上 下
21 / 77
2章 ここから始まる教師生活

21話 この世界の苦しみ

しおりを挟む
「基本はわかってる。まずはカゲルについて教えてもらおう。あれは人では無いのだろう?」

「ええ、その通り。85年前に突如現れた未確認生物。カゲルというのはとある学者が言った名前を使っていて正式な名前は存在しないわ」

「何がどうなって現れた?」

「詳しいことはまだ解明されていない。でも地震や津波、台風なんかと同じ天災よ。あいつらが生まれることは必然だった」


真剣な顔で説明するリコン学長は大量の肉を一口で食べる。行動と言葉が合ってない。そんなリコン学長に釣られて俺も肉と米を大きく掬って食べた。


「カゲルは現れた当初から無作為に人を喰らった。最初は警察官や自衛隊が対応していたけど、時が進むにつれてカゲルが増えていったせいでカゲル専門の討伐隊が作られたの」

「それがここか」

「正解。ご褒美にフライドガーリックをあげましょう」

「いらん」

「そんなこと言わないで」


半分くらい食べた牛丼にゴロっと茶色い食べ物が置かれた。とてつもなく強い香りを放っている。貰ってしまったなら食べるしかない俺は乗せられたふらいどがーりっくを口に放り込んだ。


「……凄い強烈だな」

「それが良いのよ。これでニンニク仲間ね」

「これを食べたら歯磨き必須だぞ」

「ミロクニに教えてもらったのかしら?」

「そうだ。人と喋れなくなるらしい」

「でも今は食べている私達しかいないから遠慮なく話せるわね」

「必要事項だけ話してくれ」

「はいはい」


話が進んだと思ったら止まってしまい俺は毎度の如くため息をつきそうになる。でもこのリコン学長の料理の一部を食べてしまった今、俺の口臭は強烈だろう。なるべくため息はつかない方が良さそうだ。


「討伐アカデミーが創立された時はこんなに年齢層が低いわけじゃなかったの。それに授業なんてやってなかった。だってみんな学校を卒業した20代や30代の人達だったから」

「年齢層を低くした理由は?」

「体力や武術に伸びしろがあるからよ。それにあまり大きな声では言えないけど、若ければ考えが固くないの。自分勝手な行動はしないと同時に娯楽や快楽を求めることなく討伐に専念してくれる」

「どういうことだ」

「さぁ、どういうことでしょうか」

「教えてくれるのではなかったのか?」

「ここは自分で考えてちょうだい」


自分で考えてと言われても、俺の中で理解した答えはただの洗脳では?というものだった。

若い頭脳を利用して討伐させる。確かに大人になれば色々な事を覚えてしまうだろう。それこそ娯楽や快楽をだ。

そうなってしまえば任務に全ての力を注ぐことは出来ない。だから何も知らない若いうちに討伐に協力してもらうという作戦だろうか。

俺の嫌われ作戦よりもタチが悪い。無意識に俺の箸は止まっていたようで、リコン学長が首を傾げた。


「答えは出た?」

「正解かはわからない。けれども一応自分の中では解答が出た」

「そう。あえて聞かないことにするわ」

「そうしてくれると助かる」


箸の動きを再開した俺の牛丼は4分の1まで減っていた。何でこんなにも苛立っているのだろう。若干肉と米を噛み締める力が強くなっている気がする。


「他に聞きたいことは?」

「……最後の質問だ。鍛錬以外の授業というのは何をやっている?」

「思ったよりも軽い質問ね」

「質問に重いも軽いもないだろ」

「ふふっ。やっぱりシンリンは面白い。あの子達がやっている授業っていうのは中学や高校のものと一緒よ。復習といっても良いかしら。ちゃんとそれぞれの教師がいるから義務教育が必要な年齢でもちゃんと勉強を受けられる」

「リンガネのように成人している奴には必要ない気がするが?」

「必要なの。ここの子供達は」


この人が話してくれることの大半が理解出来ずに最後の質問が終わる。肝心な部分は教えてくれないようだった。


「まぁ、わからないことがあったら生徒達に聞こう」

「シンリン」 

「何だ」

「アカデミーの生徒達は普通じゃない。簡単に壊れてしまうの。何気ない言葉であの子達を傷つけないようにね」

「……俺はあいつらに早く嫌われたいんでね。その忠告は聞き流しておこう」

「頭の片隅に今の言葉が存在してくれればいいのよ」


最後に残った一口分の牛丼をかきこんだ俺は手を合わせた後、すぐに立ち上がる。おぼんごと持ち上げてリコン学長を見下すような形になる。


「壊れることは復元できると同じだ。あいつらは勝手に壊れて勝手に復元すれば良い」

「嫌われたいのか嫌われたくないのか…。貴方の答えには色々と深い意味があるように聞こえるわ」

「俺は思ったことを言ってるだけだ。もうここはカムイ王都ではない。民を気遣う皇子としての俺は死んだ。俺のことを知らない奴らが沢山いるんだ。自分に素直になっても良いだろう?」

「ふふっ、まぁね」

「それと俺からも教えてやろう」

「ん?」

「ずっと腰辺りから紐が垂れてるぞ。もしかして昨日見た鞭か?」

「え!?どこ!?」


リコン学長は思いっきり椅子を倒して立つと腰に手を当てながら確認する。やがて出ている紐部分を見つけたようで顔を真っ赤にして照れ始めた。

一体ここに持ち運んで何をするつもりだった…?考えたくもないことなので俺は頭から追い出すと、そのままおぼんを持ってリコン学長から離れる。生徒達に出くわす前に歯磨きをしておかないとな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートなタブレットを持って快適異世界生活

ちびすけ
ファンタジー
 勇者として召喚されたわけでもなく、神様のお告げがあったわけでもなく、トラックに轢かれたわけでもないのに、山崎健斗は突然十代半ばの少し幼い見た目の少年に転生していた。  この世界は魔法があるみたいだが、魔法を使うことが出来ないみたいだった。  しかし、手に持っていたタブレットの中に入っている『アプリ』のレベルを上げることによって、魔法を使う以上のことが出来るのに気付く。  ポイントを使ってアプリのレベルを上げ続ければ――ある意味チート。  しかし、そんなに簡単にレベルは上げられるはずもなく。  レベルを上げる毎に高くなるポイント(金額)にガクブルしつつ、地道に力を付けてお金を溜める努力をする。  そして――  掃除洗濯家事自炊が壊滅的な『暁』と言うパーティへ入り、美人エルフや綺麗なお姉さんの行動にドキドキしつつ、冒険者としてランクを上げたり魔法薬師と言う資格を取ったり、ハーネと言う可愛らしい魔獣を使役しながら、山崎健斗は快適生活を目指していく。 2024年1月4日まで毎日投稿。 (12月14日~31日まで深夜0時10分と朝8時10分、1日2回投稿となります。1月は1回投稿) 2019年第12回ファンタジー小説大賞「特別賞」受賞しました。 2020年1月に書籍化! 12月3巻発売 2021年6月4巻発売 7月コミカライズ1巻発売

異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉
ファンタジー
その乙女の名はアルタシャ。 『癒し女神の化身』と称えられる彼女は絶世の美貌の持ち主であると共に、その称号にふさわしい人間を超越した絶大な癒しの力と、大いなる慈愛の心を有していた。 いかなる時も彼女は困っている者を見逃すことはなく、自らの危険も顧みずその偉大な力を振るって躊躇なく人助けを行い、訪れた地に伝説を残していく。 彼女はある時は強大なアンデッドを退けて王国の危機を救い ある国では反逆者から皇帝を助け 他のところでは人々から追われる罪なき者を守り 別の土地では滅亡に瀕する少数民族に安住の地を与えた 相手の出自や地位には一切こだわらず、報酬も望まず、ただひたすら困っている人々を助けて回る彼女は、大陸中にその名を轟かせ、上は王や皇帝どころか神々までが敬意を払い、下は貧しき庶民の崇敬の的となる偉大な女英雄となっていく。 だが人々は知らなかった。 その偉大な女英雄は元はと言えば、別の世界からやってきた男子高校生だったのだ。 そして元の世界のゲームで回復・支援魔法使いばかりをやってきた事から、なぜか魔法が使えた少年は、その身を女に変えられてしまい、その結果として世界を逃亡して回っているお人好しに過ぎないのだった。 これは魔法や神々の満ち溢れた世界の中で、超絶魔力を有する美少女となって駆け巡り、ある時には命がけで人々を助け、またある時は神や皇帝からプロポーズされて逃げ回る元少年の物語である。 なお主人公は男にモテモテですが応じる気は全くありません。

転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫
ファンタジー
2024.7月下旬5巻刊行予定 2024.6月下旬コミックス1巻刊行 2024.1月下旬4巻刊行 2023.12.19 コミカライズ連載スタート 2023.9月下旬三巻刊行 2023.3月30日二巻刊行 2022.11月30日一巻刊行 寺崎美里亜は転生するが、5ヶ月で教会の前に捨てられる。 しかも誰も通らないところに。 あー詰んだ と思っていたら後に宿屋を営む夫婦に拾われ大好きなお菓子や食べ物のために奮闘する話。 コメント欄を解放しました。 誤字脱字のコメントも受け付けておりますが、必要箇所の修正後コメントは非表示とさせていただきます。また、ストーリーや今後の展開に迫る質問等は返信を控えさせていただきます。 書籍の誤字脱字につきましては近況ボードの『書籍の誤字脱字はここに』にてお願いいたします。 出版社との規約に触れる質問等も基本お答えできない内容が多いですので、ノーコメントまたは非表示にさせていただきます。 よろしくお願いいたします。

自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名
ファンタジー
★2024年9月19日に2巻発売&コミカライズ化決定!(web版とは設定が異なる部分があります) 🔷第16回ファンタジー小説大賞。5/3207位で『特別賞』を受賞しました!!応援ありがとうございます(*^_^*) 💛小説家になろう累計PV1,830万以上達成!! ※感想欄を読まれる方は、申し訳ありませんがネタバレが多いのでご注意下さい<m(__)m>    スーパーの帰り道、突然異世界へ転移させられた、椎名 沙良(しいな さら)48歳。  残された封筒には【詫び状】と書かれており、自分がカルドサリ王国のハンフリー公爵家、リーシャ・ハンフリー、第一令嬢12歳となっているのを知る。  いきなり異世界で他人とし生きる事になったが、現状が非常によろしくない。  リーシャの母親は既に亡くなっており、後妻に虐待され納屋で監禁生活を送っていたからだ。  どうにか家庭環境を改善しようと、与えられた4つの能力(ホーム・アイテムBOX・マッピング・召喚)を使用し、早々に公爵家を出て冒険者となる。  虐待されていたため貧弱な体と体力しかないが、冒険者となり自由を手にし頑張っていく。  F級冒険者となった初日の稼ぎは、肉(角ウサギ)の配達料・鉄貨2枚(200円)。  それでもE級に上がるため200回頑張る。  同じ年頃の子供達に、からかわれたりしながらも着実に依頼をこなす日々。  チートな能力(ホームで自宅に帰れる)を隠しながら、町で路上生活をしている子供達を助けていく事に。  冒険者で稼いだお金で家を購入し、住む所を与え子供達を笑顔にする。  そんな彼女の行いを見守っていた冒険者や町人達は……。  やがて支援は町中から届くようになった。  F級冒険者からC級冒険者へと、地球から勝手に召喚した兄の椎名 賢也(しいな けんや)50歳と共に頑張り続け、4年半後ダンジョンへと進む。  ダンジョンの最終深部。  ダンジョンマスターとして再会した兄の親友(享年45)旭 尚人(あさひ なおと)も加わり、ついに3人で迷宮都市へ。  テイムした仲間のシルバー(シルバーウルフ)・ハニー(ハニービー)・フォレスト(迷宮タイガー)と一緒に楽しくダンジョン攻略中。  どこか気が抜けて心温まる? そんな冒険です。  残念ながら恋愛要素は皆無です。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

水しか作れない無能と追放された少年は、砂漠の国で開拓はじめました

水空 葵
ファンタジー
水魔法使いの少年レインは、ある日唐突に冒険者パーティーから追放されてしまった。 沢山の水に恵まれている国ではただのお荷物だという理由で。 けれども、そんな時。見知らぬ少女に隣国へと誘われ、受け入れることに決めるレイン。 そこは水が貴重な砂漠の国で、水に敏感という才能を活かして農地開拓を始めることになった。 そうして新天地へと渡った少年が、頼れる味方を増やしながら国を豊かにしていき――。 ※他サイト様でも公開しています ◇2024/5/26 男性向けHOTランキングで3位をいただきました!  本当にありがとうございます!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

理想とは違うけど魔法の収納庫は稼げるから良しとします

水野忍舞
ファンタジー
英雄になるのを誓い合った幼馴染たちがそれぞれ戦闘向きのスキルを身に付けるなか、俺は魔法の収納庫を手に入れた。 わりと便利なスキルで喜んでいたのだが幼馴染たちは不満だったらしく色々言ってきたのでその場から立ち去った。 お金を稼ぐならとても便利なスキルじゃないかと今は思っています。 ***** ざまぁ要素はないです

処理中です...