26 / 46
無月無日 僕の意味
最後のまたね
しおりを挟む
海辺さんが運転する車は大きくて白い建物の駐車場に止まった。
シートベルトを外して車を降りる海辺さん。
僕も同じように助手席から降りた。
「こっちだ」
「はい」
案内してくれる海辺さんに着いて行き、建物の中に入ると受付には2人のお姉さんがいる。
綺麗なお辞儀をして迎え入れてくれた。
海辺さんは軽く手を上げてお姉さん達の前を通ると、エレベーターに乗り込む。
僕も置いていかれないように慌てて後を追った。
「もうお母さんとお父さんは来てるんですか…?」
「ああ。既に着いていると連絡があった」
エレベーターの表示が5階になると同時に音が鳴って開く。
スタスタと海辺さんは歩き出す。
すると長い廊下の1部にある扉を開けて後ろを歩く僕に手招きをした。
僕は入り口から顔の覗かせる。
そこには長テーブルの椅子に座っているお母さんとお父さんがいた。
「お母さん!お父さん!」
「ーー…」
「さぁ君はこっちに座りなさい」
駆け寄ろうとしたけど、海辺さんに静止されて僕はお母さん達の向かい側に座る。
その隣には海辺さんが座った。
こんなに長いテーブルなのになぜこの位置なのだろうと疑問に思ったが、どうでもよくなる。
だって会えたのだから。
向かい合ったため、2人の顔がよく見えるが顔色は悪かった。
僕は急に心配になって眉を下げる。
「結論は出せたかい?」
「……ああ」
「勿論、条件は従うさ。一方的に借りるのは良くないことだからね」
「……」
お父さんと海辺さんが僕にはわからない話をし出す。
すると海辺さんがスーツの懐から1枚の紙と万年筆を取り出した。
それをお父さんとお母さんの手元へ差し出す。
「サインを」
なんのサインだろう。
僕は目を凝らして紙の内容を読み取ろうとしたがよく見えない。
お父さんは差し出された紙をジッと見ていた。
海辺さんにサインを書けと言われても手は一向に動かない。
「お父さん…?」
僕がそう声をかけると一瞬肩を震わせ、僕を見た。
釣られてお母さんも僕を見る。
なんでそんな悲しそうな顔をするのだろう。
何を考えているかわからずに首を傾げた。
するとお父さんは僕から目を離してようやく万年筆を待つ。
そんなお父さんを心配する目で見るお母さん。
隣いる海辺さんは最初から表情を変えずに一点だけを見つめていた。
「書いたぞ」
「……確かに受け取った。それじゃあ2人はここで待っていてくれ。少ししたら案内役がくるから、その人について行ってほしい」
「わかった」
「ーーくんは私と一緒に」
「えっ、でも…」
「とても大事な話があるんだ」
先程まで無表情に近い顔だった海辺さんが僕に話しかけた時は少し柔らかい表情になる。
でも言葉には僕の意見を言わせないくらいに力があった。
「ーーくんのお姉さんの話なんだ。お父さん達は今混乱しているから私が代わりに話そう」
お姉ちゃんの話。
僕はその単語が出てきた時点で頷かずにはいられなかった。
しかしそれならば何故車に乗った時点で教えてくれなかった?
もしかしてさっきの紙に関係するのだろうか。
難しい話はわからない。
とりあえず僕は席を立って海辺さんと部屋を出る。
扉を閉める時、お父さんとお母さんの目が僕の姿を捉える。
「またね」
「……ああ、また」
「待ってるね」
僕は軽く手を振ってお父さんとお母さんがいる部屋の扉を閉めた。
シートベルトを外して車を降りる海辺さん。
僕も同じように助手席から降りた。
「こっちだ」
「はい」
案内してくれる海辺さんに着いて行き、建物の中に入ると受付には2人のお姉さんがいる。
綺麗なお辞儀をして迎え入れてくれた。
海辺さんは軽く手を上げてお姉さん達の前を通ると、エレベーターに乗り込む。
僕も置いていかれないように慌てて後を追った。
「もうお母さんとお父さんは来てるんですか…?」
「ああ。既に着いていると連絡があった」
エレベーターの表示が5階になると同時に音が鳴って開く。
スタスタと海辺さんは歩き出す。
すると長い廊下の1部にある扉を開けて後ろを歩く僕に手招きをした。
僕は入り口から顔の覗かせる。
そこには長テーブルの椅子に座っているお母さんとお父さんがいた。
「お母さん!お父さん!」
「ーー…」
「さぁ君はこっちに座りなさい」
駆け寄ろうとしたけど、海辺さんに静止されて僕はお母さん達の向かい側に座る。
その隣には海辺さんが座った。
こんなに長いテーブルなのになぜこの位置なのだろうと疑問に思ったが、どうでもよくなる。
だって会えたのだから。
向かい合ったため、2人の顔がよく見えるが顔色は悪かった。
僕は急に心配になって眉を下げる。
「結論は出せたかい?」
「……ああ」
「勿論、条件は従うさ。一方的に借りるのは良くないことだからね」
「……」
お父さんと海辺さんが僕にはわからない話をし出す。
すると海辺さんがスーツの懐から1枚の紙と万年筆を取り出した。
それをお父さんとお母さんの手元へ差し出す。
「サインを」
なんのサインだろう。
僕は目を凝らして紙の内容を読み取ろうとしたがよく見えない。
お父さんは差し出された紙をジッと見ていた。
海辺さんにサインを書けと言われても手は一向に動かない。
「お父さん…?」
僕がそう声をかけると一瞬肩を震わせ、僕を見た。
釣られてお母さんも僕を見る。
なんでそんな悲しそうな顔をするのだろう。
何を考えているかわからずに首を傾げた。
するとお父さんは僕から目を離してようやく万年筆を待つ。
そんなお父さんを心配する目で見るお母さん。
隣いる海辺さんは最初から表情を変えずに一点だけを見つめていた。
「書いたぞ」
「……確かに受け取った。それじゃあ2人はここで待っていてくれ。少ししたら案内役がくるから、その人について行ってほしい」
「わかった」
「ーーくんは私と一緒に」
「えっ、でも…」
「とても大事な話があるんだ」
先程まで無表情に近い顔だった海辺さんが僕に話しかけた時は少し柔らかい表情になる。
でも言葉には僕の意見を言わせないくらいに力があった。
「ーーくんのお姉さんの話なんだ。お父さん達は今混乱しているから私が代わりに話そう」
お姉ちゃんの話。
僕はその単語が出てきた時点で頷かずにはいられなかった。
しかしそれならば何故車に乗った時点で教えてくれなかった?
もしかしてさっきの紙に関係するのだろうか。
難しい話はわからない。
とりあえず僕は席を立って海辺さんと部屋を出る。
扉を閉める時、お父さんとお母さんの目が僕の姿を捉える。
「またね」
「……ああ、また」
「待ってるね」
僕は軽く手を振ってお父さんとお母さんがいる部屋の扉を閉めた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
<完結>【R18】ズタズタに傷ついた私にたぎる溺愛をくれたのは、美しい裸身の死神でした
長門美侑
恋愛
涼風凛 29歳 鳳条建設総務課に勤めるOL
クリスマスイブに親友に恋人を略奪され、
彼のために借りた多額の借金だけが凛の手元に残った。
親友と恋人に手痛く裏切られ、
突然凛を襲った激しい孤独感。
そして、返す当てのない借金。
絶望のなか、
捨てばちになってベランダから飛び降りると、
突然、全裸の男が現れて・・・
2024.7.20
完結しました。
読んでくださった皆様!本当にありがとうございました。
いつかの空でまた会う君へ
恵喜 どうこ
恋愛
ある日突然、美緒の恋人・優介が失踪した。
両親の元へかかってきた謎の人物からの電話。
差出人不明の、美緒宛てのバラの花束。
そして、失踪直前の電話での優介の焦ったような声。
不審なことはたくさんあるのに、別れの手紙の筆跡は、彼のものだと断定された――。
失った最愛の恋人を探す純愛ストーリー。
過去も、今も、未来も、愛するあなただけのために命を懸ける!
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
マレカ・シアール〜王妃になるのはお断りです〜
橘川芙蓉
恋愛
☆完結しました☆遊牧民族の娘ファルリンは、「王の痣」という不思議な力を与えてくれる痣を生まれつき持っている。その力のせいでファルリンは、王宮で「お妃候補」の選抜会に参加することになる。貴族の娘マハスティに意地悪をされ、顔を隠した王様に品定めをされるファルリンの運命は……?☆遊牧民の主人公が女騎士になって宮廷で奮闘する話です。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
君の悲劇を終わらせる〜廻る世界で再び出会う〜
夜野ヒカリ
恋愛
「ごめんね………また、『前』のことを忘れてしまって……」
少年は目に涙を溜めて冷たくなっていく少女に囁く
「『次』の世界では君を守るから………!
僕がどうなろうと、君の笑顔を守るから………!!」
『世界』を廻り、巡る悲劇の少女を今度こそ守ろうとする少年の物語です。
初めての作品ですので話がブレブレで、気になる点も多いと思いますが、温かな目で見ていただければと思いますm(__)m
回想の話は、重いものが多いのでご注意下さい。
ネタバレになりますが、隠れタグとして『神』があります。
関係してくるのが最終章なのでタグ付けはしておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる