上 下
210 / 212
本文

悪漢の村7

しおりを挟む
 積極的に出ると決めてからの展開は早かった。
 娘が怖がらないように、ガビが戦いの場から遠ざけてくれていた。
 だから遠慮することなく、ゴロツキ共を拷問にかけて、洗いざらい白状させた。
 ゴロツキ一人に魔晶石使い魔一体が対応したから、時間的には直ぐに済んだ。
 そこで多くのことが分かった。
「ガビ、後は魔晶石使い魔に任せようと思う」
「ルイ様に御任せします」
「じゃあ、食事の続きをしようか」
「はい。さあ、遠慮せずに食べなさい」
「あの、でも、その」
「すっかり冷めてしまっているから、少し温めてあげよう」
 僅かな時間ではあったが、せっかくのシチューが冷めてしまっていたので、魔法で温めなおしてあげた。
 恐怖にこわばった娘の心を解きほぐしている間に、魔晶石使い魔にゴロツキ共の頭を確保させた。
 百人を超えるゴロツキ共も、村の中で三十人ほどが無力化され、村の外で五十人強が無力化されている。
 今は村の中を巡回している二十人ほどと、アジトを護っている三十人ほどに戦力を激減させているのだ。
「ルイ様、ゴロツキ共を無力化したのなら、宿に戻った方が娘も安心するのではありませんか」
「そうだね、一旦宿に戻ろうか」
「ほんとう。おうちにかえっていいの」
「ええ、大丈夫ですよ」
「おねえちゃん。ありがとうございます」
「どういたしまして」
 余とルイは宿屋に戻り、無事父親に娘を返した。
 最初はゴロツキ共を恐れて狼狽していた父親も、余がゴロツキ共を全滅させたと娘から聞いて、ようやく安心したようだ。
 最初は中々信じなかったが、魔晶石使いがに叩きのめした五十人の兄貴分を運ばせたら、ようやく納得した。
 まあ普通は信じられなくて当然だ。
「ガビ、宿屋の主人を含めた、ゴロツキ共に協力していた家の者を、他の村に移住させようと思うのだが」
「そうですわね。その方が他の村人の為にもよいでしょうね」
「そこで、魔晶石使い魔が新たに開拓した土地を、その者達に与えようと思うのだが」
「そうですわね、先住の人達がいる村では、何かと揉め事が起こる可能性がありますわね」
「では早速主人に話してくるよ」
 余の話を聞いた主人は、直ぐに移住を快諾してくれた。
 主人にしても、ゴロツキ共がいなくなった後で、他の住民達の報復が怖かったようだ。
 いや、それ以前に、ゴロツキ共の共犯として処刑されると思っていたようだ。
 確かに、ゴロツキ共に協力して、殺人や恐喝、強盗や闇奴隷売買に加担していたのだから、処罰を覚悟するのが普通だ。
「土地は直ぐに作物が植えられるように開拓してある」
「はい、ありがとうございます」
「万が一の為に、家の周囲には果樹を植えてあるから、非常食には困らない」
「御配慮感謝いたします」
「魔晶石使い魔を看守代わりに派遣するから、少々の魔獣が現れても大丈夫だ」
「重ね重ねの御配慮、感謝の言葉もございません」
 結局、表向きは開拓に従事する流罪と言う扱いになった。
 だがこれだけでは、共犯者にだけ手厚い加護を与えて、一方的に被害を受けていた村人に、何の慈悲も与えていないことになる。
 そこでこの村の周辺に村共有財産の農地を開拓し、同じく村共有財産の果樹を植林した。
 全く農地を所有しない者や、所有地が少ない者には、十分家族を養えるだけの開拓地を与えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...