徳川慶勝、黒船を討つ

克全

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第1章

34話

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 一八四九年の交易利益は三千百六十八万両だった。
 金一両が銀二百匁で銭一万文になっているから、二年分の利益といっても信じられない金額だった。

 だがそれにも理由があった。
 二つの軍閥が日本から莫大な量の武器弾薬を購入していたのだ。
 一つは徳川慶恕が最初から支援する覚悟でいた、広東の反英郷党だった。
 だがもう一つの軍閥は、英国の手先だった。
 表向きは洪秀全が自らキリスト教に目覚めたことになっているが、実際には英国が資金や武器を援助して、清国内で内乱を起こさせていたのだ。

「では、やはりキリスト教は南蛮の手先なのだな?」

「はい、上様。
 走狗となっている愚か者共は、騙され操られているだけですが、主だった者達は、国を盗むための方便に、キリスト教を信じているふりをしているだけでございます。
 それは英国も仏国も露国も同じでございます。
 そうえなければ、同じ人間を騙し財貨を奪い殺したりはしません。
 同じ人間を奴隷にしたりはしません」

「確かにその通りだな。
 だが、だったらどうする?
 清国内で英国の手先となった洪秀全が内乱を起こしているのであろう。
 清国を手助けして戦うのか?
 それとも、清国の弱体を待って、南蛮と共に清国に攻め込むのか?」

「清国の皇帝しだいでございます。
 皇帝が南蛮と戦うというのなら、共に手を携えて南蛮と戦います。
 ですが皇帝が腐敗した官僚を抑えきれず、南蛮と屈辱的な条約を重ねるのなら、見所のある軍閥と手を結び、清国を倒して新王朝を建国します。
 そしてその新王朝と共に南蛮と戦います」

「う~む。
 余としては謀叛に手を貸すのは本意ではない。
 現皇帝に頑張ってもらいたいところだな」

「はい、そうなる事を私も願っております」

 そう言った徳川慶恕ではあるが、皇帝に与する方策と共に、清国を滅ぼすために下準備も整えていた。
 自らを清末の諸葛亮と称する左宗棠や、曽国藩・李鴻章・楊昌濬・劉典・王徳榜・康国器・高連升・鮑超・黄少春・蒋益澧・林文察などの多くの官僚将帥と密偵を接触させ、志那を任せるに足る人物を探していた。

 だが死の商人のように金儲けも行っていた。
 徳川慶恕が一番大切にしているのは徳川家である。
 南蛮と戦うための軍資金が稼げるのなら、相手が英国の走狗である太平天国であろうと、イスラム教徒のドンガン人であろう、各地の郷党軍閥であろうと関係ない。

 武具刀剣はもちろん、旧式の鉄砲や弓矢も売った。
 売って金銀や穀物に替え、国内で加工して付加価値を加え、また売った。
 北方や朝鮮にも売り、新たな商品となる物を買った。
 蘭国から最新の戦艦を買う資金をためる事が最優先だった。
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