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6章 恋の行方と愛が辿り着く場所 (前編)
22話 雪女の答え
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最近、またイグニが姿を見せなくなった。とは言っても1週間だ。たったの7日会ってないだけ。
雪の女神としての寿命からしたら7日なんて1日と変わらない。でもあのうるさい声が外から聞こえないだけでここ一帯はとても寒かった。
「ん?」
すると突然、氷の塔周辺に気配を感じる。私は窓を溶かして外を見ると1人の人間が凍えながら塔にやってきた。
「ズビッ、ズビッ」
下品なくらいに鼻を啜る男。イグニの従者だ。しかし不思議なことに彼1人しか居ない。
いつものように体を震わせておぼつかない足取りで氷の塔の下までやってくると私に向かって声をかけた。
「イグ…ズビッ、イグニざまの従者でありまず!イグニざまのご命令で雪の女神フロズざまにお手紙を渡しに来まじだ!ズビッ」
歯をガクガクと震わせながら一生懸命に声を出す従者。彼はいつもこんな感じで凍えているのになぜイグニと来るのだろうと首を傾げていた。
それなら交代で来ている女の子に任せれば良いのにと毎回思ってしまう。私はため息をついて姿を見せない程度に窓へ近づくと従者へ贈り物を投げつけた。
「むぶっ!」
その贈り物は見事従者の顔に当たって慌てたように手を動かしている。
「毛皮…?ズビッ」
「アイシクルに生息する動物の毛皮を加工したものです。私には必要ないので貴方が使うといいでしょう。手紙は入り口前に置いておきなさい」
「あ、ありがとうございます」
従者は暖かそうに毛皮を抱える。そしてしゃがむと入り口にイグニからの手紙を置いた。
「立ち去る前にイグニ様から伝言がございます」
「何でしょう?」
「本日ヒートヘイズの国王がアイシクル領へと足を運びます。事前にフロス様に伝えておくようにとのことでした」
「ヒートヘイズの国王が…?」
「それではワタクシはこれで失礼します。毛皮、感謝いたします」
あっという間に温まったのか普通に喋れるようになった従者は綺麗に一礼をして氷の塔に背を向ける。途中、氷の地面で転けたけど見なかったことにしよう。
私は従者の姿が見えなくなったのを確認して氷の塔を降りていく。久しぶりに下層まで降りた気がした。最後に下層に降りたのはイグニの自画像を氷漬けにした時だ。あれは完全に呪物。
私は氷の塔の扉を開けて地面を見れば赤と金色のハンカチの下に1通の手紙が置かれていた。
『雪女様へ』
「手紙でも雪女呼ばりですか」
なんかムカっときたけど私は首を振って氷の塔の自室へ戻る。そしてすぐにイグニからの手紙を開いた。
『お久しぶりです。ヒートヘイズの王子イグニです。今回は急な手紙になってしまい申し訳ありません。僕が前へと進むため、勝手ながら想いを伝えさせてください。
僕、イグニは雪の女神フロス様が好きです。この気持ちには偽りは無いと信じています。雪女様はきっと僕の顔もよくわからないだろうし、この関係は僕が思っている以上に浅いと自覚しております。それでも僕は貴方のことが好きです。
もしこの想いが伝わったのであれば3日後の夜、氷の塔の扉の前で待っていてくれませんか?僕の我儘を聞いて欲しいです。
イグニより』
初めて手紙を寄越したと思えば本当に自分勝手な内容だ。しかしそれ以上に心配が来てしまう。文面から強いほど伝わったイグニの想い。でも私がそれに応えれる気はしなかった。
テーブルに置いた手紙の文字をなぞるように触る。私はイグニが想像しているほど綺麗ではない。
もし想いに応えたとしたら?その前に私はイグニを好きなのか?勢いで任せて良い選択ではないのはわかっている。
「イグニ…」
私の回答は、NOだ。
雪の女神としての寿命からしたら7日なんて1日と変わらない。でもあのうるさい声が外から聞こえないだけでここ一帯はとても寒かった。
「ん?」
すると突然、氷の塔周辺に気配を感じる。私は窓を溶かして外を見ると1人の人間が凍えながら塔にやってきた。
「ズビッ、ズビッ」
下品なくらいに鼻を啜る男。イグニの従者だ。しかし不思議なことに彼1人しか居ない。
いつものように体を震わせておぼつかない足取りで氷の塔の下までやってくると私に向かって声をかけた。
「イグ…ズビッ、イグニざまの従者でありまず!イグニざまのご命令で雪の女神フロズざまにお手紙を渡しに来まじだ!ズビッ」
歯をガクガクと震わせながら一生懸命に声を出す従者。彼はいつもこんな感じで凍えているのになぜイグニと来るのだろうと首を傾げていた。
それなら交代で来ている女の子に任せれば良いのにと毎回思ってしまう。私はため息をついて姿を見せない程度に窓へ近づくと従者へ贈り物を投げつけた。
「むぶっ!」
その贈り物は見事従者の顔に当たって慌てたように手を動かしている。
「毛皮…?ズビッ」
「アイシクルに生息する動物の毛皮を加工したものです。私には必要ないので貴方が使うといいでしょう。手紙は入り口前に置いておきなさい」
「あ、ありがとうございます」
従者は暖かそうに毛皮を抱える。そしてしゃがむと入り口にイグニからの手紙を置いた。
「立ち去る前にイグニ様から伝言がございます」
「何でしょう?」
「本日ヒートヘイズの国王がアイシクル領へと足を運びます。事前にフロス様に伝えておくようにとのことでした」
「ヒートヘイズの国王が…?」
「それではワタクシはこれで失礼します。毛皮、感謝いたします」
あっという間に温まったのか普通に喋れるようになった従者は綺麗に一礼をして氷の塔に背を向ける。途中、氷の地面で転けたけど見なかったことにしよう。
私は従者の姿が見えなくなったのを確認して氷の塔を降りていく。久しぶりに下層まで降りた気がした。最後に下層に降りたのはイグニの自画像を氷漬けにした時だ。あれは完全に呪物。
私は氷の塔の扉を開けて地面を見れば赤と金色のハンカチの下に1通の手紙が置かれていた。
『雪女様へ』
「手紙でも雪女呼ばりですか」
なんかムカっときたけど私は首を振って氷の塔の自室へ戻る。そしてすぐにイグニからの手紙を開いた。
『お久しぶりです。ヒートヘイズの王子イグニです。今回は急な手紙になってしまい申し訳ありません。僕が前へと進むため、勝手ながら想いを伝えさせてください。
僕、イグニは雪の女神フロス様が好きです。この気持ちには偽りは無いと信じています。雪女様はきっと僕の顔もよくわからないだろうし、この関係は僕が思っている以上に浅いと自覚しております。それでも僕は貴方のことが好きです。
もしこの想いが伝わったのであれば3日後の夜、氷の塔の扉の前で待っていてくれませんか?僕の我儘を聞いて欲しいです。
イグニより』
初めて手紙を寄越したと思えば本当に自分勝手な内容だ。しかしそれ以上に心配が来てしまう。文面から強いほど伝わったイグニの想い。でも私がそれに応えれる気はしなかった。
テーブルに置いた手紙の文字をなぞるように触る。私はイグニが想像しているほど綺麗ではない。
もし想いに応えたとしたら?その前に私はイグニを好きなのか?勢いで任せて良い選択ではないのはわかっている。
「イグニ…」
私の回答は、NOだ。
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