上 下
34 / 36
第一章

第30話:戦闘

しおりを挟む
 聖歴1216年4月6日:エドゥアル視点

「エリア・ウルトラ・ホーリー・ウォーター・フロウ!」

 などと恥ずかしい呪文を叫んだりはしない。
 心の中でイメージして魔力を現象に具現化させるだけだ。
 クロエや魔術師たちが放った禍々しい黒い炎を浄化させる水流を創りだす。
 東洋医学とアーユルヴェーダと西洋医学の知識をこの世界の理に取り込むことで、俺だけが創りだせるようになった膨大な魔力。

「「「「「「ギャアアアアア」」」」」
 
 その膨大な魔力を、亜空間だとイメージする事で余すことなくチャクラに蓄えた。
 第1のチャクラ、会陰にあるムーラーダーラ・チャクラに蓄えてあった魔力の半分を使って、聖なる水流を創り出して放ったのだ。
 クロエや魔術師たちに防げるような魔術ではない。
 即死せずに悲鳴をあげられただけで、クロエたちが強くなっていたのが分かる。

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、前座の無能を斃したくらいでいい気になるのではありませんよ、偽者の勇者エドゥアル。
 召喚聖者の生まれ変わりで、本当に勇者でもあるわたくし、ルイーズの使い魔に殺される事を光栄に思いなさい」

 今度もまた不意にルイーズが大闘技場の上空に現れた。
 しかも鼻が曲がりそうなほどの悪臭を放つ、腐ったドラゴンと一緒にだ。
 しかもそのドラゴンからは、ポタポタと腐水がしたたり落ちている。

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、我が聖なる従竜アレイクよ。
 偽者の勇者エドゥアルと、わたくしの国を盗んでいた王を退治しなさい」

 あんな悪臭プンプンの腐ったドラゴンを本気で聖なる竜だと思っているのか?
 頭が悪いのか、それとも自分に都合よくしか考えられない身勝手なのか?
 うん、両方だな、両方なければここまで愚かで身勝手な言動はできない。

「エリア・ウルトラ・ホーリー・ウォーター・フロウ!」などとは今回も口にはしないで、創造力だけで聖なる水流を創りだす。
 創りだした聖なる水流で、腐った竜の汚水が大闘技場に落ちてこないようにする。
 どう考えても、並の人間があれに触れたらただでは済まない。

「「「「「ギャアアアアア」」」」」

 またも俺に気配を察知されることなく敵対するモノが現れていた。
 大闘技場のあらゆる場所に、腐った人間とモンスターがいるのだ。
 新たに創った腐ったドラゴンに対する聖なる水流の壁だけでなく、クロエたちの放った禍々しい炎を防ぐために創ってあった、聖なる水流の壁も超えてだ。
 国王や貴族、人の不幸を娯楽にしていた人々が腐ったモノたちに襲われている。

(子供たちは妾にまかせるのじゃ。
 エドゥアルは敵にだけ集中すればいいのじゃ)

 ゴッドドラゴンのラファエルがいい仕事をしてくれた。
 上位神や管理神に備えるのではなく、子供たちを助けてくれた。
 これで子供たちの心配をしないで、前だけを向いて戦う事ができる。
 ああ、あとで良心が痛まないように、襲われている王都の人々にも、最低限の手助けだけはしておこう。

「ギヨーム、聖なる水流で壁を作って護ってやる。
 選手控室に行って娘たちと合流しろ。
 娘たちは俺の家族と一緒に相棒が護っている」

 残念な事だが、すべての人々を助けられたわけではない。
 だが国王や貴族、性根の腐った連中を助けられなかった事に罪悪感はない。
 騎士や戦士が自分を護れずに死んだ事は自業自得だ。
 協力関係にあるアキテーヌ公爵と、その家臣や家人を見殺しにするのは多少は良心が痛むし、何の罪も犯していないかもしれない人々を見殺しにするのも良心が痛む。

「ありがとう、ここにいても足手まといにしかならないから、言い訳しないで逃げさせてもらうよ、本当にありがとう、エドゥアル」

 アキテーヌ公爵ギヨームはそう言って大闘技場の貴族席から逃げて行った。
 家臣や家人はギヨームを護るように前後左右を固めている。
 俺はギヨームだけでなく、家臣や家人を護るための聖なる水流の壁を創っている。
 彼らはギヨームと一緒にいる俺にも食事やお茶の世話をしてくれた。
 王都のアキテーヌ公爵屋敷では、子供たちの世話もしてくれていた。

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、その程度の水壁で、わたくしの聖なる従竜アレイクの攻撃を防げると思っているのなら、愚かすぎましてよ、偽者の勇者エドゥアル」

 ルイーズは本気で言っているのだろうか。
 先ほどから何度も腐ったドラゴンに禍々しい瘴気のブレスを放たせているが、その全てを俺の創りだした聖なる水流の壁に防がれているだぞ。
 確かに、ブレスが放たれるたびに俺の魔力は消費させられている。
 だが、消費させられている魔力は俺の生産魔力量よりも少ないのだぞ。

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、わたくしの聖なる従竜アレイクの力を思い知ったかしら、偽者の勇者エドゥアル。
 召喚聖者の生まれ変わりであり本当の勇者でもあるわたくしが、今から直々に止めをしてあげます、光栄に思いなさい」

 ルイーズはそう言い放つと腐ったドラゴンを操って突っ込んで来た。
 俺との実力差が全く分かっていないのだろうか?
 自分が操っていた腐ったモノたちが浄化消滅させられているのに、本気で聖なる水流の壁を腐ったドラゴンが突き破れると思っているのだろうか?
 もしかしたら、不意に現れたように、聖なる水流の壁を飛び越えられるのか?

 グッワッシャアアアアア。

「ギャアアアアア」

 とても耳障り悲鳴をあげながらルイーズが消えて行く。
 姿形は人間に見えていたが、すでに腐っていたようだ。
 巨大な腐ったドラゴンは浄化消滅させるのには時間がかかるが、聖なる水流の壁を突破するほどの力はないようで、流れをえがく聖なる水流の中で徐々に小さくなっているから、それほど時間をかけずに消えてなくなるだろう。

(ラファエル、ガブリエルたちは斃した。
 そちらはどうなっている)

(特に何事もない、いたって平穏なのじゃ。
 聖なるブレスを使う必要もなく、エドゥアルが教えてくれた聖なる炎を創りだす魔術を少し展開させるだけで、腐ったモノたちは消滅したのじゃ)

(そうか、だったら子供たちを連れてこちらに合流してくれ。
 王も貴族も馬上槍試合の出場者もみんな死んでしまった。
 もうこれ以上ここにいる必要はない。
 子供たちを孤児院に連れて帰って休ませる)

(わかった、妾もその方がいいと思うのじゃ。
 だったら、アキテーヌ公爵たちともここで分かれるのか?)

(そうだな、分かれてもいいのだが、慈母竜をどうするかを話し合った方がいいな。
 俺としては、人間には分不相応な力を持った慈母竜は退化させて元の愛玩竜に戻したいのだが、人間はともかく慈母竜たちの気持ちを無視するのは嫌だからな)

(妾も、できる事なら元の弱くて愚かな愛玩竜のは戻したくないのじゃ。
 他国を支配するような戦争に慈母竜を使わない事を約束させて、強く賢い慈母竜のままにしておいてやって欲しいのじゃ)

(分かった、基本はその方針でいい。
 俺とラファエルが少し本気でおどせば、アキテーヌ公爵たちも素直に言う事を聞くだろうし、慈母竜たちはラファエルの言う通りにするだろう)

ギャバババババ!

 虹色に光り輝く圧倒的な魔力が俺に向かってきた。
 用心して展開したままにしていた、聖なる水流の壁を吹き飛ばす勢いだ。
 一瞬で第3のチャクラ、臍のあたりにあるマニプーラ・チャクラの蓄えあった魔力の半分が消費されてしまった。
 それでも虹色に光り輝く魔力の攻撃を防ぎきれない。

エリア・ウルトラ・ホーリー・アース・ウォール!

 俺は、他の聖なる水流の壁も一瞬で突き破られると判断した。
 第4のチャクラ、胸にあるアナーハタ・チャクラに蓄えてある魔力を使っても、虹色に光り輝く魔力の攻撃を防ぎきれないと判断したのだ。
 敵の攻撃を防ぐには、同じ魔力量でも土の属性が効果的だと判断した。
 だから、新たな魔術を展開しようとしたのだが、残念ながら間に合わなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結(続編)ほかに相手がいるのに】

もえこ
恋愛
恋愛小説大賞に参加中、投票いただけると嬉しいです。 遂に、杉崎への気持ちを完全に自覚した葉月。 理性に抗えずに杉崎と再び身体を重ねた葉月は、出張先から帰るまさにその日に、遠距離恋愛中である恋人の拓海が自身の自宅まで来ている事を知り、動揺する…。 拓海は空港まで迎えにくるというが… 男女間の性描写があるため、苦手な方は読むのをお控えください。 こちらは、既に公開・完結済みの「ほかに相手がいるのに」の続編となります。 よろしければそちらを先にご覧ください。

【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール
恋愛
「リリア、お前は要らない子だ」 「リリア、可愛いミリスの為に死んでくれ」 「リリア、お前が死んでも誰も悲しまないさ」  リリア  リリア  リリア  何度も名前を呼ばれた。  何度呼ばれても、けして目が合うことは無かった。  何度話しかけられても、彼らが見つめる視線の先はただ一人。  血の繋がらない、義理の妹ミリス。  父も母も兄も弟も。  誰も彼もが彼女を愛した。  実の娘である、妹である私ではなく。  真っ赤な他人のミリスを。  そして私は彼女の身代わりに死ぬのだ。  何度も何度も何度だって。苦しめられて殺されて。  そして、何度死んでも過去に戻る。繰り返される苦しみ、死の恐怖。私はけしてそこから逃れられない。  だけど、もういい、と思うの。  どうせ繰り返すならば、同じように生きなくて良いと思うの。  どうして貴方達だけ好き勝手生きてるの? どうして幸せになることが許されるの?  そんなこと、許さない。私が許さない。  もう何度目か数える事もしなかった時間の戻りを経て──私はようやく家族に告げる事が出来た。  最初で最後の贈り物。私から贈る、大切な言葉。 「お父様、お母様、兄弟にミリス」  みんなみんな 「死んでください」  どうぞ受け取ってくださいませ。 ※ダークシリアス基本に途中明るかったりもします ※他サイトにも掲載してます

【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった

華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。 でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。  辺境伯に行くと、、、、、

才色兼備な公爵令嬢は、皇太子を立派に即位させたいけど、どうやら婚約破棄を望まれているようです。

皐月 誘
恋愛
ラザフォード王国に、才色兼備とその名を知られる公爵令嬢がいた。 ソフィア エインズワース公女。 2歳の頃に皇太子の婚約者に据えられた彼女は、周りの期待以上に芯の強い女性へと成長をしていくが、婚約者であるセルジオ皇太子との間には徐々に溝が出来ていた。 数年の留学を経て、ラザフォードに帰国した彼女を待ち受けているのは、謂れのない嘲笑か、それとも真実の愛か。。。

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

万能すぎる創造スキルで異世界を強かに生きる!

緋緋色兼人
ファンタジー
戦闘(バトル)も製造(クラフト)も探索(クエスト)も何でもこい! 超オールマイティスキルファンタジー、開幕! ――幼馴染の女の子をかばって死んでしまい、異世界に転生した青年・ルイ。彼はその際に得た謎の万能スキル<創造>を生かして自らを強化しつつ、優しく強い冒険者の両親の下で幸せにすくすくと成長していく。だがある日、魔物が大群で暴走するという百数十年ぶりの異常事態が発生。それに便乗した利己的な貴族の謀略のせいで街を守るべく出陣した両親が命を散らし、ルイは天涯孤独の身となってしまうのだった。そんな理不尽な異世界を、全力を尽くして強かに生き抜いていくことを強く誓い、自らの居場所を創るルイの旅が始まる――

聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。

向原 行人
ファンタジー
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

婚約者は…やはり愚かであった

しゃーりん
恋愛
私、公爵令嬢アリーシャと公爵令息ジョシュアは6歳から婚約している。 素直すぎて疑うことを知らないジョシュアを子供のころから心配し、世話を焼いてきた。 そんなジョシュアがアリーシャの側を離れようとしている。愚かな人物の入れ知恵かな? 結婚が近くなった学園卒業の半年前から怪しい行動をするようになった婚約者を見限るお話です。

処理中です...