エマをもつむすめ

ぴょん

文字の大きさ
上 下
31 / 49

卵が邪魔だからに決まってるだろ

しおりを挟む
デグーが塔のてっぺんに着いた時、横たわったおひめさまの周りを翼をもつ者ラ・ズーたちが取り巻いていた。卵が生まれてくるたびに、一つ一つ取り上げては下の広場めがけて投げ落としている。おひめさまの腹はぺしゃんこにしぼんで、もうほとんどの卵を産み尽くしたらしかった。

「おい、なんで翼のない奴らに卵なんて投げてやってんだ?」
デグーはそばにいた翼をもつ者ラ・ズーに聞いた。
「卵が邪魔だからに決まってるだろ」
「邪魔って、何の?」
「お前、卵祭りは初めてか?」
痩せこけたラ・ズーがデグーをじろりと見て言った。
「ああ、まあな」
デグーは言葉を濁した。
「しばらく前から北の森に棲んでるんだけど、城には近づかないことにしてたんだ」
「へえ、なんで?」
「まあ、トラウマってやつかな。タチの悪い翼をもたぬ者ノル・ズーに殺されかけたもんでね」
「ノル・ズー? あの弱虫どもにか?」
「背中から不意に射られたんだ。その傷が長いこと治らなかった」
「そんなとこだと思ったよ。奴らは頭だけは回るからな。まったく汚い真似をしやがるぜ」
「ああ。力もないくせに、俺たちをうまく利用して世の中を回してるつもりでいやがる」
そばにいた小柄なラ・ズーが話に加わってきた。めったに群れないラ・ズーがこんな雑談で時間を潰しているところを見ると、これからよほど面白いことでもあるらしい。
「北の森って言うと、何年か前ノラエマがうろついてただろ」
小柄なラ・ズーが言うと、痩せこけたラ・ズーは
「俺もヤッたことあるぜ」
と言ってニヤリと笑った。
「ノラエマって何だ?」
とデグーは聞いた。
「城にいないで外をうろついてるエマをもつむすめラ・エマのことを、俺たち北の森のラ・ズーは野良エマって呼ぶんだよ」
ラ・ズーどもは下品に笑った。
「城でエマをもつむすめラ・エマを囲い込むようになって、最近野良エマはめったにいない。みんな血眼になって探してるんだ」
「知ってるか? あいつ、卵祭りの時に祭壇に立って偉そうに演説する奴だぞ」
と痩せこけたラ・ズーが言った。
「えっ、あいつだったのか。最近森に姿を現さなくなったから卵でもできたのかと思ったぜ」
と、小柄なラ・ズー。
「あの偉そうな翼をもたぬ者ノル・ズーなら、俺もヤッたぜ」
デグーはうっかり口を滑らせた。
「へえ、いつ?」
「いや、しばらく前……」
デグーはあわてて言葉を濁した。久しぶりにヤッたら興奮しすぎて殺しちまったなんて言ったら、『もったいないことしやがって』とボコボコにされるかもしれない。

あのクソ生意気なラ・エマ、説教しながら感じてやがったな……思い出すと背中にぞくっと快感が走った。
(死ぬ時にイキやがった)
がっちり締め付けてくるエマの感触を反芻すると、残虐な悦びで首筋がちりちりと粟立った。
(さっきのラ・エマはもったいないことをしたが、おとうさまになればおひめさまを独り占めできるんだから問題ない。さっさと塔の中に入れる扉とやらを探してこっそり潜り込まないと……)
目で扉を探しながらデグーはクフベツさまのことを考えた。

七年もほったらかしにしといた俺を、クフベツは恨んでいるだろうか……。
(翼をもたぬ者の『社会』とかいう、お前を囲い込んでいる壁が怖かった。幼いお前には頼もしく見えただろうが、俺はそんなに強くない。この七年間、お前はおひめさまとして、翼をもたぬ者たちに大切にされてきたんだろう。俺のことなんか、もう相手にしてくれないんじゃないのか?)
そう思うと少し会うのが怖かった。
(いや、あいつなら許してくれるさ)
とデグーは思った。あんなに何度も愛し合ったじゃないか。「パパ、エマが熱い」とおねだりしてきたあどけない声を思い出すとエマが硬くなった。
(子供の時もかわいかったけど、どんなにきれいになっただろう……)
そう、ラ・エマはみんな美しい。異性を引きつけるためだろうね。
(おとうさまになったら、クフベツだって俺を見直すさ。汚い手を使ったかどうかなんて、問題じゃない。そうとも、俺は運が強い。すべて失ったと思っていたのに、もう一度クフベツと結婚できるんだ)

「しかしお前、射られてよく無事だったな」
痩せこけたラ・ズーはおひめさまから目を離さずに言った。
「ああ、俺はよほど運が強いんだろうな。その前にも雨にうたれて死にかけたけどこうして生き延びてる」
「そりゃよかったな」
痩せこけた翼をもつ者ラ・ズーはあまり興味なさそうに言ってニヤリと笑った。
「それよりもうすぐ面白いことが始まるんだ」
小柄なラ・ズーが翼の下にくくりつけていたツンガの袋からエマニの実を取り出してかじった。
「あれ、その実……」
デグーは驚いて声を上げた。
「城に献上する前に、みんな少しくすねて持っておくんだよな」
と痩せこけたラ・ズーが言った。
「全部出せって言われたけど、バレるわけない。好奇心で一度食べると病みつきになっちまうんだよ」
と、小柄なラ・ズー。
「わかるわかる。俺も持ってるぜ」
デグーが言うと、
「お前もかよ」
小柄なラ・ズーがゲラゲラ笑った。
「じゃ、今食べとけよ。もうすぐいいことが始まるんだから」
「いいことって?」
「ここで待ってれば分かるさ。しゃべってたら他の連中に先を越されちまうからもう話しかけるな」

『いいこと』というのが何か気になったが、デグーはそれ以上そいつにかまうのはやめて扉を探した。おとうさまになること以上にいいことなんてないだろうし、グズグズしてるとそれこそ他の連中に先を越されてしまう。
扉はすぐに見つかった。誰にも気取られないうちにと、デグーは急いで体を塔の中に滑り込ませた。暗がりに慣れていない目が一瞬くらんだ。

はるか下の方から、おとうさまのものらしい獣じみた唸りと、おひめさまのものらしいあられもない嬌声が聞こえてくる。今年結婚したハルマヤさまだろう。

デグーはふわりと身を躍らせると、一息に塔の底部まで降り立ち、おひめさまに気を取られているおとうさまの背後から忍び寄った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...