「男手を失った家は、村の男たちで助けてあげなさい。
 女手を失った家は、村の女たちで助けてあげなさい。
 子供たちは何時でも教会に来て良いのですよ、いえ、毎日来なさい。
 これが神々の望まれる助け合いなのです」

 僕が神与スキルを使った事で、親を無くす子が出るとは思ってもいませんでした。
 人の事をうらやましいと思う気持ちは痛いほどわかります。
 僕も前世では健康な子をうらやましく思っていましたから。

「フィンリー神官、子供たちが可哀想です、やり直す事はできないのですか?」

「ケーン、神々はとても慈悲深い面と厳しい面を持っておられるのです。
 神々が人にかけてくださる愛情は同じではないのです。
 神々の御心に逆らう人間には、恐ろしいほどの罰を下されるのです。
 彼らがこのままこの村に残ったら、子供たちまで巻き込まれるのです」

 フィンリー神官にそう言われると、僕には何も言えません。
 神々の事は神官スキルを授かったフィンリー神官にしか分かりません。
 子供たちまで巻き込まれると言うのなら、従うしかありません。

「フィンリー神官、僕もお手伝いしたいです。
 僕がジョイ神から神与のスキルを授かったのは、村の為だと思います。
 自分の家の分とは別に、村の為にも働きたいです」

「良く言いました、流石神々から愛情を注がれるだけあります。
 心卑しい者たちとは心掛けが違います。
 良いでしょう、村のために働いてください。
 ですが、村の為だけに働いてはいけません、家の為にも働きなさい」

「はい、1日交替で村の為と家のために働きます」

 僕は言葉通り、村と家のために果樹を実らせました。
 これ以上人の心を惑わさないように、1日に1本の果樹しか実らせないようにしましたが、それでも村にとっては大きな収穫です。

 リンゴは生で食べる分とシードルにする分があります。
 山ブドウは、生で食べる分とワインにする分と干ブドウにする分があります。
 
 ミカンはワインにするのが難しいので、比較的お酒にしやすいエルダーベリー、スグリ、山ブドウ、リンゴを繰り返して実らせました。

 何故お酒にしやすい果樹を優先的に実らせたかというと、保存と販売の為です。
 村で食糧を保存しようと思うと、お酒にするのが1番なのです。

 山奥にある辺境の村では、塩がとても貴重なので、食べ物を素漬けにして保存できないのです。

 村に必要な物は、月に1度くらいの間隔で来てくれる行商人任せです。
 貴重な塩を運んできてくれるのも行商人です。
 村で作っている小麦やお父さんたちが狩った魔獣の素材と交換してくれます。

 ですが、美味しいお酒が大量に造れるようになれば、お酒でも貴重な塩を交換してもらえるかもしれないのです。
 もし交換してもらえなくても、村で飲みますから無駄にはなりません。

「ケーン、今日は酒造りを休んで酒樽を造ってくれ。
 これ以上ワインを造っても貯めておく甕がない」

「は~い、直ぐ造るよ」

 村で造るワインは、素焼きの甕で発酵させていました。
 甕の大きさは20リットルから800リットルまであります。

 村で呑むだけなら800リットル甕だけで良いのですが、行商人に売る事を考えると、運びやすい20リットル酒樽を沢山造らないといけません。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

冒険者ではない、世界一のトレジャーハンターになる!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」宝船竜也は先祖代々宝探しに人生を賭けるトレジャーハンターの家に生まれた。竜也の夢は両親や祖父母のような世界1番のトレジャーハンターになる事だ。だが41年前、曾祖父が現役の時代に、世界に突然ダンジョンが現れた。ダンジョンの中でだけレベルアップしたり魔術が使えたりする上に、現れるモンスターを倒すと金銀財宝貴金属を落とす分かって、世は大ダンジョン時代となった。その時代に流行っていたアニメやラノベの影響で、ダンジョンで一攫千金を狙う人たちは冒険者と呼ばれるようになった。だが、宝船家の人たちは頑なに自分たちはトレジャーハンターだと名乗っていた。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~

狭山ひびき@バカふり160万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。 そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。 「……わたしは、妖精が見えるの」 気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは―― 心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。

おとなりパーク

はまだかよこ
児童書・童話
お盆の帰省のシーズンです 光代の家の両隣からにぎやかな声が聞こえています さて……

処理中です...