49 / 49
最終話 あの災厄のおひめさま
しおりを挟む
朝起きたらみんなが洞穴の入り口に集まってざわめいていた。昨夜入口のそばで暖を取っていた若いノル・ズーの姿が見えないと言うのさ。
「朝早く一人で発ったんじゃないのかい」
私が言うと、太ったエーデが首を振ってこわごわ森のとっつきを指差した。血が点々と落ちていて、引き裂かれたような衣服の残骸も散らばっていた。
「早く助けに行ってあげてよ」
一行のうちで一番若いドーデが言った。
「助けられるわけないだろ。どっちにしても昨夜のうちに何もかも終わったに違いないよ」
と私が言った。
「あの子がエマをもたぬ者ならイザリ虫の餌食になっちまったんだろうし、エマをもつ者なら翼をもつ者に犯されちまったんだろう」
と、白髪交じりのレダがうなずいた。
「エマをもつむすめがこんな所にいるはずもないけどね」
と小柄なデルダが言った。
「あの災厄のおひめさまじゃないのかい」
太ったエーデが言った。
「それだ、きっと。トイで隠していたけれど、手首がどす黒い痣になっていたもの」
小柄なデルダの言葉を聞いて、みんな一斉に騒ぎ出した。
「あんたも見たのかい。私も気づいたよ」
「そのおひめさまはとても狂暴だからいつも腕を縛られていたんだろ?」
「そういえば、なんだかそぶりが怪しかったね。狂暴な感じではなかったけど」
「あのおひめさまは何と言ったっけ」
「クフベツさまだろう。オルさまを殺してお城を逃げだした……」
「アーユーラもそれきり姿を消したって」
「どこでどうしているのかね」
アーユーラという名前を聞いたのは久しぶりだった。ちりッと胸が痛んだ。今でもあの子を世界で一番愛してた。私は急いで話をそらそうとした。
「この頃は卵祭りと言ったって、おひめさまが全員そろってることなんてないじゃないか。クデカの都以外のどこかで、おとうさま以外のラ・ズーと結婚するおひめさまもいるってことじゃないのかね」
「どこかで卵を産んでるってこと?」
と一番若いドーデが聞いた。
「そうだとしても不思議はないやね」
「なんだかんだ言ってもオルさまの力は大きかったからね。亡くなるまでは悪く言う者もいたけど」
と小柄なデルダが言った。
「悪く言ってたのは自分じゃないのかい」
白髪交じりのレダが横から茶々を入れた。みんなくすくす笑った。
「なんにしろ、今年こそ卵を拾いたいもんだ」
と太ったエーデが言った。
「クフベツさまが、たくさん卵を産むといいね」
とみつくちのネルデが言った。
(完)
「朝早く一人で発ったんじゃないのかい」
私が言うと、太ったエーデが首を振ってこわごわ森のとっつきを指差した。血が点々と落ちていて、引き裂かれたような衣服の残骸も散らばっていた。
「早く助けに行ってあげてよ」
一行のうちで一番若いドーデが言った。
「助けられるわけないだろ。どっちにしても昨夜のうちに何もかも終わったに違いないよ」
と私が言った。
「あの子がエマをもたぬ者ならイザリ虫の餌食になっちまったんだろうし、エマをもつ者なら翼をもつ者に犯されちまったんだろう」
と、白髪交じりのレダがうなずいた。
「エマをもつむすめがこんな所にいるはずもないけどね」
と小柄なデルダが言った。
「あの災厄のおひめさまじゃないのかい」
太ったエーデが言った。
「それだ、きっと。トイで隠していたけれど、手首がどす黒い痣になっていたもの」
小柄なデルダの言葉を聞いて、みんな一斉に騒ぎ出した。
「あんたも見たのかい。私も気づいたよ」
「そのおひめさまはとても狂暴だからいつも腕を縛られていたんだろ?」
「そういえば、なんだかそぶりが怪しかったね。狂暴な感じではなかったけど」
「あのおひめさまは何と言ったっけ」
「クフベツさまだろう。オルさまを殺してお城を逃げだした……」
「アーユーラもそれきり姿を消したって」
「どこでどうしているのかね」
アーユーラという名前を聞いたのは久しぶりだった。ちりッと胸が痛んだ。今でもあの子を世界で一番愛してた。私は急いで話をそらそうとした。
「この頃は卵祭りと言ったって、おひめさまが全員そろってることなんてないじゃないか。クデカの都以外のどこかで、おとうさま以外のラ・ズーと結婚するおひめさまもいるってことじゃないのかね」
「どこかで卵を産んでるってこと?」
と一番若いドーデが聞いた。
「そうだとしても不思議はないやね」
「なんだかんだ言ってもオルさまの力は大きかったからね。亡くなるまでは悪く言う者もいたけど」
と小柄なデルダが言った。
「悪く言ってたのは自分じゃないのかい」
白髪交じりのレダが横から茶々を入れた。みんなくすくす笑った。
「なんにしろ、今年こそ卵を拾いたいもんだ」
と太ったエーデが言った。
「クフベツさまが、たくさん卵を産むといいね」
とみつくちのネルデが言った。
(完)
0
お気に入りに追加
8
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
チョロイン2人がオイルマッサージ店でNTR快楽堕ちするまで【完結】
白金犬
ファンタジー
幼馴染同士パーティーを組んで冒険者として生計を立てている2人、シルフィとアステリアは王都でのクエストに一区切りをつけたところだった。
故郷の村へ馬車が出るまで王都に滞在する彼女らは、今流行りのオイルマッサージ店の無料チケットを偶然手に入れる。
好奇心旺盛なシルフィは物珍しさから、故郷に恋人が待っているアステリアは彼のためにも綺麗になりたいという乙女心からそのマッサージ店へ向かうことに。
しかしそこで待っていたのは、真面目な冒険者2人を快楽を貪る雌へと変貌させる、甘くてドロドロとした淫猥な施術だった。
シルフィとアステリアは故郷に戻ることも忘れてーー
★登場人物紹介★
・シルフィ
ファイターとして前衛を支える元気っ子。
元気活発で天真爛漫なその性格で相棒のアステリアを引っ張っていく。
特定の相手がいたことはないが、人知れず恋に恋い焦がれている。
・アステリア(アスティ)
ヒーラーとして前衛で戦うシルフィを支える少女。
真面目で誠実。優しい性格で、誰に対しても物腰が柔らかい。
シルフィと他にもう1人いる幼馴染が恋人で、故郷の村で待っている。
・イケメン施術師
大人気オイルマッサージ店の受付兼施術師。
腕の良さとその甘いマスクから女性客のリピート必至である。
アステリアの最初の施術を担当。
・肥満施術師
大人気オイルマッサージ店の知らざれる裏の施術師。
見た目が醜悪で女性には生理的に受け付けられないような容姿のためか表に出てくることはないが、彼の施術を受けたことがある女性客のリピート指名率は90%を超えるという。
シルフィの最初の施術を担当。
・アルバード
シルフィ、アステリアの幼馴染。
アステリアの恋人で、故郷の村で彼女らを待っている。
【R18 】必ずイカせる! 異世界性活
飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。
偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。
ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる