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第二章「セントエクリーガ城下町」

第五十八話「傷・勲章」

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「じゃあコレ、武器の登録に使う書類な!」

 ユバルさんは奥の方から机を引きずり出し、その上に何枚かの書類を置いた。
 俺は渡されたペンで中身を適当に埋めていく。

 書類関係はもうこれで最後にしてほしい。


「登録までは一週間かかるが、その時スーツも一緒に渡せると思うぞ!」
「代わりの服はサービスしてやるから、そこの値引きしてある棚からテキトーに選べ!」

 ユバルさんは俺が書類を埋め終わったのを確認すると、雑貨が並んでいる棚を指差した。

 てっきり今日中にスーツは直せる物だと思っていたが、よく考えたら時間がかかるのは当然だ。
 とはいえ、値引きだろうとなんだろうと代わりの服をもらえるのは嬉しい。

「いただきます!」

 俺は大げさにお礼を言うと、笑顔で棚に近づく。

 仕事着に使えるような防御力高めの装備がいいな……


 [超速乾性素材!!]
 [何度、洗濯しても新品同様!]
 [どんなに動いても身体にフィットする伸縮素材!]
 [……]


 棚に書いてある衣類には防御力という単語が一切無い。
 棚の反対側を見ても、それは同様だった。

「ユバルさーん」
「何か防具みたいなのってないんですか?」

 俺がそう言うと、ユバルさんは先程サイズ変更を頼んだ靴を持って奥の方から出てきた。

「お前、何言ってん……」
「あぁ、そう言えば甦人って書いてあったな」
「……見せた方が早いか」

 ユバルさんはそう言い残して奥の方に姿を消すと、見るからにボロボロなナイフを持って出てきて俺に向かって手招きをした。

 俺は少し警戒しながらユバルさんに近づく。


「これで、俺の腕を切り落としてみろ」

 ユバルさんはそう言って俺にナイフを渡す。

 俺は良く分からずそれを受け取り、そのナイフの刃をじっくり眺める。

 おもちゃでは無さそうだし、見た目はボロボロであっても刃こぼれは無い。


「……本気ですか?」

 俺はそう言いながらもユバルさんに向かってナイフを向けた。

 ノアの弟ならば、たぶん聞くだけ無駄だ。

「ああ、本気だ!」
「全力で振り下ろせよ!」

 ユバルさんは右腕をまくり、俺の目の前に突き出す。

 その腕を見るまではメチャクチャ手加減しようと思ったが、たぶん大丈夫そうだ。


 俺は肘を曲げると共に手首をしならせ、ナイフが耳をかすめるところまで振りかぶる。

 そしてユバルさんの太い前腕にめがけて全力で振り下ろした。


 ギリンッ

 思った通り、ナイフはユバルさんの前腕に触れるやいなや、ビタッと止まった。
 そして1秒後に一筋の血がツーっと垂れる。

「おぉ、意外とやるな」

 ユバルさんは俺の手からナイフを受け取り、ナイフについた血を拭きながら奥の部屋に戻ると、ナイフを置いて直ぐに戻ってきた。

 ユバルさんの言いたい事、なぜこの店、いや、なぜこの世界に防具という概念が存在しないのかなんとなく分かった気がする。

 ならもうスーツが仕事着でもいいじゃん。
 俺、汗かかないし……
 ボロくなったらユバルさんに直してもらえるし……

「それ、痛くないんですか?」

 俺はユバルさんの腕を指差す。

 いくら軽傷に見えても、痛そうだ。

「まぁ、最初はかなり痛いが、100回ぐらい斬られれば意外と慣れるな」
「傷ももう元通り!」

 ユバルさんは右腕に付いた血を左手で拭い、俺に見せた。

 血は完全に止まっていて傷口も見えない。

「……とは言っても、死ぬぐらいの深い傷は消えないから顔には攻撃を受けるなよ」
「葬式でお前の顔を見る奴が、お前って分からなくなるからな!」
「ガッハッハッハッ!」

 ユバルさんはなぜか高笑いをする。

 たしか、カイの身体は傷だらけだったが顔には傷がなかった。

 やっぱりあれは見せかけでは無かったんだ。


 まだあそこに残っていてくれれば……


 その後は考え事をしていて買い物のことは上の空だった。
 靴を試着し、ユバルさんから動きやすそうなパーカーと厚手のスウェットをもらい、一週間後にまたここに来る約束をして、気づいたら店を出ていた。

 元々履いていた靴はユバルさんに処分してもらい、カイの靴はレゼンタックで貰った紙袋の中に入っている。


 ユバルさんのお店で使ったのは、武器、靴、ポーチ、合わせて丁度500ギニーだった。
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