徳川慶勝、黒船を討つ

克全

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第1章

25話

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 一八四五年松平義建の六男重六郎が、筑前福岡藩黒田家の養嗣子に決まった。
 伊勢津藩主・藤堂高猷の三男・藤堂建若などの多くの候補がいたが、将軍徳川家慶公と幕閣の強い勧めもあって、重六郎に決まった。
 重六郎には他にも養嗣子の話はあったし、五万石の新規大名として取立てる話もあったが、黒田家に監視の目を送り込むために、多くの家臣と共に送り込まれた。

 どうして重六郎が黒田家に送り込まれたといえば、養父となる黒田長溥が薩摩家の出であり、薩摩藩八代藩主・島津重豪の十三男で、薩摩藩島津家の世子・島津斉彬は二歳年上の大甥で、兄弟のような仲でだからだ。
 さらに兄弟にも島津斉宣、奥平昌高、島津忠厚、有馬一純、南部信順がいて、まだ存命の奥平昌高、島津忠厚、南部信順への影響力もある。

「上様、島津斉彬派の薩摩藩士に密貿易を訴えさせて、大隅守を隠居させましょう」

「大隅守が従わなければどうする」

「よい訓練となります。
 私が藩兵を率いて討伐いたします」

「そこまでの覚悟があるのなら、大納言に任せる」

 先年尾張家の極官、従二位、大納言、右近衛中将となっていた徳川慶恕は、いよいよ薩摩藩島津家の力を削ぐ決断をした。
 徳川慶恕は絶対に勝てる力がつくまで我慢していたが、莫大な利益を上げ、戦力も整い、将軍幕閣の信頼も勝ち取り、島津家内が藩主斉興派と世子斉彬派に分裂している今なら、絶対に勝てると判断したのだ。
 それに、薩摩藩島津家を完全に潰す気はなかった。
 島津斉彬は賢明で、南蛮との戦いでは戦力になってくれると思っていた。

 斉彬派の訴えを受けた幕閣は、島津斉興と家老の調所笑左衛門を呼び出し、密貿易について厳しく問いただした。
 奥平昌高、島津忠厚、南部信順、黒田長溥の叔父達を取り調べに同席させ、島津斉興に隠居して斉彬に家督を譲るように説得させた。
 しかも取り調べの途中で江戸城に総登城の大太鼓を叩かせて、島津家討伐の噂を流させた。

 調所笑左衛門は藩邸に戻って服毒自殺したものの、取り調べは緩められることなく続けられ、奥平昌高、島津忠厚、南部信順、黒田長溥だけでなく、姫達の嫁ぎ先まで連座処分される話が出てきた。
 奥平昌高、島津忠厚、南部信順、黒田長溥に説得され、島津斉興は隠居することになったが、島津に残る事は許されず、薩摩からも江戸からも遠く離れた、叔父南部信順の陸奥国八戸藩二万石にお預けとなった。

 島津斉彬の藩政を邪魔をしそうな斉興派の藩士は一緒に八戸藩にお預けとなったが、お由羅の方と島津久光も一緒に送られ、島津家の家督が継げないように密貿易に関与した罪人扱いにされた。
 ただし、薩摩家から台所料として二万石が送られる事になった。
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