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4章 反社会政府編 〜生徒との関係〜

40話 生徒のお陰で気付く

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「これからのことは後に考えれば良い。とりあえずここを出ることを1番に考えろ」

「はーい!」

「それと、この大量の菓子を食べ過ぎるなよ」

「これはレオンちゃんが持って来たんだ!ヒマワリの好きなお菓子ばっかり!」

「レオンちゃん…?くんではなくて?」

「だってレオンちゃんは女の子だもん!」

「あいつは男だぞ」

「体は男の子でもレオンちゃんは女の子!ヒマワリよりも女子力高くて憧れるなぁ…!」


俺から離れたヒマワリは小さなテーブルに置かれた菓子の袋を1つ取って俺に渡してくれる。有り難くそれを貰い、小さな茶色い菓子を口に放り投げた。甘さが広がる菓子に頬が緩みそうになる。袋にはチョコレートという文字が書かれていた。


「みーんなレオンちゃんの事を変わっているとか言うけどさ。全然おかしくないよ。男だからこうだとか、女だからこうだとかそんなの要らない!だって好きなことしている時って1番楽しいじゃん!」

「………」

「先生?」

「いや、そういう考えは無かったなと思った。好きなことをな…」

「先生の好きなことって何?」

「俺の好きなこと?好きなことか」

「ヒマワリはAクラスのみんなとお喋りしている時が楽しい!前居た学校ではみんなヒマワリの事を無視してたの。でもAクラスのみんなは何でも聞いてくれるんだよ!楽しいことも悲しいことも全部!」

「前の学校?」


口の中のチョコレートが溶けた時、俺はヒマワリの言葉に疑問を持つ。前居た学校の意味がわからなくて聞き返せばヒマワリは怪しがることなく素直に答えてくれた。


「ヒマワリはアカデミー来る前に普通の学校に行っていたんだ!でも虐められちゃって、アカデミーに編入したの。他のみんなも話さないし聞かないけど同じような理由でアカデミーに来たと思うよ!」


俺の真似をしてヒマワリもチョコレートの小袋を口と片手で破り、食べながら喋る。カムイ王都にも学校は存在したから言っている意味はわかった。しかしアカデミーは討伐部隊としての組織だ。学校ではない気がする…。


「そのための座学…?なぁヒマワリ、座学って具体的に何をするんだ?」

「うーんとね、その子の学力に合わせた問題を解くんだよ。やる科目は一緒だけど、みんなバラバラの問題を解くの!だからヒマワリはアサガイちゃんの問題は難しくて解けないし、アサガイちゃんはヒマワリの問題は簡単すぎる!」


なるほど。アカデミーは学校としても成り立つように座学を取り入れている。だからヒマワリのように若い奴が入っても勉学には困ることはない。そういう仕組みで出来ているらしい。

でもそうなるとリンガネのような成人した奴らは何をする?カムイ王都の学校に通っている生徒は普通18の歳で卒業だ。俺は専属の指導者がいたから学校には通ってないが、それくらいは常識として知っている。1ヶ月が経とうとしているアカデミーの指導者生活での俺の知識はまだまだと言うわけか。


「先生?」

「どうした?」

「難しい顔してる。ヒマワリ相談に乗るよ?」

「いや、大丈夫だ。まだ生徒に相談に乗ってもらうほど弱くはなってない」

「そっか!でも先生も人間だから弱くなっても良いんだよ!」

「ああ、ありがとう」

「へへっ」


無邪気に笑うヒマワリに俺も顔を綻ばせる。ふと、視線をヒマワリの上にずらすと小さな看板に名前が書いてあった。姓と名。これはもしかして、


「風神向日葵(かざかみ ひまわり)。お前の名前か?」

「うん!そういえば先生はずっとヒマワリって呼んでいるから苗字教えてなかったよね!かっこいい苗字でしょ~」

「珍しいな。風神か」

「でもね、この苗字のせいで厨二病とかカッコつけてるとか意味わからないこといっぱい言われたの。かっこいいんだけどあまり好きではないんだよね」

「ふざけた奴らだな」

「本当だよ!」


風神向日葵か…。カナト以外に初めてAクラスの生徒の名前を知れた。やはりそうなると他の生徒達もちゃんと姓名があるのだろう。アサガイ委員長やハルサキ、リンガネにも。

俺は何だか生徒達の名前に興味を持ち始める。俺にはシンリンという名しかないから新鮮な気持ちだ。もし自分に姓があったら何になっていたのか。そう考えるのも少し楽しい気がする。


「そろそろ俺は行く。ミロクニが待っているはずだ」

「えーもう行っちゃうの?」

「明日また来る。お前の顔を見てあの時の恐怖が無くなった今、何も怖くない」

「へへっ、なら楽しみにしてるね!」

「手土産は何が良い?」

「要らない!先生が来てくれればそれで良い!」

「そうか。なら明日はAクラスの生徒の話を聞かせよう」

「やった!!」

「それじゃあまた明日」

「はーい!また明日!」


俺はヒマワリが座るベッドから離れて病室を出る。扉を閉めるまでヒマワリは右手を振っていた。出てきた俺は斜め前からくる視線に目を向ける。案の定ミロクニは先程座っていた椅子で待っていてくれたみたいだ。


「ありがとう、ミロクニ」

「……ううん。話せて良かった」

「そうだな。明日も来る予定だ」

「……うん」

「お前は任務帰りなのだろう?一緒にアカデミーに戻るか?」

「…戻る」


ミロクニは俺の提案に頷くとゆっくり立ち上がって特刀を腰に下げる。2人並んで廊下を歩けばすれ違う医療従事者が頭を下げてきた。それに対応しながら俺はヒマワリの顔を思い浮かべれば安心感が広がる。

生徒を失う怖さの感情を知れた俺は自分の拳をギュッと握りしめた。もう何も失いたくない。そう思えたのはあいつらに出会ったからだと思う。カムイ王都では湧き出なかった感情が、今俺の中で光を宿していた。
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