上 下
5 / 15

4話

しおりを挟む
「ええい!
 まだ兵士の準備は整わんのか!」

「もう直ぐでございます。
 屋敷の周りの民の数がもう少し減れば、屋敷の兵士だけでも突破できます。
 準備が整う前に門を開けたら、民が屋敷に押し入ってきてしまいます」

「そのような事は、言われなくても分かっておるわ!
 おのれクラリス!
 下劣な真似をしおって!
 聖女なら聖女らしく、祈りだけ捧げておればいいものを。
 このままでは済まさんぞ。
 必ず報復してくれる!」

 貴族院議長、バルフォア侯爵ザシャトが身勝手な事を言っています。
 下劣なのはお前でしょう。
 まあいいです。
 生きていられるのも残りわずかです。
 私の放った魔獣が、そろそろバルフォア侯爵の屋敷にたどりつく頃です。

「魔獣だ!
 魔獣が現れたぞ!
 逃げろ、急いで逃げるんだ!」

 バルフォア侯爵の屋敷を囲んでいた民が、急いで逃げていきます。
 深夜近くなっているので、エレノアと見ていた時よりも凄く人数が減っています。
 王城を囲んでいる民の数も減っていたので、タイミングは最高ですね。
 ここで魔獣が現れたと噂が流れたら、民の怒りと恐怖は頂点に達します。
 エレノアが熟睡するまで、眠いのを我慢して起きていた甲斐がありました。

 封印の網の強度は、まだまだ丈夫でした。
 今この大きさの魔獣、牙鼠がこの世界に出てこれる状態ではありませんでした。
 それを私が手を加えて、一時的に網を広げたのです。
 あまりに強大な魔獣がでてこないように、慎重に場所とタイミングを計って、牙鼠十頭だけをこの世界に放ったのです。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「魔獣だ!
 魔獣がでたぞぉ!」

 門番が慌てふためいています。
 バルフォア侯爵家の陪臣徒士が、槍を振るって斃そうとしています。
 ですが無理ですね。
 あのようなへっぴり腰では、とても魔獣の堅い皮を貫く事はできません。
 本当に武力で採用された、真の騎士や徒士以外では、最弱に近い牙鼠の皮すら突き破る事は不可能です。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!
 悪かった!
 俺が悪かった!
 正す!
 裁判をやり直すから許してくれ!
 頼む、クラリス。
 クラリス様!
 ギャアギャア!
 痛い!
 俺の身体を食べさせるのは止めてくれ!
 クラリスさまぁぁぁぁ!」

 汚い男が牙鼠に喰い殺されるのを見ても、何も面白くないですね。
 いい気味だとは思いますが、楽しいわけでも、うれしいわけでもありません。
 牙鼠は、突き出たところ、柔らかいところから食べます。
 耳や鼻、唇や指先から齧ります。
 喉仏から喰い破ってくれれば、早めに窒息して死ねるでしょうが、腹を喰い破られ、生きたまま内臓を喰われるのはとても痛いでしょう。
 まあ、これで王侯貴族も民も思い知った事でしょう。
 もう眠いので眠りましょう。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

婚約破棄?お黙りなさいと言ってるの。-悪役令嬢イレーナ・マルティネスのおとぎ話について-

田中冥土
恋愛
イレーナ・マルティネスは代々女性当主の家系に生まれ、婿を迎えることとなっていた。 そのような家柄の関係上、イレーナは女傑・怪女・烈婦などと好き放題言われている。 しかしそんな彼女にも、近頃婚約者が平民出身の女生徒と仲良くしているように見えるという、いじらしくそして重大な悩みを抱えていた。 小説家になろうにも掲載中。

聖女の私は婚約破棄されました。婚約指輪を返せと怒鳴られたので呪いを込めてお返しします。

十条沙良
恋愛
一方的に婚約破棄されたのに、婚約指輪を返せですって?はい呪いを込めてお返ししますわ。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

従妹に婚約者の王太子を奪われた上に、竜聖女の役割を果たしていないと狂竜の生贄にされました。

克全
恋愛
アルファポリス・カクヨム・ノベルバに投稿しています。 クレイヴン公爵家の令嬢ベアトリクスはパジェット王家のマクシミリアン王太子と婚約していた。だが愚かな王太子はバッハマン公爵家の令嬢ブリギッタに籠絡され、ベアトリクスとの婚約を破棄したうえに、狂竜と呼ばれた恐ろしい竜の生贄にしてしまった。それがパジェット王国の滅亡につながるとも思わずに。

癒しの聖女は愚かな王太子に隣国に売られてしまいました。今更守護神が疫病神と知らなかったと言っても戻りません。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

冤罪により婚約破棄された令嬢は、どん底から幸せをつかみ取りました。

香取鞠里
恋愛
冤罪により婚約破棄されたニーナは、肩身の狭い思いをしていたが、ある日ある大物の人物に求愛されて──!?

辺境伯は王女から婚約破棄される

高坂ナツキ
恋愛
「ハリス・ワイマール、貴男との婚約をここに破棄いたしますわ」  会場中にラライザ王国第一王女であるエリス・ラライザの宣言が響く。  王宮の大ホールで行われている高等学校の卒業記念パーティーには高等学校の卒業生やその婚約者、あるいは既に在学中に婚姻を済ませている伴侶が集まっていた。  彼らの大半はこれから領地に戻ったり王宮に仕官する見習いのために爵位を継いではいない状態、つまりは親の癪の優劣以外にはまだ地位の上下が明確にはなっていないものばかりだ。  だからこそ、第一王女という絶大な権力を有するエリスを止められるものはいなかった。 婚約破棄の宣言から始まる物語。 ただし、婚約の破棄を宣言したのは王子ではなく王女。 辺境伯領の田舎者とは結婚したくないと相手を罵る。 だが、辺境伯側にも言い分はあって……。 男性側からの婚約破棄物はよく目にするが、女性側からのはあまり見ない。 それだけを原動力にした作品。

処理中です...