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第2章
第14話
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翌日、生徒会の新メンバーとして、掲示板に〈山田累〉の名前が張り出された。
彼女の名前を見た生徒の多くが、男子だと勘違いした。
「ちょっと累、どうしたのいきなり生徒会なんて!」
累の情報を入手した沙耶香は、早朝から累に駆け寄ってくるなり根掘り葉掘り聞こうとしてくる。
「白川先輩から、オファーされた」
「ええええ、直々に!?」
「うん」
沙耶香はぽかんと口を開けてから「すごい」と目を丸くする。
「それって、めっちゃすごいじゃん。なんで、いつから知り合いだったの!?」
きっかけは乙女口調の独り言を呟いているのを目撃したことだ。
しかし、月日は本性だという乙女な姿を、みんなに隠している。知られることを強く恐れている様子から、累はそのことを誰かに話すのはやめようと心に誓っていた。
人が嫌がることをしないというのは、生活をする上で基本中の基本だ。
「十条先輩が告白されているのに気づかなくて、横を通り過ぎちゃって」
「うわ、気まずいねそれ」
「それで、先輩に興味がないって言ったら、逆にそれがよかったみたい」
沙耶香は「そういうことね!」と顎に手を添えた。
「累くらいイケメンに興味がない人じゃなきゃ、生徒会の仕事なんてできないもんね!」
イケメンに興味がないわけではないのだが、という注釈を入れるとややこしくなるので、累はそのまま流した。
「あたしじゃ絶対無理だな、十条先輩に白川先輩……同じ空間にいたらそれだけで気絶しそう」
「そんなことないと思うけど」
累が見る限り、少々自意識過剰気味ではあるが、月日はいたって普通に見える。大輔も爽やかなイケメンだが、一緒にいて暑苦しくも堅苦しくもなかった。
「そう思えるのは、累がほんとうに十条先輩に興味がないからよ」
「うん、それは言えてる」
「累ならやっかみもなくて生徒会も平穏になりそう。今、派閥がすごいことになっているらしくって」
そんなに人気なのかと、月日のことを思い出そうとしたが、累には彼の詳細が思い出せないままだった。
その日の昼休み。
累は生徒会室に向かっていた。
大輔にメッセージアプリを通じで、食べきれないお菓子を持って行っていいといわれていたからだ。
寮の係員に頼んでカギを開けてもらおうと思ったが、すでに渡したといわれてしまった。大輔が来ているのかと思い、生徒会室にノックと同時に入った。
「――こんにちは」
「えっ!?」
中からは、花束に囲まれながらもらったお菓子をつまんでいる月日が、ひょこっと顔を向けてくる。
「こんにちは、十条先輩」
「あ、こ、こ……こんにちは」
尻すぼみになりながら挨拶すると、月日はなんだか顔を赤くしながらそっぽを向いてしまう。
累は月日とはちょっと離れたところに腰を下ろし、美味しそうな焼き菓子をもらっていいか尋ねた。
「……十条先輩、まだ私のこと信用していないんですか?」
「え?」
「だって、目をそらすし」
見つめると、月日は今度耳まで真っ赤になる。累は、そんなに自分のことが嫌なのかと思って、ほんの少しだけ身を引いた。
「そんなに信用できないですか?」
「ち、違うわよ……違うの、そういうんじゃないのよ」
「そうですか。ならよかったです」
累はふうと息を吐くと、また黙々と焼き菓子を口に入れた。気まずい沈黙の中、お菓子の袋を開ける音と、ポリポリとクッキーを咀嚼する音だけが響く。
マフィンを口に入れた月日が、甘すぎたのか眉根を寄せて口元を抑えた。
「困るくらいなら、もらわなきゃいいじゃないですか」
「だって可哀想でしょ、無下にするの」
「喜んでもらいたくて先輩に渡しているのに、それが先輩を困らせているって知ったら、誰もくれなくなりますよ」
月日はうーんと唸りながら、ブラックコーヒーでマフィンを流し込んでいた。
「私としては、おこぼれにあずかれるのはうれしいですけど。先輩こそ、甘いものばっかりだと糖尿病になりますよ」
「それがね、バランスよくしょっぱいものもくれたりするのよ。今回は、就任祝いだからすごいことになっちゃったけど……普段はこの三分の一以下よ」
三分の一以下だったとしても、そんなにもらっていたらきりがないのではと累は首を傾げた。
大輔いわく、どうにかする気があるということなので、それ以上は贈り物について突っ込むことはやめた。
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