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6章 反社会政府編 〜それぞれの戦い〜

52話 悪役の生徒 【シンリンとミロクニ班】

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こんなに深い地下にカゲル達は閉じ込められていたのか。そう思えるほどに深い。

俺は途中で鉄の棒に手を付けてぶら下がり、速度を落とすとそのまま地面に着地する。


「っ!先生!」

「ん!?」


上から俺を呼ぶ声がしたと思い見上げるとミロクニが横になって落下していた。慌てた俺は落ちる前にミロクニの下に行き、間一髪で受け止める。


「何故ここに!?まさか追いかけてきたのか!?」

「………うん」

「気にするなと言っただろ」

「……ごめんなさい。でも、1人には出来なかった」

「まぁいい。とりあえず降ろすぞ」


俺はミロクニの足を地面に着けて手を離す。俺も彼女も怪我は無かった。

随分と深いこの場所からは地上の光が微かに差し込むだけで薄暗い。しかし奥に進むに連れて明るい光が見えた。

俺がミロクニを見れば意見は一致したようで頷いてくれる。2人で特刀を片手に持ちながら光がある場所へと歩いて行った。


「静かだな」

「……カゲルは全部行った?」

「わからん。でも相当な量が出てきたのが落ちる寸前に見えた」

「………みんなは大丈夫」

「ああ。信じよう」


衝撃音が地上では鳴り響いている。地下では小さな音しか届かないが、アカデミーと反社会政府の戦いは激しいことがわかった。

鳴る音は俺とミロクニの足音だけで地下はあまり良い空気とは言えない。徐々に光が強くなっていき、俺達は闇と光の境目を跨いだ。


「……カゲルの育成場?」

「流石に地下の地図は無かった。ということはここが反社会政府の心臓というわけか」


俺とミロクニの視界に映るのは奥まで広がる透明な筒達。その筒は悲惨に割れていて、ガラスの破片が散らばっていた。

きっとここからカゲルが飛び出して地上へと向かったのだろう。何という脚力なのか。やはりあいつらは人間の形をしているが人間ではない。気持ち悪い生物だ。


「足元に気をつけろ。奥まで確認する」

「……うん」


散らばる破片を避けつつ俺はカゲルの残りが居ないかを確認し始める。ミロクニも首を回しながら俺の後ろを着いてきた。


「……先生」

「何だ?」

「本、読んだ?」


いつも通りの声で聞かれた俺は思わず転びそうになる。


「今関係あるか…?それ」

「……私には重要」

「感想会する場ではないのだぞ。緊張感を持て」

「……私には重要」

「いつ襲いかかってくるかわからない。警戒心を」

「……先生。本、読んだ?」


まさか俺が答えない限り繰り返すつもりか?ミロクニの頑固という一面が見れたのは指導者として嬉しい気持ちもあるけど、本当にそれどころではない。

それでも背中に突き刺さる視線は痛いほど鋭くて俺は首をガクッと下げた。


「とても強い英雄譚だった。王道の展開が多かったが、それでも胸が熱くなるのは人間心理だろうかと疑問になるほどに素晴らしい物語だ。ただ…」

「ただ?」

「あの悪役は悪役で可哀想に思えてしまった。確かに英雄が活躍するのに悪役は必要だ。それでも何故か納得できない。だからあの悪役が幸せになった本が見てみたいと思ってしまった」


戦場と言える場所で俺は何を喋っているのだろう。いくら生徒にせがまれたからとは言え、流石に油断しすぎではないか。

でも言ってしまったのならしょうがない。前を見ているせいでミロクニの表情は見えなかったが満足した答えを言えたと思う。


「………私は、あのヒーローみたいになれる?」

「カゲルと戦っている時点で英雄だろう」

「……でも小さい頃から私は悪者って言われていた」

「えっ」


思わず足を止めてしまう俺は顔だけ振り返ってミロクニを見る。ミロクニは悲しそうな顔をしていた。


「私、こんな感じだから。根暗で関わりにくいのは小さい時からだった。…だから周りのみんなには悪魔とか悪いキャラクターに例えた」


ミロクニにも辛い過去があったのだな。アカデミーの人間は誰しもがそういう過去があるとはわかってはいたけど、ちゃんと詳しく聞くと俺まで胸が痛くなる。

もしかしたらカムイ王都でも悩んでいる人間はいたのかも知れない。でも気付いたのは死んでしまった今だから、後の祭りになってしまった。

カムイ王都に居た時に俺が気づいて手を差し伸べられていたら結末は変わっていたのかだろうか。


「……Aクラスの子達は私にはそんなこと言わない。でも他のクラスの人は私とAクラスのみんなを悪くいう。不幸クラスだって」

「不幸クラス…」


何回も聞いた『不幸クラス』。その意味がずっとわからなかったけど、薄々とAクラスを指しているのではないかと感じるようになっていた。

そしてミロクニの今の言葉で納得する。やはり不幸クラスというのはAクラスのことなのだ。どういう所が不幸なのか。俺にはさっぱりだ。

単なる子供が言う言葉だけど、指導者として生徒達がそんなことを言われるのは悔しい。自然と特刀を持つ手に力が入っていた。


「だから、私は自分もヒーローとは思えない。…悪役じゃないのかって」

「そんなこと……っ!ミロクニ伏せろ!」


俺はミロクニの頭を掴んで強引に屈める。次の瞬間、黒いものが俺達の頭上を横切って筒のガラスに突っ込んだ。


「大物登場か…!」
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