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第1章
33話
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一八四九年となり、徳川慶恕の交易が再び莫大な利益を叩きだした。
前年は全ての利益を投資と兵糧の備蓄に回した。
莫大な米や麦を購入して、蝦夷や樺太に送り、北方交易に使えるようにするとともに、焼酎や白酒やウィスキーやウオッカの材料とした。
一八四八年の備蓄と投資が、一八四九年の莫大な利益に回ったのだ。
交易用の小型南蛮帆船艦隊が、大量の商品を以前の三倍の速度で、北から南、南から北と輸送してくれる。
南蛮の帆に改装した、船体は和船の合いの子船も、国内限定として今迄の二倍三倍の早さで輸送を担っていた。
父親・松平義建の九男・鐡丸も生まれていた。
高須松平家の後継者は安泰だった。
実高百万石を超える尾張家内に、五万石の新田分家を創設して、万が一の場合の予備家を創設する話もまとまっていた。
問題は清国内の反英国の機運が急先鋒となっている事だった。
そしてその陰には、アヘン戦争の敗北から英国に屈辱的な南京条約を結ばされ、その後仏国と黄埔条約、米国と望厦条約を結ぶされた道光帝の存在があった。
道光帝は、反乱を起こして紫禁城に攻め込んできた天理教徒を、自身で軍を指揮して討伐したほどの武断派の皇帝なのだ。
敗戦から不平等条約を結ばされた屈辱を忘れてはいなかったのだ。
そして道光帝の陰には、西域辺境の新疆のイリに左遷された林則徐がいた。
ムジャンガなような、広東商人から賄賂を受け取っていた、多数の汚職官僚の讒言で欽差大臣を解任された林則徐だったが、イリで露国の危険性を実感し、英国や仏国よりも露国を警戒していた。
その情報を富山の薬売り、清国商人、朝鮮商人、沿海商人、露国商人等の複数ルートから得ていた徳川慶恕は、将軍・徳川家慶に思い切った献策を行っていた。
何時ものように世子・徳川家祥を通じて全てを献策する律義さだった。
その状況と、家祥に男子が産まれすくすくと育ち、自分にも新たな男子が産まれすくすくと育っている現状を鑑みた将軍・徳川家慶は、自身は隠居して大御所となり、家祥に将軍職を譲る事を真剣に考えていた。
その状況下で徳川慶恕から献策された内容は、とても悩むものだった。
事もあろうに徳川松平家の中から、足利義満のように支那の皇帝に臣従させ、莫大な利益を得るとともに、大陸に領地を手に入れさせるという策だった。
多くの浪人部隊を清国に送り込み、清国内で南蛮を泥沼の消耗戦に巻き込むというものだった。
いくら徳川慶恕を信用している将軍・徳川家慶でも、直ぐに承認できるような内容ではなかったのだ。
前年は全ての利益を投資と兵糧の備蓄に回した。
莫大な米や麦を購入して、蝦夷や樺太に送り、北方交易に使えるようにするとともに、焼酎や白酒やウィスキーやウオッカの材料とした。
一八四八年の備蓄と投資が、一八四九年の莫大な利益に回ったのだ。
交易用の小型南蛮帆船艦隊が、大量の商品を以前の三倍の速度で、北から南、南から北と輸送してくれる。
南蛮の帆に改装した、船体は和船の合いの子船も、国内限定として今迄の二倍三倍の早さで輸送を担っていた。
父親・松平義建の九男・鐡丸も生まれていた。
高須松平家の後継者は安泰だった。
実高百万石を超える尾張家内に、五万石の新田分家を創設して、万が一の場合の予備家を創設する話もまとまっていた。
問題は清国内の反英国の機運が急先鋒となっている事だった。
そしてその陰には、アヘン戦争の敗北から英国に屈辱的な南京条約を結ばされ、その後仏国と黄埔条約、米国と望厦条約を結ぶされた道光帝の存在があった。
道光帝は、反乱を起こして紫禁城に攻め込んできた天理教徒を、自身で軍を指揮して討伐したほどの武断派の皇帝なのだ。
敗戦から不平等条約を結ばされた屈辱を忘れてはいなかったのだ。
そして道光帝の陰には、西域辺境の新疆のイリに左遷された林則徐がいた。
ムジャンガなような、広東商人から賄賂を受け取っていた、多数の汚職官僚の讒言で欽差大臣を解任された林則徐だったが、イリで露国の危険性を実感し、英国や仏国よりも露国を警戒していた。
その情報を富山の薬売り、清国商人、朝鮮商人、沿海商人、露国商人等の複数ルートから得ていた徳川慶恕は、将軍・徳川家慶に思い切った献策を行っていた。
何時ものように世子・徳川家祥を通じて全てを献策する律義さだった。
その状況と、家祥に男子が産まれすくすくと育ち、自分にも新たな男子が産まれすくすくと育っている現状を鑑みた将軍・徳川家慶は、自身は隠居して大御所となり、家祥に将軍職を譲る事を真剣に考えていた。
その状況下で徳川慶恕から献策された内容は、とても悩むものだった。
事もあろうに徳川松平家の中から、足利義満のように支那の皇帝に臣従させ、莫大な利益を得るとともに、大陸に領地を手に入れさせるという策だった。
多くの浪人部隊を清国に送り込み、清国内で南蛮を泥沼の消耗戦に巻き込むというものだった。
いくら徳川慶恕を信用している将軍・徳川家慶でも、直ぐに承認できるような内容ではなかったのだ。
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