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第一章

第37話:塞翁失馬6

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 重要案件の柱が決まって、後は細部を詰めるだけになったのはよかった。
 だが、これまで以上の重圧が肩どころか背中にのしかかってきた。
 自分の言動があれほど殿下に影響を与えているとは思っていなかった。

『目には目を歯には歯を』は、前世召喚前の俺がよく口にしていた考えで、生まれ変わった今でも1番正しいと思っている。

 だが、なんの権力も持っていなかった前世の俺ならば、何を信じ何を口にしようとも誰にも迷惑を掛けなかった。

 できるだけ人と関わらないようにしていた、前世召喚後の俺なら、向こうから敵対してきた奴をぶちのめすだけだから、自由だった。

 だが今は、1国の宰相を任されているのだ。
 その国の歴史や風土を無視した考え方は許されない。

 いや、俺が宰相の間だけなら、ある程度の裁量は許されている。
 恨みを買うような事を決めても実行しても、最悪俺が殺されるだけだ。
 俺以外の者が権力の座に着いた時に変える事もできる。

 俺の個人的な主義主張で殿下に迷惑を掛ける訳にはいかないので、殿下とクリスティーナ伯爵の本音は聞いたが、全責任は俺が負う。
 宰相令として、人を殺した者は問答無用で殺す事にすると公布した。

 前世の影響もあって、決まった法律をその日から有効にする気にはなれない。
 実際に法律が適用される施行まで1年間、法律の浸透期間を置く。
 1年間もお知らせ期間を設けるのだから、知りませんでしたは許さん!

 俺が使い魔達を使って、法律が変わった事を支配域に周知している間に、ダウンシャー王国とフェリラン王国の戦況が落ち着いた。

 俺が責任者となっているダウンシャー王国は、全国土の3/4もが俺の支配域となってしまった。

 好きでそこまで支配域を広げたわけではない。
 最初に殿下に臣従した貴族士族家を護り、敵対する貴族士族家を潰して俺の領地にして、王都を囲むだけの心算だった。

 それなのに、ダウンシャー王国の王都を囲むまでに襲い掛かってきた貴族士族が多過ぎて、その報復をしているうちに支配域が増えてしまったのだ。

 そのほとんどが俺の領地になっているのがとても不味い。
 それでなくてもフェリラン王国、ジェラルド王国、アバコーン王国にある俺の領地が広大過ぎる。

 初期の領地は父上や兄達に割譲したが、一族一門という意味では巨大勢力だ。
 俺が献上した領地しかないアンネリーゼ殿下はもちろん、近隣諸国の王家王国が持つ直轄領よりも広大だ。

 まあ、いい、本当にやばいと思ったら全部殿下に献上すればいい。
 それに、殿下が必ず名君に育ってくれるとは限らない。
 次代の国王が糞という可能性もある。

 やめよう、考えるのが嫌になるような事は、後回しにして考えない。
 今やるべき事だけを考えて粛々と実現していけばいい。

 クリスティーナ伯爵が指揮を執るフェリラン王国併合軍は、予定通り無血で王都を落とし、愚王と3王女を捕らえた。

 問題は王族と奸臣佞臣悪臣達の処遇だが、俺の新法の施工前なので、賠償金と身代金を支払うのなら命だけは助けて、国外追放で許してやることになった。

 俺個人の感覚では、これだけの混乱を引き起こしたジェイコブ国王と3王女はもちろん、私利私欲で民を見捨てた奸臣佞臣悪臣も処刑すべきなのだが、他国に嫁いだ一族一門が賠償金と身代金を支払うと言う事なので、助命した。

 こんな連中なら、また欲に目がくらんでちょっかいを出してくる可能性が高いが、それはそれで開戦侵攻の正統な名分になるので、自分の正義感を押し殺した。

 近隣諸国が、莫大な賠償金と身代金を支払ってジェイコブ国王と3王女を引きとったのは、将来我が国に侵攻する大義名分を確保しておきたかったからだろう。

 自分達から滅びたいと言うのなら、俺が遠慮する必要など全くない。
 ちょっかい出してきた時点でぶちのめしてやる!

 賠償金と身代金を支払ってもらえなかった佞臣奸臣悪臣を、王都の民の前で処刑し、マティルダ王女を戴冠させた。

 助命して戴冠させてやったが、フェリラン王族としての責任はとってもらった。
 どの国も賠償金と身代金を支払ってまで引き取ろうとしなかった、チャーリー王子はマティルダ王女に首を刎ねさせた。

 もちろん他国が王と3王女の賠償金と身代金を支払ったからと言って、占領された王家王国としての賠償金を支払ってもらった。

 この度の戦争で使った費用の3倍、恐竜軍団や使い魔軍団ではなく、人間の騎士や兵士を投入して戦っていた場合に必要だった費用の3倍だ。
 その中には手柄を立てた騎士や兵士に与える土地や金も含まれる。

 普通に計算したら、フェリラン王家と王国が蓄えている金銀財宝の全てを支払っても足らず、何十何百年も残金を支払い続けなければいけなかっただろう。

 だがそこまでやるのは、俺の不完全な良心が痛む。
 そこで1度全ての金銀財宝を支払わせた上で、アンネリーゼ殿下が1/10の金銀をマティルダ女王の戴冠祝いとして与える形をとった。

 こんな決定をした俺はともかく、認めたアンネリーゼ殿下を欲深く非情な人間だと思ったとしたら、それはこの世界の常識を知らなさ過ぎる。

 普通なら王都に住む10万を超える民が略奪されていたのだ。
 特に欲深い相手に負けていたら、10万の民全員が奴隷にされていた。
 殿下は俺のやり方を認めて、民からの略奪を禁じてくれたのだ。

 恐竜軍団や使い魔軍団が略奪をする事はないが、殿下の軍に馳せ参じると言って集まってきた、元フェリラン王国諸侯軍の中には、これ幸いに獣欲を満たそうとする連中も結構な数いたのだ。

 そんな連中は大抵馬鹿で自制心がない。
 隠れてやればバレないと考えて、王都への入場を禁じているにもかかわらず、商人や旅行者に変装して入り込む。

 もちろん、そんな外道が現れるのは計算済みだ。
 取り締まるための汎用使い魔を大量に用意していた。
 汎用使い魔達に腐れ外道どもを尾行させる。

 事前に注意したり捕まえたりはしない。
 それはそんな偽善者ではない。
 実際に何の罪もない人を襲おうとした後か、家に侵入した後で捕まえる。

 最初の1人を捕まえた時点で公表したりはしない。
 そんな事をしたら、民を襲おうとしていた連中が自重してしまう。
 使い魔達が事前に把握していた腐れ外道全員を捕まえるまでは秘密にする。

 事前に把握していた悪人を全員捕まえた後で、諸侯軍の犯罪を公表した。
 クリスティーナ伯爵の軍令に背き、アンネリーゼ殿下の名誉を著しく傷つけ貶めたという罪状で、全軍を集めた前で全員を斬首した。

 もちろん末端の兵士だけを処分したりはしない。
 領地待機命令を無視して勝手に参戦し、何の戦果もあげないばかりが、殿下の名誉を傷つけるような事をした貴族士族も斬首とした。
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