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「バスティアン伯爵、ダベルノワ伯爵邸をくまなく調べさせたが、残念ながら何の証拠も出てこなかった。
 これではダベルノワ伯爵を処分する事はできない。
 だが大きな疑惑がある事は余も理解している。
 捜査の続行をさせている間に、バスティアン伯爵は報復に備えて軍備を整えよ。
 ヴァイオレットは祖父母を連れてこの国から逃げよ」

 ラウール国王は情のある方なのでしょう。
 ですが、王に必要な決断力と冷酷さは持っていないようです。
 これでこの国の命運は尽きたと思われます。
 祖父母と私の命を護るために、さっさと逃げましょう。

「陛下、しばらく国を離れる許可を頂きます。
 今のバスティアン伯爵家には、ダベルノワ伯爵と王太子から聖女候補を護り切る力はありません。
 正当な聖女候補を皆殺しにされたら、この国は滅んでしまいます。
 この国を護るために、私達はこの国を離れます」

「……王家を、王国を見放したか……」

「そこまでは申しません。
 ですが、死を覚悟してこの国に残るほどの忠誠心は失いました。
 残っている忠誠心では、身の安全を確保した範囲が精々です」

「……分かった。
 家臣に見限られるのは、余の不徳だ。
 認めるしかあるまい……」

 正直情けないと思います。
 同情を誘うような態度をとって、バスティアン伯爵を死地に残そうとします。
 王太子とダベルノワ伯爵は殺せないくせに、バスティアン伯爵を遠回しに殺すのはは平気なのです。
 自分が直接私刑命令を下すのは嫌でも、誰かが伯爵を殺すのは平気なのです。
 ラウール国王の下劣極まりない性根が分かりました。

「今、陛下の御心がよく理解できました。
 これで心置きなく決断ができます。
 ヴァイオレット嬢、行きましょうか」

 バスティアン伯爵も陛下の性根心底がよく理解できたのでしょう。
 何の後悔も後ろめたさもない晴れ晴れとした表情で僕をエスコートしてくれます。
 私達は周囲を警戒し、互いを護りながら王城を後にしました。
 フェアリー公爵家は王都屋敷も財産も失っているので、王都の下町に住んでいますから、バスティアン伯爵の馬車に同乗させてもらい、一旦バスティアン伯爵邸にまで連れて行ってもらいました。

 バスティアン伯爵が急いでこの国から逃げ出す準備をする間に、私はバスティアン伯爵の厚意で馬車を貸していただき、下町の家まで送っていただきました。
 いえ、それだけではありません。
 逃亡のために必要な貴重な資金を貸してくださり、幌馬車を買って西のジリオン王国に逃げることができるようにしてくださいました。
 バスティアン伯爵は東のベルリド王国に逃げられるそうです。
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