52 / 77
6章 反社会政府編 〜それぞれの戦い〜
52話 悪役の生徒 【シンリンとミロクニ班】
しおりを挟む
こんなに深い地下にカゲル達は閉じ込められていたのか。そう思えるほどに深い。
俺は途中で鉄の棒に手を付けてぶら下がり、速度を落とすとそのまま地面に着地する。
「っ!先生!」
「ん!?」
上から俺を呼ぶ声がしたと思い見上げるとミロクニが横になって落下していた。慌てた俺は落ちる前にミロクニの下に行き、間一髪で受け止める。
「何故ここに!?まさか追いかけてきたのか!?」
「………うん」
「気にするなと言っただろ」
「……ごめんなさい。でも、1人には出来なかった」
「まぁいい。とりあえず降ろすぞ」
俺はミロクニの足を地面に着けて手を離す。俺も彼女も怪我は無かった。
随分と深いこの場所からは地上の光が微かに差し込むだけで薄暗い。しかし奥に進むに連れて明るい光が見えた。
俺がミロクニを見れば意見は一致したようで頷いてくれる。2人で特刀を片手に持ちながら光がある場所へと歩いて行った。
「静かだな」
「……カゲルは全部行った?」
「わからん。でも相当な量が出てきたのが落ちる寸前に見えた」
「………みんなは大丈夫」
「ああ。信じよう」
衝撃音が地上では鳴り響いている。地下では小さな音しか届かないが、アカデミーと反社会政府の戦いは激しいことがわかった。
鳴る音は俺とミロクニの足音だけで地下はあまり良い空気とは言えない。徐々に光が強くなっていき、俺達は闇と光の境目を跨いだ。
「……カゲルの育成場?」
「流石に地下の地図は無かった。ということはここが反社会政府の心臓というわけか」
俺とミロクニの視界に映るのは奥まで広がる透明な筒達。その筒は悲惨に割れていて、ガラスの破片が散らばっていた。
きっとここからカゲルが飛び出して地上へと向かったのだろう。何という脚力なのか。やはりあいつらは人間の形をしているが人間ではない。気持ち悪い生物だ。
「足元に気をつけろ。奥まで確認する」
「……うん」
散らばる破片を避けつつ俺はカゲルの残りが居ないかを確認し始める。ミロクニも首を回しながら俺の後ろを着いてきた。
「……先生」
「何だ?」
「本、読んだ?」
いつも通りの声で聞かれた俺は思わず転びそうになる。
「今関係あるか…?それ」
「……私には重要」
「感想会する場ではないのだぞ。緊張感を持て」
「……私には重要」
「いつ襲いかかってくるかわからない。警戒心を」
「……先生。本、読んだ?」
まさか俺が答えない限り繰り返すつもりか?ミロクニの頑固という一面が見れたのは指導者として嬉しい気持ちもあるけど、本当にそれどころではない。
それでも背中に突き刺さる視線は痛いほど鋭くて俺は首をガクッと下げた。
「とても強い英雄譚だった。王道の展開が多かったが、それでも胸が熱くなるのは人間心理だろうかと疑問になるほどに素晴らしい物語だ。ただ…」
「ただ?」
「あの悪役は悪役で可哀想に思えてしまった。確かに英雄が活躍するのに悪役は必要だ。それでも何故か納得できない。だからあの悪役が幸せになった本が見てみたいと思ってしまった」
戦場と言える場所で俺は何を喋っているのだろう。いくら生徒にせがまれたからとは言え、流石に油断しすぎではないか。
でも言ってしまったのならしょうがない。前を見ているせいでミロクニの表情は見えなかったが満足した答えを言えたと思う。
「………私は、あのヒーローみたいになれる?」
「カゲルと戦っている時点で英雄だろう」
「……でも小さい頃から私は悪者って言われていた」
「えっ」
思わず足を止めてしまう俺は顔だけ振り返ってミロクニを見る。ミロクニは悲しそうな顔をしていた。
「私、こんな感じだから。根暗で関わりにくいのは小さい時からだった。…だから周りのみんなには悪魔とか悪いキャラクターに例えた」
ミロクニにも辛い過去があったのだな。アカデミーの人間は誰しもがそういう過去があるとはわかってはいたけど、ちゃんと詳しく聞くと俺まで胸が痛くなる。
もしかしたらカムイ王都でも悩んでいる人間はいたのかも知れない。でも気付いたのは死んでしまった今だから、後の祭りになってしまった。
カムイ王都に居た時に俺が気づいて手を差し伸べられていたら結末は変わっていたのかだろうか。
「……Aクラスの子達は私にはそんなこと言わない。でも他のクラスの人は私とAクラスのみんなを悪くいう。不幸クラスだって」
「不幸クラス…」
何回も聞いた『不幸クラス』。その意味がずっとわからなかったけど、薄々とAクラスを指しているのではないかと感じるようになっていた。
そしてミロクニの今の言葉で納得する。やはり不幸クラスというのはAクラスのことなのだ。どういう所が不幸なのか。俺にはさっぱりだ。
単なる子供が言う言葉だけど、指導者として生徒達がそんなことを言われるのは悔しい。自然と特刀を持つ手に力が入っていた。
「だから、私は自分もヒーローとは思えない。…悪役じゃないのかって」
「そんなこと……っ!ミロクニ伏せろ!」
俺はミロクニの頭を掴んで強引に屈める。次の瞬間、黒いものが俺達の頭上を横切って筒のガラスに突っ込んだ。
「大物登場か…!」
俺は途中で鉄の棒に手を付けてぶら下がり、速度を落とすとそのまま地面に着地する。
「っ!先生!」
「ん!?」
上から俺を呼ぶ声がしたと思い見上げるとミロクニが横になって落下していた。慌てた俺は落ちる前にミロクニの下に行き、間一髪で受け止める。
「何故ここに!?まさか追いかけてきたのか!?」
「………うん」
「気にするなと言っただろ」
「……ごめんなさい。でも、1人には出来なかった」
「まぁいい。とりあえず降ろすぞ」
俺はミロクニの足を地面に着けて手を離す。俺も彼女も怪我は無かった。
随分と深いこの場所からは地上の光が微かに差し込むだけで薄暗い。しかし奥に進むに連れて明るい光が見えた。
俺がミロクニを見れば意見は一致したようで頷いてくれる。2人で特刀を片手に持ちながら光がある場所へと歩いて行った。
「静かだな」
「……カゲルは全部行った?」
「わからん。でも相当な量が出てきたのが落ちる寸前に見えた」
「………みんなは大丈夫」
「ああ。信じよう」
衝撃音が地上では鳴り響いている。地下では小さな音しか届かないが、アカデミーと反社会政府の戦いは激しいことがわかった。
鳴る音は俺とミロクニの足音だけで地下はあまり良い空気とは言えない。徐々に光が強くなっていき、俺達は闇と光の境目を跨いだ。
「……カゲルの育成場?」
「流石に地下の地図は無かった。ということはここが反社会政府の心臓というわけか」
俺とミロクニの視界に映るのは奥まで広がる透明な筒達。その筒は悲惨に割れていて、ガラスの破片が散らばっていた。
きっとここからカゲルが飛び出して地上へと向かったのだろう。何という脚力なのか。やはりあいつらは人間の形をしているが人間ではない。気持ち悪い生物だ。
「足元に気をつけろ。奥まで確認する」
「……うん」
散らばる破片を避けつつ俺はカゲルの残りが居ないかを確認し始める。ミロクニも首を回しながら俺の後ろを着いてきた。
「……先生」
「何だ?」
「本、読んだ?」
いつも通りの声で聞かれた俺は思わず転びそうになる。
「今関係あるか…?それ」
「……私には重要」
「感想会する場ではないのだぞ。緊張感を持て」
「……私には重要」
「いつ襲いかかってくるかわからない。警戒心を」
「……先生。本、読んだ?」
まさか俺が答えない限り繰り返すつもりか?ミロクニの頑固という一面が見れたのは指導者として嬉しい気持ちもあるけど、本当にそれどころではない。
それでも背中に突き刺さる視線は痛いほど鋭くて俺は首をガクッと下げた。
「とても強い英雄譚だった。王道の展開が多かったが、それでも胸が熱くなるのは人間心理だろうかと疑問になるほどに素晴らしい物語だ。ただ…」
「ただ?」
「あの悪役は悪役で可哀想に思えてしまった。確かに英雄が活躍するのに悪役は必要だ。それでも何故か納得できない。だからあの悪役が幸せになった本が見てみたいと思ってしまった」
戦場と言える場所で俺は何を喋っているのだろう。いくら生徒にせがまれたからとは言え、流石に油断しすぎではないか。
でも言ってしまったのならしょうがない。前を見ているせいでミロクニの表情は見えなかったが満足した答えを言えたと思う。
「………私は、あのヒーローみたいになれる?」
「カゲルと戦っている時点で英雄だろう」
「……でも小さい頃から私は悪者って言われていた」
「えっ」
思わず足を止めてしまう俺は顔だけ振り返ってミロクニを見る。ミロクニは悲しそうな顔をしていた。
「私、こんな感じだから。根暗で関わりにくいのは小さい時からだった。…だから周りのみんなには悪魔とか悪いキャラクターに例えた」
ミロクニにも辛い過去があったのだな。アカデミーの人間は誰しもがそういう過去があるとはわかってはいたけど、ちゃんと詳しく聞くと俺まで胸が痛くなる。
もしかしたらカムイ王都でも悩んでいる人間はいたのかも知れない。でも気付いたのは死んでしまった今だから、後の祭りになってしまった。
カムイ王都に居た時に俺が気づいて手を差し伸べられていたら結末は変わっていたのかだろうか。
「……Aクラスの子達は私にはそんなこと言わない。でも他のクラスの人は私とAクラスのみんなを悪くいう。不幸クラスだって」
「不幸クラス…」
何回も聞いた『不幸クラス』。その意味がずっとわからなかったけど、薄々とAクラスを指しているのではないかと感じるようになっていた。
そしてミロクニの今の言葉で納得する。やはり不幸クラスというのはAクラスのことなのだ。どういう所が不幸なのか。俺にはさっぱりだ。
単なる子供が言う言葉だけど、指導者として生徒達がそんなことを言われるのは悔しい。自然と特刀を持つ手に力が入っていた。
「だから、私は自分もヒーローとは思えない。…悪役じゃないのかって」
「そんなこと……っ!ミロクニ伏せろ!」
俺はミロクニの頭を掴んで強引に屈める。次の瞬間、黒いものが俺達の頭上を横切って筒のガラスに突っ込んだ。
「大物登場か…!」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
溺れる金魚は空を見る
ちな
恋愛
「ちゃーんと綺麗にしてあげるね」
彼氏にあらぬ疑いを掛けられて、ローションと綿棒でイッてもイッても終わらないクリ掃除拷問♡ビクビク痙攣しながら泣き叫んでるカワイイ彼女ちゃんをご堪能ください♡
短いお話なので、サクッと濡れたい時にどうぞ。
先生×生徒/クリ責め/お仕置き/快楽拷問/ドS/連続絶頂/強制絶頂/拘束/言葉責め
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
じい様が行く 「いのちだいじに」異世界ゆるり旅
蛍石(ふろ~らいと)
ファンタジー
のんびり茶畑の世話をしながら、茶園を営む晴太郎73歳。
夜は孫と一緒にオンラインゲームをこなす若々しいじい様。
そんなじい様が間違いで異世界転生?
いえ孫の身代わりで異世界行くんです。
じい様は今日も元気に異世界ライフを満喫します。
2日に1本を目安に更新したいところです。
1話2,000文字程度と短めですが。
頑張らない程度に頑張ります。
ほぼほぼシリアスはありません。
描けませんので。
感想もたくさんありがとうです。
ネタバレ設定してません。
なるべく返事を書きたいところです。
ふわっとした知識で書いてるのでツッコミ処が多いかもしれません。
申し訳ないです。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる