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第一章

第1話:婚約者と弟の裏切り

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 私の前には冷酷な表情を浮かべた王太子ゲセルトがいます。
 その腕には、見苦しい女のような科を作りながら、ニタニタと嫌らしい表情をした弟のジャンがとりついています。
 もう考える余地などありません、王太子は私を裏切ったのです。

「コロンビア侯爵長男メイガ、お前を私を裏切った罪で追放刑にする。
 当然だが婚約は破棄する、だがコロンビア侯爵家との盟約は守らねばならない。
 よってここにいる次男のジャンと婚約する」

 舞踏会場に集まった全ての王侯貴族が驚愕しています。
 それもそうでしょう、何の兆候もなかったのだから。
 当事者の私が一番驚いていますが、それを表情に現すのは癪なんで、既に知っていた事のように、何の痛痒も感じていないかのように取り繕います。

「分かりました、身に覚えはありませんが、王太子殿下に嫌われたのなら仕方がありません、素直に追放刑をお受けしましょう。
 ただ確認したいのですが、私は何も持つ事は許されないのですか?
 追放刑の範囲はどこまで何ですか?」

「未練たらしいぞ、メイガ!
 お前は王太子殿下を裏切って使用人と不義密通を重ねたんだ。
 そんなモノに、侯爵家の財産を銅貨一枚渡すものか!
 追放刑の範囲だって?
 そんなもの国外に決まっているだろうが、ねえ、王太子殿下ぁあ」

 強欲で頭の悪いジャンらしいですね、ようやく手に入れた侯爵家を、全て自分のモノにしたいようですが、お前に侯爵家の舵取りができるのかい?
 それになんだその恥知らずな痴態は!
 そんな雌豚が雄を誘うような仕草は、場末の男娼くらいしかやらないぞ。
 少なくとも侯爵家を乗っとろうとする男がとっていい態度ではない。
 舞踏会場に集まっている王侯貴族も配偶者も、眉を顰めているではないか!

「最後にどうしても元婚約者として聞いておかなければいけない事があります。
 子供はどうする心算ですか、ジャンの魔力では王家に相応しい魔力を備えた子供を作る事はできないはずですが?」

 舞踏会場のざわめきが一気に大きくなりました。
 コロンビア侯爵の恥なので、今まで秘密にしてきましたが、ジャンは侯爵家に相応しい魔力を備えていません。
 まあ、これはコロンビア侯爵に限らず、何所の貴族家にもある話で、後継者さえ家柄に見合った魔力があればいいのです。

 ですが、ジャンが侯爵家を継ぐとなれば話は別でだ。
 魔力が見合わなければ、家格を下げられてしまう事になります。
 ジャン程度の魔力なら、伯爵どころか子爵、いえ、男爵への降爵もありえます。
 だがこれはコロンビア侯爵の問題だけで済む。
 大問題なのは、王太子が男爵程度の男と子供を作る事だ。
 どう考えても、王族に相応しい魔力を持った子供が生まれるとは思えない。
 
 王太子がジャンとの愛に生きるために、王位を諦め廃嫡を認めるなのらそれでもいいだろうが、身勝手で強欲な王太子とジャンはそのような殊勝な事はしないだろう。
 となれば方法は一つだけだが、それをやればほぼ確実に王侯貴族から見放さる。
 それだけならまだいいが、やってしまうと王国は切り札を失ってしまう。
 やらかす前に白状させて諦めさせるのが、私の役目だろう。
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