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第一章

第24話:勇者ガブリエルたちは⑤

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 聖歴1216年2月18日:ガブリエル視点

「くそ、くそ、くそ、くそ、くそ。
 なんで勇者である俺様がエドゥアルの決めた馬上槍試合にでなければいけない。
 黙ってないでなんとか言え、アーチュウ!」

 何度アーチュウを殴っても怒りが収まらない。
 以前なら殴り飛ばせていたアーチュウが立ったまま殴られているのも腹が立つ。

「この、この、この、この、この。
 倒れやがれ、この役立たずが」

 何度も蹴って、ようやくアーチュウが倒れやがった。
 
「ぜぇえ、ぜぇえ、ぜぇえ、ぜぇえ、ぜぇえ。
 今日はこれくらいで許してやる、さっさと食べ物をよこせ」

「もう、ない、さっきたべたのでさいご」

「なんだと、お前が喰いすぎるから食べ物がなくなったのだぞ。
 責任をとって食い物をとってこい」

「おで、たべてない、もう3日たべてない。
 ゆうしゃがたべるなといったから、3日たべてない」

「じゃかましいわ、役立たずに喰わせる物なんかねぇえんだよ。
 グズグズ言っていないで食いもんを集めこい。
 不味いモンスターの肉ではなく、人間の作った物だぞ。
 もう固い干肉でも堅パンでも構わねぇえ。
 その辺にいる冒険者をぶち殺して奪ってこい」

「……でも、ひとをおそうのはわるい……」

「じゃかましいわ、バカは黙って俺様の言う通りにしていろ。
 勇者である俺様がいいと言ったら人を殺してもいいんだ。
 グズグズ言っていないで食糧を奪ってこい。
 お前は勇者の盾だろうが、言う通りにしろ」

「おで、やる、おで、ゆうしゃのたて」

 教皇もルイーズも教団も、クロエも魔術師教会も許さねぇ。
 勇者である俺様を裏切った奴は皆殺しにしてやる。
 だが、従者がバカのアーチュウしかいない状態では復讐もできやしねえ。
 国王の支援を手に入れるには馬上槍試合に出ないといけないが、馬すらいない状態では参加できない。

「おや、おや、おや、勇者ガブリエル様ではありませんか。
 このようなダンジョンで何をされておられるのですか」

「てめぇえはナニモンだ?!」

「私はしがない冒険商人のナザニエルと申す者でございます。
 見知りおきください、勇者ガブリエル様」

「勇者である俺様にあいさつをするなんて、見どころがあるな、ナザニエル」

「勇者であるガブリエル様にあいさつをするのは当然の事でございます。
 それにしても、勇者であるガブリエル様がこのような場所におられるとは、何かお困りの事でもありました」

「はぁあ、なんでそんな事を聞く、ナザニエル!」

「今カロリング王国では、偽者の勇者エドゥアルが国王陛下に無理難題を押し付けて、馬上槍試合を開催させたと評判になっているのです。
 本当の勇者であるガブリエル様なら、偽者の勇者エドゥアルを退治するために、馬上槍試合に参加すべく王都に向かわれていると思っていましたから」


「ああ、その、ああ、なんだ、これは、そう、本当の勇者である俺様もそのつもりだったのだが、邪神にパーティーメンバーが狂わされてしまったのだ」

「ああ、わかりました、わかりました、それでですか。
 ルイーズ教団が召喚聖者ルイーズの生まれ変わりと言い張っている女が、勇者だと名乗って馬上槍試合にでるという噂を聞きました。
 魔術師教会の会長の娘で、若き天才美少女魔術師と名乗っていたクロエという女も、勇者だと名乗って馬上槍試合に出ると言う噂を聞きました。
 すべては邪神が本当の勇者であるガブリエル様の邪魔していたのですね」

「お、おお、そうだ、その通りだ。
 本当の勇者である俺様とあっても、邪神が相手だと苦戦するのだ。
 なんと言っても100人もの召喚聖者が集まってやっと倒した強敵だからな」

「確かにその通りですね、本当の勇者ガブリエル様。
 ここで本当の勇者であるガブリエル様に出会えたのは、神の導きかもしれません。
 私になにか手助けできる事はありませんか、本当の勇者ガブリエル様」

「なに、手助けしてくれると言うのか、ナザニエル!」

「はい、この国に生きる者として、本当の勇者ガブリエル様のお手伝いができるのなら、これほどの栄誉はございません。
 どうか遠慮せずに何なりとお命じください」

「おお、そうか、そうか、栄誉と言うのなら支援させてやろう。
 まずは金だ、邪神の手先になった奴らに軍資金を奪われたのだ。
 邪神を斃すためには莫大な軍資金がいるからな、まずは金だ」

「わかりました、冒険商人に過ぎない私に集められる金額はしれていますが、できる限り集めさせていただきます。
 なんでしたら、馬上槍試合に参加するための軍馬と装備も整えさせていただきましょうか、本当の勇者ガブリエル様」

「え、あ、う、そう、だな、そうしてくれれば、たすかるな」

 勝てるのか、本当に今の俺が勝てるのか?
 教団が支援するルイーズや魔術師協会が支援するクロエに勝てるのか。
 あいつらの事だ、絶対に卑怯な手を使ってくる。
 それを防ぐために正義の策を使いたいが、金も人もないからなぁあ。

「ここで本当の勇者であるガブリエル様に出会えて本当によかったです。
 ちょうど馬上槍試合に最適な武器を手に入れたところなのですよ。
 どのような攻撃も通用しない最高の盾と鎧、いいかなる盾や鎧であろうと打ち砕く槍があるのですよ。
 その盾と鎧と槍がある限り、本当の勇者であるガブリエル様は負けません。
 ただ、絶対に偽者の勇者たちに奪われないようにしてください」

「なに、それほど強力な盾と鎧と槍があるのか。
 それが手に入ったら、勇者を名乗る偽者たちなど簡単にぶち殺せるな」

「はい、はい、はい、偽者どもなど簡単に斃せますとも。
 ああ、そうだ、あれもありました、とっておきのモノがありました。
 実はとても勇猛果敢な軍馬を手に入れたのです。
 あまりに勇猛なので、馬上槍試合の相手をかみ殺したほどです。
 偽者たちを戦う事になったら、必ずかみ殺してくれる事でしょう。
 それに、絶対に主人を裏切る事がなく、主人の為なら盾になる忠義の軍馬です」

「ほう、それはいいな、今俺の盾役をしている奴が役立たずなのだ。
 あんな役立たずよりは、馬の方がずっと役に立ちそうだ」

「気にいっていただけたのなら、今直ぐお譲りしたいと思います。
 盾も鎧も槍も軍馬も、ダンジョンを出た所にあります。
 それに、ダンジョンを出たら新鮮な肉も魚も柔らかい白パンもあります。
 好きなだけ、お腹一杯食べていただけますよ。
 ああ、残念、盾役の方を待たなければいけないのですね」

「はぁあ、なんで本当の勇者である俺様がアーチュウを待たなければいけない。
 あんな役立たずなんかダンジョンに置いて行けばいいんだよ。
 役立たずにために、本当の勇者である俺様が腹を空かせて我慢しなければいけないなんて、誰が考えてもおかしいだろうが」

「確かにその通りでございますね、本当の勇者ガブリエル様。
 勇者の盾役ならば、ガブリエル様を飢えさせる事がおかしいのです。
 本当の勇者であるガブリエル様を飢えているのなら、自分の腕を斬り落として食べてもらうくらいでなければいけません。
 そのお程度の事もできない盾役など、ダンジョンの捨てて行って当然です」

 なるほど、ナザニエルの言う通りだ。
 本当の勇者である俺様が、腹が減っていると言ったら、自分の腕を斬りとして焼き、俺様に差し出すくらいでないと勇者の盾とは言えないな。

「よく言った、ナザニエルの言う通りだ。
 今日からナザニエルを勇者の腹心にしてやろう、感謝しろ」

「ありがたき幸せでございます、本当の勇者ガブリエル様。
 勇者の腹心であるナザニエルが外まで先導させていただきますので、どうか後を付いてきてください、本当の勇者ガブリエル様」

「おおよ、先導する事を許してやるぞ、勇者の腹心ナザニエル」
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