十条先輩は、 ~クールな後輩女子にだけ振り向かれたい~

神原オホカミ【書籍発売中】

文字の大きさ
上 下
46 / 48
第6章

第44話

しおりを挟む
 書記の引継ぎ作業のため、授業が終わると累は一香を連れて生徒会室に向かっていた。
 昨日までは嬉しそうにしていたのに、今日の一香はがっくし肩を落として背中を丸め、目立たないようにしている。
 せっかく憧れの月日と会えるというのに、覇気がない。
 生徒会室に到着する前に、累は一香の背中をドカンとたたく。

「痛っ!」
「いい加減、背筋伸ばしなよ。十条先輩いるんだから」

 一香ははあっと息を吐くと、言われた通りに背中を伸ばす。ボキボキと音が鳴った。

「ごめんね、山田さん。いつも迷惑ばかりかけちゃって」
「うん、ほんとそれ」
「……オブラートに少しはくるんでくれてもいいのに」
「そういうの面倒くさい」

 累は扉に手を伸ばして挨拶とともに開ける。中にはすでに来ていた月日が仕事をしていた。

「白川先輩は、今日は来ていないんですか?」
「大輔は用事があるから帰ったよ。俺が引き継ぎするね」

 乙女モード封印中の月日は、至極まともな男子生徒に見える。

「じゅ、十条先輩が、引継ぎっ!?」

 ぶるぶる震え始めた一香に、もう一発類が背中に手のひらをお見舞いする。にらみながら見上げると、一香はごめんと呟いた。
 累は一香と月日が引き継ぎ作業をするのを、横で見守るに徹した。

(花笠くん、頑張ってる)

 会計の作業はないので、累は出されていた宿題をしながら二人を見ていた。
 丁寧かつ優しく一香に話をしている月日は、たしかに一香が緊張するのもわかるくらい美男子だ。
 人の容姿に特段興味が無い累も、きれいだと思う造形をしていた。

(ん、あれ、私……誰かを見てきれいとか思ったことないのに)

 みんながあまりにも月日のことを言うものだから、感化されたのかもしれない。
 ジーっと見ている累の視線に気づいた月日と、一瞬だけ目が合う。パッとそらされてしまい、累は指先で回していたペンの動きを止めた。

「あ……といけない。もうこんな時間だ……ちょっと抜けるけど、ここの作業をしておいてくれる?」
「十条先輩、まさか告白ですか?」

 累が尋ねると、月日は苦笑いしながら首肯した。

「最近めっきりなかったんだけどね」

 月日の王子様伝説は、すでに学校中に広まっている。いったん収まったのだが、怖いもの見たさなのか抑圧された反動なのか、ちょっとずつ回復しているらしい。

「いってらっしゃい」

 月日は任せて、と言いながら生徒会室を出て行った。
 扉が閉まると同時に、横から一香が大きなため息を吐く。まるで、今まで海中に潜っていたかのように、何度も空気を吸っては吐いてを繰り返した。

「ダメだ……やっぱりまだまだ緊張する」

 一香は累が差し出したコップを受け取ると、中に入っていた麦茶を一気飲みした。

「そういえば昼間、言いかけていたことってなんだったの?」

 累の問いかけに、一香はびくっと肩を震わせた。

「…………」
「今なら人もいないし、聞くけど」

 散々ためらうようなそぶりのあと、一香は累に向き直る。

「あのね、山田さん。ひかないで聞いてくれる?」
「聞いてから引くかどうか考えるのでもいい?」
「いや、それだと困るから」
「わかった。まずはきちんと聞くね」

 神妙な様子だったので、累はペンを置くと、麦茶の入ったカップを持って一香に向き直った。

「あのね、俺、多分……ある人に恋していると思う」

 累はカップを落っことしそうになった。それを一香が素早くキャッチする。

「あああああ、危ないってば、山田さん! 無表情のまま驚くのやめてよ、なんか怖い!」
「ごめん。ちょっとびっくりして」
「顔動かさないで驚くって、すごい特技だと思う……」
「それで、ええと、つまりは?」

 累が一香に話の続きを促すと、一香はコップを机の上に戻した。

「好きな人がいる、んだと思う」
「思う?」
「うん……確信が持てない」

 それに累はなるほど、と頷いた。

「恋愛をしたことないからわからない。でも、その人を見ると胸がドキドキするし、手を握った時は嬉しくて泣きそうになった」

 累は再度驚いたが、表情が動かなかったので一香に伝わったかどうかは不明だ。

「考えるだけで胸が張り裂けそうになるんだ」
「……へえ」
「これがどういうことかわからないから、ネットでいっぱい調べた」

 一香は携帯電話を取り出すと、ブックマークをしていたページを見せてくれる。
 累は無言でそれを見つめた。

 【胸のトキメキの正体は?】
 【あの人を見ると胸が苦しい。これって恋!?】
 【好きだって気づく五つの瞬間。あなたはすでに恋に落ちているかも?】

 インデックスを見てから、累は携帯電話を一香に返した。

「この恋愛サイトでは、キュンとかドキドキしたら、それは恋かもって書いてあるよ」
「たしかに書いてあるね」

 まさかの恋愛相談とは思っていなかった累は、今じわじわと困惑していた。

「初恋なんだ。だから、しっかり向き合いたいって思ってて」

 一香はそこまで話すと、うん、とこぶしを握り締めた。

「それでね、山田さん。図々しいお願いなんだけど、聞いてくれる?」
「聞くだけなら」
「あのね、もしよかったら俺の初恋を応援してほしいんだ」
「うん」

 断る理由はない。いくら面倒くさがりとはいえ、人の恋路を応援するくらいは累にもできる。

「恋バナしたの、初めてなんだ。聞いてくれてありがとう。山田さんに応援してもらえるなら、百人力な気がする!」
「……そう? そこまで向いているとは思えないけど」
「そんなことないよ!」

 一香は話をしてすっきりしたのもあり、口元をによによさせた。

「どうやって応援するかわからないけど、必要なことがあれば言って」

 ぱああ、と一香の表情が明るくなった。

「山田さんが味方でいてくれるなら、俺、告白しようと思ってて」
「え、いきなり!?」

 さすがに累は眉をひそめたが、一香は何度もうなずく。

「こういうのって、早いほうがいいってサイトにも書いてあったし」
「そうなんだ。なら、告白するのも応援するよ」
「ありがとう!」

 一香は累の両手を掴むと、ぶんぶんと上下に振り始める。
 そのタイミングで、告白を断るために王子様オーラで相手をぶっ倒してきただろう月日が戻ってくる。悩殺笑顔の片鱗をしまいきれておらず、ピカピカ光って見えた。
 上級生たちを混乱の中に陥れたあの事件を見ていた累は、血の気が引いた。一香に気を付けるよう言うより先に、月日が口を開く。

「ただいま……」
「ひぃっ――――!」

 あまりのオーラと美声に、一香は鼻血を吹いてぶっ倒れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】 ・第1章  彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。  そんな彼を想う二人。  席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。  所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。  そして彼は幸せにする方法を考えつく―――― 「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」  本当にそんなこと上手くいくのか!?  それで本当に幸せなのか!?  そもそも幸せにするってなんだ!? ・第2章  草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。  その目的は―――― 「付き合ってほしいの!!」 「付き合ってほしいんです!!」  なぜこうなったのか!?  二人の本当の想いは!?  それを叶えるにはどうすれば良いのか!? ・第3章  文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。  君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……  深町と付き合おうとする別府!  ぼーっとする深町冴羅!  心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!? ・第4章  二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。  期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する―― 「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」  二人は何を思い何をするのか!?  修学旅行がそこにもたらすものとは!?  彼ら彼女らの行く先は!? ・第5章  冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。  そんな中、深町凛紗が行動を起こす――  君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!  映像部への入部!  全ては幸せのために!  ――これは誰かが誰かを幸せにする物語。 ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。 作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!

モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~

くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。 初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。 そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。 冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか! カクヨム・小説家になろうでも記載しています!

善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~

みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。 入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。 そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。 「助けてくれた、お礼……したいし」 苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。 こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。 表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...