85 / 244
第二章「セントエクリーガ城下町」
第四十八話「礼儀」
しおりを挟む
「……そういえば、図書館とかってこの町にある?」
「あったらその地図に書いてほしいんだけど……」
「あぁ、あとデリカサンドって店も」
俺は先程スーツの懐に入れた地図を再び取り出し、ノアに差し出した。
ノアは一瞬、地図を受けとる素振りを見せたが直ぐに手をひっこめた。
「それだったらトレバーに聞け!」
「お前、話すきっかけが無いと、どうせ話し掛けないだろ!」
俺はドキッとして咄嗟にノアに苦笑いを返し、4階を後にした。
……完全なる図星だ。
階段を下りながら、これからこの段差を上り下りする日々が始まると想像していると、この仕事がさっそく嫌になってきた。
一階に着き、朝トレバーさんがいた場所の職員用ドアを恐る恐る開け中を覗くと奥の方で資料整理をしているトレバーさんの姿が見えた。
一応<猫足>が発動していない事を確認してからトレバーさんに近づく。
「あのー、トレバーさんちょっといいですか?」
俺はトレバーさんから1mほど離れた所から声をかける。
先程のノアの話を聞く限り、トレバーさんは俺の事を嫌ってはいないが、あまり良く思っていないことは確実だ。
「アレンさん、どうかしましたか?」
トレバーさんは笑顔で振り返ったが、先程の話を聞いた後だと、その表情は薄っぺらく感じる。
しかし、どこかシンパシーのような物も感じることが少し不思議だ。
「そのー、図書館とデリカサンドの場所を教えてもらいたいんですけど……」
俺はそういいながら地図を胸元から取り出し、トレバーさんに渡した。
「……はい、わかりました!」
そう言うとトレバーさんは空中で地図を開き、一瞬も迷わず地図に印を書き込む。
職人技だ。
「おぉ……」
「あ、ありがとうございます」
俺は呆気にとられながらも地図をトレバーさんから受け取る。
トレバーさんは笑顔を俺に向けると、直ぐに仕事に戻った。
さて、次はヒナコと合流しよう。
俺はその場を立ち去ろうと振り返ったが、一瞬考えた後、その場で止まり、再びトレバーさんに近づいた。
「これからよろしくお願いします!」
俺はトレバーさんに向かって深くお辞儀をする。
トレバーさんは俺に背を向けて仕事をしているが、多分、俺の動きはこの空間を出るまで一挙一動、把握しているだろう。
「はい、こちらこそお願いします」
顔を上げるとトレバーさんが軽く顔を下げながら笑顔を向けている。
先程の笑顔よりは柔らかくなった気もするが、気のせいかもしれない。
まぁ、でも最初はこんなものだろう。
俺はもう一度トレバーさんにお辞儀をしてからその場を後にする。
なぜこんな面倒な事をしたのかは自分でも不思議だった。
「あったらその地図に書いてほしいんだけど……」
「あぁ、あとデリカサンドって店も」
俺は先程スーツの懐に入れた地図を再び取り出し、ノアに差し出した。
ノアは一瞬、地図を受けとる素振りを見せたが直ぐに手をひっこめた。
「それだったらトレバーに聞け!」
「お前、話すきっかけが無いと、どうせ話し掛けないだろ!」
俺はドキッとして咄嗟にノアに苦笑いを返し、4階を後にした。
……完全なる図星だ。
階段を下りながら、これからこの段差を上り下りする日々が始まると想像していると、この仕事がさっそく嫌になってきた。
一階に着き、朝トレバーさんがいた場所の職員用ドアを恐る恐る開け中を覗くと奥の方で資料整理をしているトレバーさんの姿が見えた。
一応<猫足>が発動していない事を確認してからトレバーさんに近づく。
「あのー、トレバーさんちょっといいですか?」
俺はトレバーさんから1mほど離れた所から声をかける。
先程のノアの話を聞く限り、トレバーさんは俺の事を嫌ってはいないが、あまり良く思っていないことは確実だ。
「アレンさん、どうかしましたか?」
トレバーさんは笑顔で振り返ったが、先程の話を聞いた後だと、その表情は薄っぺらく感じる。
しかし、どこかシンパシーのような物も感じることが少し不思議だ。
「そのー、図書館とデリカサンドの場所を教えてもらいたいんですけど……」
俺はそういいながら地図を胸元から取り出し、トレバーさんに渡した。
「……はい、わかりました!」
そう言うとトレバーさんは空中で地図を開き、一瞬も迷わず地図に印を書き込む。
職人技だ。
「おぉ……」
「あ、ありがとうございます」
俺は呆気にとられながらも地図をトレバーさんから受け取る。
トレバーさんは笑顔を俺に向けると、直ぐに仕事に戻った。
さて、次はヒナコと合流しよう。
俺はその場を立ち去ろうと振り返ったが、一瞬考えた後、その場で止まり、再びトレバーさんに近づいた。
「これからよろしくお願いします!」
俺はトレバーさんに向かって深くお辞儀をする。
トレバーさんは俺に背を向けて仕事をしているが、多分、俺の動きはこの空間を出るまで一挙一動、把握しているだろう。
「はい、こちらこそお願いします」
顔を上げるとトレバーさんが軽く顔を下げながら笑顔を向けている。
先程の笑顔よりは柔らかくなった気もするが、気のせいかもしれない。
まぁ、でも最初はこんなものだろう。
俺はもう一度トレバーさんにお辞儀をしてからその場を後にする。
なぜこんな面倒な事をしたのかは自分でも不思議だった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強武将と共に超大国を創る
瀬戸夏樹
ファンタジー
時は乱世。
ユーベル大公国領主フリードには4人の息子がいた。
長男アルベルトは武勇に優れ、次男イアンは学識豊か、3男ルドルフは才覚持ち。
4男ノアのみ何の取り柄もなく奇矯な行動ばかり起こす「うつけ」として名が通っていた。
3人の優秀な息子達はそれぞれその評判に見合う当たりギフトを授かるが、ノアはギフト判定においてもハズレギフト【鑑定士】を授かってしまう。
「このうつけが!」
そう言ってノアに失望した大公は、ノアを僻地へと追放する。
しかし、人々は知らない。
ノアがうつけではなく王の器であることを。
ノアには自身の戦闘能力は無くとも、鑑定スキルによって他者の才を見出し活かす力があったのである。
ノアは女騎士オフィーリアをはじめ、大公領で埋もれていた才や僻地に眠る才を掘り起こし富国強兵の道を歩む。
有能な武将達を率いる彼は、やがて大陸を席巻する超大国を創り出す。
なろう、カクヨムにも掲載中。
転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます
藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!
2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です
2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました
2024年8月中旬第三巻刊行予定です
ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。
高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。
しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。
だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。
そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。
幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。
幼い二人で来たる追い出される日に備えます。
基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています
2023/08/30
題名を以下に変更しました
「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」
書籍化が決定しました
2023/09/01
アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります
2023/09/06
アルファポリス様より、9月19日に出荷されます
呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております
2024/3/21
アルファポリス様より第二巻が発売されました
2024/4/24
コミカライズスタートしました
2024/8/12
アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です
一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~
島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!!
神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!?
これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる