徳川慶勝、黒船を討つ

克全

文字の大きさ
上 下
9 / 56
第1章

6話

しおりを挟む
 徳川慶恕は蝦夷地を中心にした貿易に力を入れていた。
 同時に蝦夷地防衛にも力を入れていた。
 尾張徳川家を継承し、将軍・徳川家慶から蝦夷地を預かった一八四二年には、次弟・松平義比を直接蝦夷地に派遣し、松前氏の居館であった福山館を中心に蝦夷地を開拓支配しようとしていた。

 松前氏は城を持てない領主待遇だったので、表向きは館と呼んでいたが、実際には本丸を中心に二ノ丸・北ノ丸があり、櫓が築かれ堀や石垣で厳重に強化されていた。
 徳川慶恕の側近の中には、露国対策に城郭を強化する献策をする者もいたが、徳川慶恕は南蛮の強力な大砲、軍艦による砲撃に対応するために、蘭国に南蛮式の築城技術を問い合わせていた。

 ところが、蝦夷地を任せていた松平義比が、幸運にも出雲国松江藩を継承する事になり、いったん江戸に戻ってから松江入りする事になった。
 優秀な家臣に蝦夷地を任せる選択もあったのだが、徳川慶恕は弟達を鍛える意味もあって、三弟・整三郎を元服させて松平義恕を名乗らせて福山館に派遣した。

 だがまた富山衆が新たな重要情報を集めてきた。
 それを確かめるために、直接江戸藩邸を訪ね、胸襟を開いて話し合った。
 膝詰めで談判をして、条件をすり合わせた。
 互いに納得した条件を持って徳川家祥に謁見を願い出て、徳川家祥から将軍・徳川家慶に謁見する段取りをつけてもらった。

 徳川慶恕が膝詰めで談判をしていた相手は、結城秀康を祖とする越前松平家の分家、美作国津山藩七代藩主・松平斉孝だった。
 先年徳川慶恕の次弟・松平義比改め松平慶比が跡を継いだ越前松平家、出雲国松江藩十八万六千石の分家だ。

 だが美作国津山藩は不遇の状態だった。
 一七二六年に二代藩主浅五郎が嗣子無いまま十一歳で夭折してしまい、十万石の領地を半分の五万石に減らされた状態のままだった。
 五万石を十万石に復帰させる事は、五代百十八年に渡る悲願だったのだ。

 徳川慶恕はその気持ちにつけ込んだとも言える。
 松平斉孝は、十万石に復帰させる代償として、実子ではなく十二代将軍・徳川家慶の弟、十三代徳川家斉の十五男・銀之助を養嗣子に迎えようとしていた。
 だがそれを、徳川慶恕は三弟・整三郎に継がそうとした。
 それが可能になる理由は、一八四二年の貿易利益が二百万両を超える純利益があり、その半分百万両を徳川家祥を通じて幕府に献金していたからだ。

 そして徳川慶恕は美作国津山藩を十万石ではなく十五万石とした。
 その為には多くの天領を津山藩の飛び地にしなければいけなかったが、海岸線にある天領を飛び地としてもらうことで、貿易利益がまた増加し、献金を増やすことができると十二代将軍・徳川家慶と幕閣に説明し、事を成し遂げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

幕府海軍戦艦大和

みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。 ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。 「大和に迎撃させよ!」と命令した。 戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

田楽屋のぶの店先日記〜殿ちびちゃん参るの巻〜

皐月なおみ
歴史・時代
わけあり夫婦のところに、わけあり子どもがやってきた!? 冨岡八幡宮の門前町で田楽屋を営む「のぶ」と亭主「安居晃之進」は、奇妙な駆け落ちをして一緒になったわけあり夫婦である。 あれから三年、子ができないこと以外は順調だ。 でもある日、晃之進が見知らぬ幼子「朔太郎」を、連れて帰ってきたからさあ、大変! 『これおかみ、わしに気安くさわるでない』 なんだか殿っぽい喋り方のこの子は何者? もしかして、晃之進の…? 心穏やかではいられないながらも、一生懸命面倒をみるのぶに朔太郎も心を開くようになる。 『うふふ。わし、かかさまの抱っこだいすきじゃ』 そのうちにのぶは彼の尋常じゃない能力に気がついて…? 近所から『殿ちびちゃん』と呼ばれるようになった朔太郎とともに、田楽屋の店先で次々に起こる事件を解決する。 亭主との関係 子どもたちを振り回す理不尽な出来事に対する怒り 友人への複雑な思い たくさんの出来事を乗り越えた先に、のぶが辿り着いた答えは…? ※田楽屋を営む主人公が、わけありで預かることになった朔太郎と、次々と起こる事件を解決する物語です! ※歴史・時代小説コンテストエントリー作品です。もしよろしければ応援よろしくお願いします。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

厄介叔父、山岡銀次郎捕物帳

克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

シンセン

春羅
歴史・時代
 新選組随一の剣の遣い手・沖田総司は、池田屋事変で命を落とす。    戦力と士気の低下を畏れた新選組副長・土方歳三は、沖田に生き写しの討幕派志士・葦原柳を身代わりに仕立て上げ、ニセモノの人生を歩ませる。    しかし周囲に溶け込み、ほぼ完璧に沖田を演じる葦原の言動に違和感がある。    まるで、沖田総司が憑いているかのように振る舞うときがあるのだ。次第にその頻度は増し、時間も長くなっていく。 「このカラダ……もらってもいいですか……?」    葦原として生きるか、沖田に飲み込まれるか。    いつだって、命の保証などない時代と場所で、大小二本携えて生きてきたのだ。    武士とはなにか。    生きる道と死に方を、自らの意志で決める者である。 「……約束が、違うじゃないですか」     新選組史を基にしたオリジナル小説です。 諸説ある幕末史の中の、定番過ぎて最近の小説ではあまり書かれていない説や、信憑性がない説や、あまり知られていない説を盛り込むことをモットーに書いております。

処理中です...