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ワインの誓い

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「乾杯だ!」
「いったい何度乾杯すれば気がすむのだ」
「ふん! かたいことを言うな、乾杯は何度してもいいモノだ」
「そうですね、確かに乾杯は何度してもいいモノですが、ただ乾杯するだけでは芸がありません。何かを約束してこそ乾杯の価値があると言うモノです」
「契約を約束しただけではいかんのか?」
「どうせなら盟約を結ぼうではありませんか」
「盟約だと?」
「そうです。互いの国を守り合うという盟約ですよ」
「獣人族が人族に襲われたら、ドワーフ族が助けてやるという事か?」
「ドワーフ族が何者かに襲われた場合でも、獣人族が助けるという盟約でもありますよ」
「そのような事はありえん!」
「なぜですか?」
「この村が領地を接しているのは、獣人族が住む山岳地帯と魔境だけだ。人族はおろか、他の何者の国とも領地を接してはおらん」
「ですが人族の国王なら、山を越え海を渡ろうとも、ドワーフ族との交易を求めて軍を派遣しますよ」
「交易なのに軍を派遣するというのか?」
「力を見せつけて、有利な交易条件を引き出すでしょうね」
「ふん! やはり人族じゃな」
「はい。ですがそのつもりでいないと、女子供が戦で傷つくことになりますよ」
「だがその可能性はとても低い。その低い可能性の為に、必ず起こるであろう人族の獣人領侵攻に巻き込まれるのはごめんだ。それに獣人族も、種族によって気性が違い過ぎる。全部族を信じることはできん」
「確かに臆病な気質の獣人もいれば、卑怯な所のある獣人もいますが、それは妖精族が保証すると言う事でどうでしょう」
「なんじゃと?! 妖精族じゃと!」
「はい。今回のフィン王国動乱では、善良な獣人族と人族を護るために、妖精族が協力してくれました。妖精族が協力してくれますから、獣人族が裏切ることはありませんよ」
「う~む。だがな~」
「ではこうしましょう。もし獣人族の中に裏切る部族が現れた時には、いち早く妖精族が教えてくれるようにしましょう。そうすればドワーフ族も他の獣人族も、卑怯者に不意打ちをされることはないでしょう」
「う~む。そうしてくれるのなら、盟約を結んでも不意打ちをされることはないだろうが、それでもドワーフ族の方が不利であろう」
「獣人族がドワーフ族の武具を売って酒と交換してくれますよ。それでも利がありませんか」
「確かにそれは利があると言えるが、人族や獣人族が作る酒は、我らドワーフ族にも作れるから、戦争に巻き込まれる危険を冒してまで欲しいモノではない」
「だったらこれはどうです」
「なんじゃこれは?」
「伝説の妖精ワインですよ」
「なんじゃと?! あの妖精ワインがあるというのか?!」
「妖精族と友好関係を築けたのですから、当然妖精族の産物も手に入りますよ。ドワーフ族が人族、獣人族、妖精族の同盟に加わるのなら、当然妖精ワインも手に入れることができますよ」
「う~ん、う~ん、う~ん。だがな、飲んでみなければ、それほど価値のあるモノか分からん」
「だったら飲んで確かめてもらいましょう」
「なに? 飲ませてくれるのか!」
「俺にも飲ませろ!」
「私もよ! 私にも飲ませなさい!」
 周りでかたずをのんで聞いていたドワーフ族が、一斉に自分も飲ませろと騒ぎだした。
「いいですよ。でも並んでください。飲みたい人は列を作って並んでください」
 さっとダイが前に出て、魔法袋からワインの入った甕を取り出したが、同時に今まで隠していた強大な気配を少し漏らして、ドワーフ族を威圧するのであった。
「では代表には、私と妖精ワインを酌み交わして頂きましょう」
 ルイと妖精ワインを酌み交わしたドワーフ族の代表は籠絡され、ダイの気配に圧倒された状況で、妖精ワインを飲んだ全てのドワーフ族も、いつの間にか妖精族・獣人族・人族との同盟を納得していた。
フィン連合王国とドワーフ首長国との同盟がここに締結されたのであった。

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